『ハンターハンター』における修行シーンの魅力について

『ハンターハンター』における修行シーンの魅力について

2017/06/23 4:53

 食欲をそそる漫画は多い。グルメ漫画なんかは、食欲をそそれなきゃアウトとも言える。このシーンを読んでいると、これが食べたくなる。それは最高の賛辞となるだろう。ここで私は「修行欲」という言葉を導入したい。食欲をそそる漫画があるように、世の中には「修行欲をそそる漫画」があるのである。その修行シーンを見るだけで、「俺もその修行がしたい!」と思ってしまう。

 ということで今回は、ハンターハンターにおける修行シーンの魅力について。

 ハンターハンターという漫画でもっとも丁寧に「修行」が描かれたのは、なんといってもグリードアイランド編だろう。ここでは、ゴンとキルアの二人が、ビスケという師を得て、少しずつ強くなっていく姿がていねいに描かれている。ここが面白いのは、しっかりと「理屈」も描かれていることだ。作者である冨樫義博の考え方が反映されているようで面白い。たとえば漫画を描く技術を磨いてきた過程を語っているようにも読むことができる。

 しかし私にとって、ハンターハンターにおける修行の代名詞は「ネテロ」である。ご存知、ハンター協会の会長であり、このキャラの若き日の修行シーンにこそ、修行欲をそそる描写がある。

(コミックス25巻87pの引用)

 修行フェチとして推したいのは、「同じことをひたすら繰り返すことで極みに達する」という描写である。ハンターハンターにおける若かりし頃のネテロは、まさにこれである。毎日、正拳突きだけを一万回続ける。

「かわりに祈る時間が増えた」

 これも非常に修行欲をそそる。こんな魅力的な修行シーンを描かれてしまえば、修行欲は最高になる。そこで思うのは「俺も音を置き去りにしたい」であり、「かわりに祈る時間を増やしたい」である。

 このあたりはこの連載でふれた「スラムダンクの名ナレーション」とも少し関係している。修行欲をそそるのはナレーションでもある。すなわち、「自分が修行している姿をナレーションされたい」という欲望である。その意味で、「かわりに祈る時間が増えた」は最高である。作中のナレーションに沿って欲望を表現するならば、私も46歳の冬に感謝の正拳突きを毎日一万回続けたい! そして齢50をこえて完全に羽化したい! 感謝の正拳突き1万回が一時間を切りたい! そして、かわりに祈る時間が増えたい。とにかく「かわりに祈る時間が増える」あたりも修行欲をそそるポイントである。コマをよく見てみると祈っているネテロにはなぜか数匹の小鳥がとまっているし、そんな細部もふくめて最高。祈る時間が増えて身体に小鳥がとまる。

(コミックス20巻101p)

「どんどん送っていいぞえ ようやく勘が戻ってきたわい」

 修行フェチとしては、ネテロが真っ白な空間で次々と敵を倒しているコレに興奮する。わずか1コマの描写で色々と想像をかきたてられるのも良い。「勘が戻ってきた」というセリフもうれしい。非常に修行欲をそそられる。

 真っ白い空間といえば、ドラゴンボールの「精神と時の部屋」だろう。すこし脱線してドラゴンボールにおける修行シーンの魅力を考えてみれば、これは重力に尽きる。小学生の頃、ドラゴンボールを読んだ私は、案の定、100倍の重力で修行したいと思っていたし、実際、あたかも100倍の重力で動いているかのように、教室で動いていた。かめはめ波を出そうとするほどメジャーではないにせよ、当時の子供のあるあるだろう。私は「ぐ……」と言いながら重たそうに歩いていた。じっさいの重力は変わってないのに。

(コマ:トランクス こういうの)

 ドラゴンボールでは「重さ」がポイントである。「亀仙人の甲羅が重い」にはじまって、「道着と靴が重い」になり、その延長に「惑星ベジータや海王星は地球の何倍の重力」が生まれ、さらに「この宇宙船は重力をXX倍までにできる」という発想も出てくる。外部から隔離された特殊な空間で、何らかの行為を反復することによって、能力を向上させていく。

 やはり、「かわりに祈る時間がふえた」というのは発明だと思う。たとえば進学校の受験生が、受験勉強の果てに、祈る時間が増えることはあるか。あのイチローですら、素振りのかわりに祈る時間が増えているようには見えない。

 なお、修行欲をそそられることと実際に修行することは違うというのも事実で、かわりに祈る時間が増えたネテロのすがたを見ながら修行欲をそそられている私の部屋には、ほこりまみれのダンベルがさみしそうに放置されていたりもする。誰かナレーションしてくれ。


HUNTER×HUNTERのクチコミもたくさん集まっています!記事の感想や連載再開した喜びなどはぜひマンバへ!

冨樫義博
【デジタル着色によるフルカラー版!】父と同じハンターになるため、そして父に会うため、ゴンの旅が始まった。同じようにハンターになるため試験を受ける、レオリオ・クラピカ・キルアと共に、次々と難関を突破していくが…!?

HUNTER×HUNTER モノクロ版 1 (ジャンプコミックスDIGITAL)

父と同じハンターになるため、そして父に会うため、ゴンの旅が始まった。同じよ&…