ジャンプにおける<血筋>はどこから始まったか?

2016/12/28 6:48

こんにちは。僕は週刊少年ジャンプを1982年ごろ(「3年奇面組」が「ハイスクール!奇面組」に切り替わったのをうっすら覚えている)から読んでいる、いわゆる「ジャンプ黄金期」をまるっと経験した読者なのですが、この連載ではいま一度、そのあたりのマンガについて考え直してみようと思います。けっしてノスタルジー的な意味合いではなく、競争の激しい世界だったからこそ生まれたマンガ表現があるんじゃないか。そしてそれは後続のマンガ作品にも影響を与えていったんじゃないか。

いま普通に読んでいるマンガ表現も、どこかの時点で誰かが生み出したものには違いないわけですよね。で、それは他のマンガ家にも影響を与えていて、さまざまな形で応用されながら広がっていく。パクリとかじゃなく。もしかしたら当のマンガ家たちはあくまでも自分のアイデアだとずっと思っていて、影響を受けた・与えたという自覚もないのかもしれない。ここでは、そういうものを見つけてスポットライトを当ててみたい。

で、今回は、マンガによくある「ある設定」にスポットを当ててみようと思います。

ある程度マンガを読む人なら、ジャンプの三大要素が何であるか、誰でも答えられるんじゃないでしょうか。

友情・努力・勝利。

あまりにも有名すぎるので、いつ知ったのか思い出せないくらいなのですが、とりあえずジャンプのマンガはこの要素が何らかの形で反映されている、とされております。

ここからもう一歩踏み込んでみましょう。

ジャンプのマンガには、「友情・努力・勝利」に加えて、実はもう一つ隠れた要素が入っているのでは?と思ったことはありませんか。長年ジャンプを読んでいる人ならだいたいピンと来ていると思いますが。

それは「血筋」。

「血筋」でも「血統」でも、言い方は何でもよいのですが、ジャンプのマンガ、とりわけバトルマンガにおいては主人公の血筋がやたら優れていることが多い。親が、あるいは先祖がすでにめちゃめちゃ優れた能力を持っていて、それが主人公が人智を超えた強さを持っていることの理由になっている。

具体的に見ていくと、こんな感じ。

【ドラゴンボール・悟空】

親が戦闘種族・サイヤ人。

サイヤ人の王子であるベジータのほうが血筋はよいのでしょうが、そもそもサイヤ人である時点で、圧倒的なアドバンテージがあるわけで。

【ハンターハンター・ゴン】

父親がトップクラスのハンター。

【ワンピース・ルフィ】

父親が革命軍のリーダー。
最近、サンジまでめっちゃ血筋がよいことが判明しましたね。

【ダイの大冒険・ダイ】

父親が魔王軍最強の「竜の騎士」。

【ブリーチ・黒崎一護】

父親が元・護廷十三隊十番隊隊長。

【トリコ】

父親が美食神。

【幽遊白書・浦飯幽助】

途中まで庶民の出だと思っていたら、父親が魔界最強クラスの妖怪。

【NARUTO・ナルト】

途中まで庶民の出だと思っていたら、父親が火影。

【北斗の拳・ケンシロウ】

ケンシロウはリュウケンの養子だから血筋は関係ないだろう……と思っていたら、実際は「北斗神拳の創始者・シュケンの子孫」でした。終盤で出てきた設定なのですっかり忘れてた。

【遊☆戯☆王】

もはや「血」ではないけど、古代エジプトのファラオの魂を受け継いでる。

【シャーマンキング・麻倉葉】

日本有数のシャーマン一家の出身。

一つ一つは、そのマンガを読んでいた人なら「言われなくても知ってるよ」というものだと思いますが、こうやって並べてみるとやっぱり多いなーという印象。バトルマンガで長期連載されたものは、大半が血筋ものだと言っても過言ではない。ちなみに主人公が<非・血筋>のバトルマンガは、『聖闘士星矢』『るろうに剣心』『魁!!男塾』あたり。男塾(剣桃太郎)の場合は、努力でもなければ血筋でもない、究極のチートという気もしますが。

「ジョジョ」は血筋ものと言えば血筋ものなのですが、「設定として血筋が良い」というよりは、「第1部、第2部とシリーズを重ねながら、作品の中で血筋そのものを作り上げている」という作品なので、他の血筋ものとはちょっと性質が違う感じがします。

で、ジャンプマンガの定番となっているこの血筋ですが、「友情・努力・勝利」のように初期からあったものではないのです。ジャンプ最初のバトルマンガ(と言っていいかどうか微妙なところもありますが)『男一匹ガキ大将』は血筋ものではないし、バトルマンガらしいバトルマンガのさきがけ『リングにかけろ』も一応親がボクサーではあるけど、血筋ものと言えるほど決定的なものでもない。まあ、昔はバトルマンガ自体が少なかったのですが。

では、血筋ものはどこから始まったか?

