『ドラえもん』第1巻。のび太はメディアリテラシーが高い

2017/05/02 4:57

『ドラえもん』はとにかく読むのが疲れる

伊藤ガビン まず最初に僕の方から説明しておくと、この連載は藤子・F・不二雄先生の『ドラえもん』(てんとう虫コミックス版)を全巻読んで、菅さんとレビューして行こうというものですね。なのでネタバレを大量に含みますので、ご了承ください。ということで。

菅俊一 はい。

ガビン なんでこういうことをすることになったかというと、菅さんに「最近マンガ読んでますか」みたいなことを聞いたら、「『ドラえもん』を全巻読み返してるんですよ」って言ってて、え、なにそれ面白そうだから僕も読みますよ、その話しましょうよ、みたいなことになったんですよね。

で、そもそもでいうと、菅さんはなんで『ドラえもん』読み返すことにしたんですか?

 あ〜〜〜〜〜。僕、10年くらい会社で働いてたことがあったんですよ。

ガビン 玩具メーカーですね。

 その時にデスクにずっと置いてあったんですよね。

ガビン 『ドラえもん』全部?

 いや『ひみつ道具大事典』の方。

ガビン これですか?

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 そうですそうです。それを事あるごとに開いては、仕事の参考にしてたんですよね。

ガビン あー。発想の宝庫ですもんね。

 もちろん子供の時から読んでましたけど、最近になってあらためて原点に帰ろうということで。

ガビン 原点なんすね。

 あとKindle買って、まとめ買いするのにちょうどいいと思ったんですよね。マンガって場所とるじゃないですか。『ドラえもん』だったら、ずっと持っていたいものだし、ベストだなと。

ガビン Kindleのありがたみを感じるには最高ですね。まとめ買いすると、19440円(2017/04/29現在)。Blu-rayとかのBOXセット買うような感じで買える額なんじゃないかなと。

 大人になった今なら買える感じの。

ガビン そういうわけで、揃えてみるかと思って、僕は電子じゃなくて紙で買い始めたんですよ。てんとう虫コミックス版全45巻のうち、とりあえず10巻まで買って読んでみようと。

そしたら、読むのがすごいハード! 内容が濃すぎて1巻読むだけでクタクタのボロ雑巾みたいになりました。これ1巻ごとレビューじゃなくて、1話ごとでもいけるんじゃないかと思って。

『ドラえもん』1巻の目次はこんな感じ。

 はいはいはいはい。濃いですよね。

ガビン 僕は『ドラえもん』をちゃんとまとめて読んだ経験ないんですよね。それこそ友達の家や病院や床屋で部分的に読んでいるだけで、1巻から通して読んだことはなかった。読み通したことは。それをいまやろうとしてるわけですけど、とにかく脳が疲れる。

 意外とそうですよね。続きモノのストーリーマンガだったら、ストーリーを追えればいいので、読み飛ばすというか、流れを把握できればいいかなって読み方できるんですけど、『ドラえもん』はちょっとちがいますよね。

ガビン 1話完結で、ネタが豊富。一話一話が密度があるので、それぞれ1話ずつ語りたくなりますねえ。でもさすがにそれやってると死ぬまでに終わらないので、1巻ずつでお願いします。

 はい。

『ドラえもん』第1巻を読む

ガビン さて今回のレビューですが、『ドラえもん』を読むという時に一番スタンダードな選択であろう「てんとう虫コミック版」の45巻分をベースにやっていこうと思うんですね。だけど、これさえも抜粋版なんですよね。

 そうですよね。

ガビン 小学館の学年誌とか、後にはコロコロでやってたりとか、いろんなバリエーションがある。幼児向けのものはカンタンでも、高学年向けのものには政治的な内容が入ってくるとか。それを抜粋してるから、1巻だけど1巻じゃない感じあるんですよね。

 最初へんだけど3話目くらいで安定してきちゃってる。

ガビン 1巻の1話めのドラえもんのカタチひどいじゃないですか。完全にパチもんのカタチしてて、いいなあ〜って思うんだけど、1巻の3話めではもう普通なんですよね。

『ドラえもん』1巻1話めのドラえもん。幼稚園のバザーとかで見るタイプのドラえもんらしきものに似てる。

 僕らの知ってるカタチですよね。

ガビン てことは1話めと3話めの間に結構時間が立っているってことですよね。『ドラえもん』って1969年に始まってるんだけど、6話めで1974年の話が出て来る。だから1巻の中で少なくとも5年分は時間が進んでるんですよね。

