筋肉の時代

2017/02/10 2:46

前回に引き続き、「キン肉マン」のことを考えていたのですが。

小学生時代に「キン肉マン」ブームを経験した男子って、「キン肉マン」の模写はもちろん、どんなキャラクターを描いても筋肉ムキムキになりませんでした? 自由帳に描くオリジナルのキャラクターが筋肉ムキムキ。図工の時間に描く絵が筋肉ムキムキ。

もちろん「キン肉マン」が流行っていたからではありますが、あの現象ってつまり、「小学生が【筋肉を描く快楽】に目覚めてしまった」ということなのでは?とも思うのです。

というか、「キン肉マン」以前にあれだけ筋肉ムキムキのキャラクターが活躍するマンガはあったのか? ちょっと調べてみました。

プロレスものでまず思い浮かぶのが、「タイガーマスク」(1968〜1971)。虎の穴で鍛えられた肉体は、たしかに筋肉質。でもムキムキというよりは「引き締まった肉体」という感じ。実在するレスラーをモデルにした「プロレススーパースター列伝」(1980〜1983)でも、人並み外れた強さを持つレスラーたちの筋肉が描かれている。でもやっぱり「キン肉マン」のそれと比べると、全然違う。鍛えられてはいるけど、ムキムキとは言いがたい。要するに、「筋肉を描く」ということへの執着が薄いような感じ。

(『タイガーマスク』1巻より)
(『プロレススーパースター列伝』より)

そこで登場するのが、ふくしま政美。「格闘士ローマの星」(1976〜1977)、「聖マッスル」(1976〜1977)などの作品で知られるマンガ家です。特に「聖マッスル」は、タイトルに筋肉が含まれていることからもわかる通り、筋肉への執着がものすごい。というか、絵の迫力はすさまじいのだが、いったいどんなストーリーなのかよくわからないところからも、とにかく作者は筋肉を描きたくて描きたくてたまらなかったんだろうなと。

先に挙げた2作品とは、明らかに「筋肉への執着」が違う。『聖マッスル』より)

後世、筋肉表現はさまざまに進化していくわけですが、ケツ筋をこれだけまざまざと描いたのって、ふくしま政美くらいなのでは。筋肉マンガを語る上で、外せない作家の一人だと間違いなく言えるでしょう。

ケツ筋の描写。ちなみにこれ、コマではなく見開きです。『聖マッスル』より)

しかし。

「筋肉への執着」という点では、ゆでたまごも負けてはいないと思うのです。

1979年にスタートした「キン肉マン」は、当初ギャグ路線であったにもかかわらず、第1話からすでに筋肉にこだわって描写していたことが見てとれます。4巻や5巻の表紙にも、筋肉描写へのこだわりを強く感じる。タイトルに筋肉が含まれていた「聖マッスル」同様、「キン肉マン」もまた筋肉への執着が深いマンガだったのです。

第1話からこれだけの描き込みがあった。(『キン肉マン』1巻より)

ゆでたまごの筋肉への執着を示す、重要な作品があります。

それが1983年に読み切りで掲載された「勇者ビッグボディ」。屈強な肉体を持つ男・ビッグボディが、妖怪にその肉体を奪われ、肉体のパーツを一つずつ取り戻していくという「どろろ」のような話です。絵のタッチは「黄金のマスク編」あたりのものなのですが、この気合いの入ったトビラ絵を見てほしい。

(『勇者ビッグボディ』トビラ絵より)

これはもう「聖マッスル」の影響をモロに受けてるとしか思えない。ゆでたまごもまた、ふくしま政美のように「筋肉を描くこと」に取り憑かれた作家だったのです。

「キン肉マン」本編に話を戻すと、筋肉描写が明らかに一段階グレードアップする箇所があります。それが「夢の超人タッグ編」での、ネプチューンマン登場シーン。ハルク・ホーガンをモデルにしているだけあって、筋肉の量がまさしく「超人」と言っていいレベルにまで到達している。これ以降、「キン肉マン」の超人全体の筋肉が進化していきます。

ゆでたまごの筋肉表現を一段階上げた超人、ネプチューンマン。

さて。筋肉と言えば、もうひとつの重要作「北斗の拳」が1983年にスタートします。第1話からすでに完成された筋肉描写だった「北斗の拳」と、「キン肉マン」の進化していく筋肉描写は、ファンのみならず、後進のマンガ家たちにも大きなインパクトを与えたのではないでしょうか。

第1話の冒頭でこの筋肉。リアルタイムのジャンプ読者には相当のインパクトがあったはず。(『北斗の拳』1巻より)

ちょうどその頃、映画界では、アーノルド・シュワルツェネッガー主演の「ターミネーター」(1984)、「コマンドー」(1985)、シルベスター・スタローン主演の「ロッキー4 炎の友情」(1986)、「オーバー・ザ・トップ」(1987)など、筋肉をフィーチャーした作品が次々にヒット。1985年に日本デビューしたロード・ウォリアーズの存在も見逃せないでしょう。

そうした時流に引っ張られるように、ジャンプでも80年代中盤以降、「魁!男塾」「CITY HUNTER」「ジョジョの奇妙な冒険」「ジャングルの王者ターちゃん」など、筋肉描写が特徴的なマンガがスタートしていきます。

1984年にスタートした人気マンガ「ドラゴンボール」も、序盤は筋肉ムキムキではありませんでしたが、ラディッツ・ベジータ・ナッパの登場、それに続く悟空の界王拳3倍拳あたり(1989〜1990)から、キャラの筋肉がどんどん盛り上がっていき、本格的なバトルマンガとなっていきます。まったくの偶然でしょうが、「キン肉マン」「北斗の拳」が終了した時期に、それと入れ替わるように「ドラゴンボール」が筋肉化していったのは興味深いところです。

界王拳3倍拳(『ドラゴンボール』20巻より)

80年代後半になると、他誌でも「高校鉄拳伝タフ」「ベルセルク」「力王」など、筋肉マンガのヒット作が出始めます。

ひるがえって現在のジャンプを見ると、筋肉マンガと呼べるようなものはほとんどありません(「トリコ」がジャンプ筋肉マンガの最後の牙城だったのかも)。あえて言うなら「火ノ丸相撲」と、「僕のヒーローアカデミア」(の一部)くらいでしょうか。

ジャンプにおける筋肉マンガは、ジャンプ黄金時代をピークに衰退しつつあるのかもしれませんが、「キン肉マン」は今もなお連載を続けていますし(というか今が絶頂期とも言える)、「ベルセルク」も長期連載化(先が見えないけど)、さらに板垣恵介や山口貴由など、80年代の表現をさらに洗練させた筋肉表現を描く作家も活躍しており、筋肉マンガはいまだ進化の過程にあるのだと思います。


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前田隆弘
顔のこわさに定評のある編集者。広域指定編集業。著書に、同世代のクリエイターたちに「今の死生観」を聞いた「何歳まで生きますか?」(パルコ)がある。幼少期に読んだ「とどろけ!一番」の影響で、物心ついたときから「右手に鉛筆・左手に消しゴム」というスタイルで勉強してました。