どおくまんのすすめ ―その1『暴力大将』

2017/05/03 1:44

これからしばらく、どおくまんのマンガの紹介をしていこうと思うのですが、俺の中でどおくまんの最高傑作……というか、すべてのマンガの中でもベスト級の作品だと思っているのが『暴力大将』というマンガです。

この作品との出会いは小学生のとき。床屋の待合室で、小学生にとってはものすごくインパクトのあるタイトルにひかれて手に取ってみたら、そのまま読みふけって、カットの順番が回ってきても読みふけって、カットが終わっても居座って読みふけって、それでもその日は読み終わらずに、それから2日ほど床屋に通い続けて読みふけって読破したのでした。普通に考えたらめちゃくちゃ迷惑な客だと思うのだけど、なぜか床屋の兄ちゃんは迷惑がるどころか「また明日も来なよ」と歓迎してくれました。夢中で読みふける俺に「暴力大将おもしろいでしょ?」とうれしそうに言っていたので、たぶん本人もこのマンガが大好きだったのだと思います。

ラジオから偶然流れてきた音楽にやられてしまうように、床屋で偶然手に取ったマンガにやられてしまうことがある。自分にとっては、その最高峰のやつが「暴力大将」だったというわけです。大人になってそのことを思い出し、改めて全巻読んでみたらやっぱりおもしろかったので、決してノスタルジーで言ってるわけではなく。

「暴力大将」の主人公は力道剛(りきどう・ごう)。ケンカを見ると血が騒ぐ、腕っ節の強い小学生です。以前いた町で「河内の暴力大将」と言われた彼が、転校してきた町で小学生同士のケンカを目撃して、居ても立ってもいられずに参加してしまうところから物語は始まります。

ちなみに、その「小学生のケンカ」というのがこれ。

普通に想像する「小学生のケンカ」とはまるで違う。ケンカっていうか戦です。時代設定は昭和初期なので、本当にこういう「戦争ごっこ」的なケンカが流行っていたのか、ただのフィクションなのかはよくわからない。とにかく力道は劣勢だったチームを加勢し、相手方の大将・日下部四郎(くさかべ・しろう)を倒す寸前まで追い込みます。上のコマの左下で「もっとひきつけろ」と言っているのが日下部。圧倒的な財力を誇る日下部財閥の御曹司で、多くの子分を従える権力者です。一方、力道はこのケンカでの活躍を買われ、転校先の仲間から「大将」と呼ばれるようになります。

その力道と日下部がともに惚れているのが、元伯爵令嬢の清水麗子。

力道剛、日下部四郎、清水麗子。この時点ではただの「3人の小学生の三角関係」ですが、この三角関係が発端となり、ものすごいスケールの大河ドラマが展開していくのです。

戦みたいなケンカをしていたとはいえ、そこは小学生。まだまだ牧歌的だった。中学生になると、さらにハードな展開が待ち受けています。力道が麗子に目がないことを知っている日下部は、麗子をおどして、偽のラブレターを書かせます。ラブレターを読んだ力道は、彼女との約束のためにケンカができなくなりますが、それを知っている日下部は子分の佐藤鉄正(さとう・てっしょう)を使い、あの手この手で攻めかかります。

あの手。力道はこれで入院します。

この手。「し 死んだのかな?」じゃねーよ。

この後、仲間も佐藤鉄正にボコボコにされ、さらには日下部からの圧力で麗子からだまされていたことを知った力道は、病院を抜け出し、中学校に一人で殴り込みをかけます。「暴力大将」には、インパクトの強い見開きの絵がたびたび登場するのですが、その記念すべき最初の見開きカットがこれ。

佐藤鉄正も、その黒幕だった日下部も倒した力道でしたが、この事件を起こしたこと(と日下部の差し金)がきっかけで、矯正院(現在でいう少年院)送りとなってしまいます。

相当ハードだった中学生時代でしたが、ここからはその中学生時代さえ牧歌的だったと思えるほどの展開に。力道が収容されたのは、全国から特別悪質な不良が集まるという河内矯正院。リンチや殺人は日常茶飯事、さらに管理者からの刑罰も熾烈を極め、「地獄院」と恐れられた場所でした。このあたりから、出て来るキャラクターの「ただものでない感じ」が急上昇していきます。主要なところでいうと……。

河内矯正院の院長と、その親衛隊。ひと目見ただけで「今までも何人も殺してきた」というのが如実に伝わってきます。

それぞれの部屋には、その部屋を仕切る「室長」というのがいるのですが、力道の部屋の室長がこの武田。

さらに室長の上には、その棟全体を取り仕切る「組長」というのがいます。力道や武田がいる第四棟を取り仕切るのが、第四組組頭・増井弁達(ますい・べんたつ)。どおくまんが描くボス系・幹部系のキャラって、「強そう」というだけじゃないんですよね。「殺気」みたいなものが絵に宿っている気がする。

それぞれの棟には増井のように棟を取り仕切る組頭がいて、その頂点に君臨するのが、総部屋長の根室という男。根室がいったいどんなキャラクターなのかは、ぜひコミックスで読んでください。根室のキャラは本当にすごいので。

で、矯正院の中でも力道は頭角を現していき、やがて第四棟を取り仕切るようになるのですが、根室の傘下に入ろうとしない力道は、当然、命を狙われることになります。

これは力道のいる第四棟が、隣接する第二棟から襲撃を受けようとしているシーン。これも見開きの絵なのですが、どおくまんはこういう集団でのシーンを一人一人しっかり描き込んでいます。密集している人間の圧力のようなものが、絵を見ているだけで伝わってくる。人物のインパクトはわりと知られているところだと思いますが、こういう描き込みのすごさに気づいていない人は意外と多いんじゃないか。

で、この「河内矯正院編」、実は物語全体でいうとまだまだ序盤なのです。ここまでの展開だけでも十二分に面白いのですが、「暴力大将」がすごいのはここからで、それまでとはまったく違うステージで、まったく違う戦いに挑戦していくことになります。

最初に書きましたが、「暴力大将」はバトル漫画というよりは、バトルさえ物語の一部にすぎない、壮大なスケールの大河ドラマなのです。これだけ激動の運命にさらされる少年マンガの主人公、ほかにいないんじゃないか。とにかく、まずは3巻くらいまで読んでみてください。


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暴力大将 (1)

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前田隆弘
顔のこわさに定評のある編集者。広域指定編集業。著書に、同世代のクリエイターたちに「今の死生観」を聞いた「何歳まで生きますか?」(パルコ)がある。幼少期に読んだ「とどろけ!一番」の影響で、物心ついたときから「右手に鉛筆・左手に消しゴム」というスタイルで勉強してました。