 だから1巻に収録されている話っていうのが、もう典型的な『ドラえもん』になってますよね。僕らがイメージしている『ドラえもん』の話っていうのは、生きていく上での教訓があるとか、のび太がひみつ道具を使って調子にのって失敗するとか、ドラえもんが保護者としての顔を見せるとかだと思うんですけど、それらの要素が1巻でもう入ってるというか完成してる。

普通のマンガの1巻めというのとは趣がちがうなっていう感じがしますよね。

ガビン ですね。それゆえ『ドラえもん』はどこから読んでもいいんだけど、この1巻で菅さん的な見どころを教えてもらえますか。

 あー。えーとですね、まずヒール役としてのスネ夫っていうのがありますね。いまだとアニメも含めてイメージとしては、ヒールはジャイアンの印象が強いですよね。キャラクターとしての悪役みたいな。でも1巻では彼はモブのひとりくらいの扱いですよね。それに比べてスネ夫のいじわるさみたいなものが強調されているところが1巻の面白さかな。

ガビン そこでしたか(笑)。菅さんのことなので、ひみつ道具の話かなと思ったんですけど、スネ夫の立ち位置の話だった〜!

ひみつ道具の方では、なんか気になったものありますか? 『ドラえもん』って、やたらと「あのひみつ道具は現代ではこのように実現されているのであーる」みたいな話になるじゃないですか。マンバでもトピック立ってて、結構人気あるんですけど。まあ、そういう目線で見るのもひとつの楽しみ方だとは思うんですけどね。1巻でわかりやすい例だとたとえば「スパイ大作戦」という話に出てくる目玉が飛んでるヤツは、ドローンや監視カメラを先取りしてるとも言えるっちゃ言えますよね。

 はいはいはい。

ガビン 僕はどちらかというと、現代では実現したものより、まだ展開の余地がありそうなものにより惹かれるんだけど。この道具には惹かれたっていうのあります?

 僕は2話めの「ドラえもんの大予言」で出てきた「タイムテレビ」ですね。

ガビン 自分たちのちょっとだけ先の未来が見えるという。

 これが印象的なのは、テレビを見るんじゃなくて、立体映像を目の前に出すという部分。10秒後の自分たちが歩いてる姿の、後ろをついていくみたいな。あの感じが独特だと思ったんですよね。テレビと言っているけれど、テレビじゃない。

ガビン ARですよね。

 そっちですね。

ガビン 僕はこれ読んだ時に思い出したのが『マリオカート』の……。

 ゴースト。

ガビン そうなんです。『マリオカート』で導入されて有名になった、過去のデータといっしょに走るアレですね。アレは自分の過去と寄り添う感じだけど、自分のデータという分身を見る感じが、これと似た感触があるなあと。

 そうですね。画面の中で未来の様子を見ているっていうのは、1話めに登場するアルバムとか、そういう話だと思うんですけど。

ガビン 未来からやってきた子孫が、先祖であるのび太の写真=のび太にとっては未来の写真を見てるシーンですね。

 はい。しかし2話めの「タイムテレビ」っていうのはもう実体で空間に現れてくるというのが、そういうところが表現としても面白いし、道具のあり方としても面白いですね。

ガビン HoloLensとか先にありそうな未来像。

のび太はテクノロジーに関する乗りこなし方がうまい

ガビン ほかの「ひみつ道具」の話しましょうか。僕は思ったことの逆のアベコベの行動をとってしまうヤツとかは、かなり好きですね。

脳が騙されて、逆のことしちゃう。要するに洗脳みたいなこととか、テクノロジーによって自分の行動があらかじめコントロールされる感じ。その気持ち悪さも含めて面白かった。

 のび太って、新しいテクノロジーに関する乗りこなし方がうまいな、って思うんですよね。

ガビン ああ! 確かに。

 ひみつ道具って、インターフェイスも初めて使うものだし、機能的にも初めて使うものなのに、急に道具を理解して使いこなすじゃないですか。この話の例だと、意味が逆転するという使い方ですよね。これをこういう場面で使うと悪用できる、有利になるってことがわかっている。

ガビン 新しいガジェットの使い方をハックしてますね。のび太のメディアリテラシー、実はめちゃくちゃ高いですね。

 そうなんですよ。

ガビン 脆弱性をついてくるという。ほかに特筆すべきひみつ道具はありましたか?