ここで登場するのが、みんな知ってるあのマンガ。

そう、『キン肉マン』です。

主人公であるキン肉マン(キン肉スグル)が、キン肉星の王子であるということ。
これがジャンプのバトルマンガにおける<血筋>のルーツだと思うのです。

いやいや、ちょっと待て。

たしかにキン肉マンはキン肉星の王子ではあるが、初期は言うほど血筋をフィーチャーしていなかったのでは? そう思う人も多いはず。そのへん僕も気になったので、調べてみました。

キン肉マンのハチャメチャな強さの源泉と言えば、火事場のクソ力。
これが他の超人にとって「越えられない壁」となっているわけですが、じゃあ火事場のクソ力はいつから登場したか。

最初の登場は第20回超人オリンピックの決勝戦。キン肉マンがロビンマスクを破った後、解説のラーメンマンが「火事場のバカ力」という言葉でその勝因を説明しています。コミックスで言うと4巻(1980年9月15日初版)。

キン肉族の出身であることが強さのルーツになっていることが強調されたのは、黄金のマスク編。キン肉族が金のマスクと銀のマスクを管理することで、超人界のリーダー的存在になったことが描かれています。これが13巻(1983年9月15日初版)。

で、先に挙げた血筋もののバトルマンガのうち、連載期間が『キン肉マン』と近い年代のものについて調べてみると、『ドラゴンボール』で悟空がサイヤ人だと分かるのが17巻(1989年5月15日初版)。長期連載ではないけど、血筋ものと言える『ゴッドサイダー』は1987年連載開始、他の雑誌の血筋ものでは『孔雀王』が1985年連載開始。ということは、バトルマンガの血筋もののルーツは『キン肉マン』であり、それ以降、ジャンプが血筋ものの爛熟期を迎えるほどの影響力を有していた、と言ってよいのではないでしょうか。

じゃあ、なぜこれだけ血筋ものが増えていったのか?

まず考えられるのは、「人智を超えた力を持っていることの理由として分かりやすい・手っ取り早いから」。これはこれで合っていると思うのですが、しかしそれで全部説明できるほど単純でもないんじゃないか。

これは仮説なのですが、血筋もの隆盛の背景にあるのは、実は「連載の長期化」なのではないかと。

長いこと連載していくと、それだけ展開やネタにも困っていくわけで、そこに血筋を持ってくると「親の時代での因縁」「先祖が抱えていた宿命」などが加わって、ストーリーに奥行きが出て来る。血筋を本格的に持ってくるのは、連載がある程度の期間過ぎてからのことが多いというのも、連載の長期化が関わっていることの証左でしょう。

逆に言うと『キン肉マン』は、血筋もののルーツであるだけでなく、「長期連載において<血筋>でストーリーの幅を広げていく」という、後続のマンガにも影響を与えうる「発明」を成し遂げた作品であるとも言えるのではないでしょうか。

とかく『キン肉マン』は「設定の後付けが多いマンガ」だと言われがちで、それゆえに「ツッコミどころの多いマンガ」としても有名なわけですが、バトルマンガに血筋を本格導入して、その後、先に挙げたようなバトルマンガの名作の数々にも影響を与えた(とは作家本人は自覚してないかもしれないけど、出現タイミングを考えると何かしらの影響はあるのは明らか)ことを考えると、その功績は計り知れないものがあります。

ちなみにマンガという枠を離れて文学・神話などに目を向けてみると、血筋ものというのはわりと多く見られる類型です。特に『キン肉マン』は、

【高貴な血を引く者】が
【何らかの理由で捨てられて下々の世界で育ち】
【さまざまな困難を乗り越えて】
【王にふさわしい実力と栄誉を得ていく】

という点で、「オイディプス王」や「スサノオ伝説」「かぐや姫」にも通ずる貴種流離譚(きしゅりゅうりたん)の物語構造になっています。設定があれこれブレることで有名な『キン肉マン』ですが、この点では全然ブレてないのがさすがというか、不思議というか。これはゆでたまごが神話にならってストーリーを考えたということではなく(だって連載のきっかけになった読み切りは「泥酔したウルトラの父が不細工なホステスを押し倒して、それで産まれた私生児がキン肉マン」というめちゃくちゃな設定だったんだよ⁉︎)、「世界各国の神話や伝説はなぜか似通った構造を持つ」という現象の一例なんじゃないかと思います。

要は、『キン肉マン』すごい!と。

本当はここで話を終わってもよいのですが、もうちょっと続けたい。

「友情・努力・勝利」に「血筋」の要素が加わっているのは、別に努力の否定などではなくて、連載を長く続けていく上で必要なことだったと思うのですが、しかしこれだけ血筋ものが続くと、読者としては「なんだ、けっきょく血筋かよ」ということになってしまう。作家や編集部にその意図がなくても、「友情・努力・勝利」ではなく「血筋&勝利」と受け取られかねない。

最近のジャンプは大型連載が次々に終了しているわけですが、その中にあって、今後のジャンプの屋台骨を支えていくであろう二大連載『僕のヒーローアカデミア』と『ワールドトリガー』の主人公が二人とも<非・血筋>であること、しかも平均以下の能力しかないのでは?というくらい非エリートなのは、それまでの血筋ものの隆盛と無関係ではないような気がします。

【僕のヒーローアカデミア・緑谷出久】

 

【ワールドトリガー・三雲修】

二人とも<非・血筋>なだけじゃなく、そもそも見た目からして弱そう。

今回の話は以上です。

最後に、個人的に<非・血筋>最大のヒーローだと思う、この人の名言でお別れしましょう。

 

ではまた次回。

「主人公の血筋がいい漫画」についてもっと知りたい&語りたい人はマンバへ

自由広場 主人公の血筋がいいマンガ

マンバ通信に新しい記事「ジャンプにおける<血筋>はどこから始まったか?」が掲載されました! ジャンプ漫画といえば友情努力勝利が三大要素としてよく挙げられますが実は血筋がいいキャラクターが多いとか そんな血筋のいい主人公が登場する漫画があればぜひ教えてください〜! https://magazine.manba.co.jp/2016/12/28/genryu-chisuji/

前田隆弘
顔のこわさに定評のある編集者。広域指定編集業。著書に、同世代のクリエイターたちに「今の死生観」を聞いた「何歳まで生きますか?」(パルコ)がある。幼少期に読んだ「とどろけ!一番」の影響で、物心ついたときから「右手に鉛筆・左手に消しゴム」というスタイルで勉強してました。