 あとは、1巻の最後に出てくる「ウマタケ」。

ガビン アレねえ。竹馬が生きてて、すごい速さで走ってくれるんだけど、意思を持っててしかもプライドがすごい高いんですよね。

 言うこときかないっていうか、使いこなせないテクノロジーっていうか、乗りこなせないものもあるっていうのは、すごく示唆的だなって思うんですよね。

ガビン AIとかロボットが制御できなくなるって系統の話ですね。それでいうとこの「ウマタケ」の話のひとつ前が、「ランプのけむりオバケ」という、ちょっと似た感じの話なんですよね。ランプの精みたいなけむりでできたロボットで。

 そうですね。

ガビン これも暴走するんだけど、ウマタケとはちがって、命令に忠実なんですよね。お年玉に100万円欲しいっていうと、お父さんから力づくで奪おうとする。オレの命令=プログラムのせいで、ひどいことが起きてしまう。

 それでいうと、メモ帳のやつ。

ガビン 「かならず実現する予定メモ帳」ってやつですね。

 これとかは、ジャイアンとスネ夫が先生にアカンベーをするというのをプログラムを書いて実行するって展開がありますが、アカンベーというのは、相手をバカにするさいにやることなんだけど、彼らは目にゴミが入った様子を見よう、として結果的にアカンベーと同じポーズをとってしまうんですよね。意味としてはまちがってて仕草としては実現されているっていう。

ガビン つまりプログラムとしては、仕草のほうが書かれているってことですよね。意味合いじゃなくて。これもなんか既視感があると思うんですよ。例えばSiriとかに話しかけた時とかに、自分が望んだ答えじゃないんだけど、言葉尻だけだと間違っているとはいえないあの感じに近い。

 指示と具現化がズレているという。プログラミングとかしていると、往々にして起こることですけどね。それが物語の根幹になっているという意味でかなり面白いですよね。

ガビン この話のアイデアは相当な広がりを持っていて、

長編ストーリーでも展開できるようなネタですよね。というか、これアイデアとしては『デスノート』なんですよね。書いたことが現実に起こるという意味では。

 完全にそうですね。それをわずか数ページであっさりとやってる(笑)。使い捨ててるくらいの勢いで。

ガビン 1巻分のレビューをあっさりやろうと思ってたのに、どんどん長くなってヤバいな。あ、この「ペコペコバッタ」っていうバッタにとりつかれるとやたらと反省してしまうやつも好きだなあ。

 ああ、いいですよね。

ガビン 反省しすぎてネガティブになって、そこらじゅうで自殺しようとするやつがいるっていう。いっぱい出てくるっていう。これも非常に現代的なテーマ。

 「コンピュータペンシル」の話とかも。

ガビン ペンが答えを書いてくれるやつですね。

 テクノロジーを使ってズルをするという、モラルの話ですよね。よくできてますよね。おそらくこういうことって実際にあるんだろうし。そして最後に怒られますよね。「いつも落第点のおまえが、きゅうに百点とれるわけがないっ。」みたいな。ああいうこととかも面白い。親はよく見てるな、っていう。

ガビン ググるのが当たり前になってくると、実力って言葉が意味するところが変わってきてるしね。テクノロジーに頼っちゃいけないのか。

 そうですね。そういうのもありますよね。他の巻で、これから出てくると思うんですけど、テクノロジーと人間の在り方というか、使い方、乗りこなし方。あとそこに潜む闇みたいなものがたぶん、いろいろ散りばめられているんで、そういう視点でいっぺん読み直してみると、単なる子供マンガ以上のものが含まれてるなっていうことに気づいて、1巻だけでもなかなか読み終わらないっていう状況になるんですね。

ガビン 読んでると1話毎にいろいろ考えちゃって、読むのほんとしんどい。

 なので、ぜひいっしょに読んでいってもらえると面白いんじゃないかなと思うんですけど。

ガビン そうですね。マンバの方にも書き込んでもらえるとありがたい。しかし、これ45巻まで行くのつらいな……

(画像はすべて『ドラえもん』(てんとう虫コミックス版より)


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菅俊一と伊藤ガビン
菅俊一(すげしゅんいち)研究者 / 映像作家 / 多摩美術大学美術学部統合デザイン学科専任講師 1980年東京都生まれ。人間の知覚能力に基づく新しい表現を研究・開発し、様々なメディアを用いて社会に提案することを活動の主としている。 / 伊藤ガビン(いとうがびん)マンバ通信編集長。