日常がパタパタと崩れていく怖さ「リウーを待ちながら」 

2017/06/27 3:36

さいきん読んだ1巻マンガの中で、ばつぐんに面白かった作品を紹介しようと思います。

そのマンガというのは、朱戸アオ「リウーを待ちながら」1巻(イブニングKC)。

 作者の名前は知らなかったのですが、シンプルな構図の表紙と、ちょっと文学的なタイトルから「真面目でしっかりとしたストーリーのマンガに違いない」と思って、たいした前情報もなく読んでみたのですが。

大当たりでした。

 「リウーを待ちながら」というのは、戯曲「ゴドーを待ちながら」をもじったものですね。じゃあ「リウー」というのは何かというと、これはアルベール・カミュの小説に出てくる主人公の医師の名前からきています。 

その小説のタイトルを書いてしまうと、このマンガを読むドキドキ感がちょっとだけ減ってしまいそうなので、できれば検索するのは1巻を読んだあとにしてほしいのですが(ストーリー的にもその小説の影響を受けているみたい)。 

そのカミュの小説と同じく、このマンガの主人公・玉木涼穂の職業も医師。富士山麓にあり、自衛隊の駐屯地があるS県横走市の病院に勤務しています。医師としての判断力も行動力もあるのですが、病院内での処世術的なコミュニケーションがまったくできない……そういうタイプの医師です。

その玉木医師のところに、病院の前で倒れていた急患が運び込まれてきます。心停止状態に陥るものの、AEDでなんとか一命を取り留めることに成功するのですが。

 命は助かったものの、まだ容態が安定していないその患者は、その夜のうちに所属先である自衛隊に一方的に引き取られてしまいます。いぶかしく思った玉木医師は、自衛隊病院に患者のことを問い合わせますが、ここでも一方的に「お答えできません」と電話を切られてしまう。その直後、病院のスタッフが急死し……。

 あーだめだ、このへんにしとかないとヤバい。あとはマンガを読んでくれ!

病院が舞台で、医師が主人公なので、ある病気がメインテーマとなって話が進んでいくのですが、なんというか「日常の壊れ方」を描くのがとにかく巧みで、ハラハラさせられるのです。その病気が架空のものではなく、実在する病気(名前くらいは誰でも聞いたことある)だというのも大きいのかもしれない。

われわれが普通に暮らしている日常がある。その日常にちょっとほころびが生じる。小さなほころびではあるけれど、それをきっかけにして、日常が少しずつ壊れていく。日常のまんまの顔をして、日常が日常でなくなっていく。話の中身は違うけど、映画「パトレイバー2」にも似た壊れ方といいますか。

読み終わった後では「見せ方がうまい!」なんて冷静なことを言えるけど、読んでいる最中はちょっと息が詰まるというか、緊張を強いられるというか、なかなかに怖い読書体験をしました。つまりそれは「没頭してページをめくる手が止まらなくなる」ということでもあるのですが。

作者のブログに、このマンガについての覚書がありました。読みごたえのある内容なので、興味のある方はぜひ読んでほしいのですが、それによるとこの作品は、2011年に同じ作者が発表した「Final Phase」を元にしているとのこと。「Final Phase」は1巻で完結する作品だったため削ぎ落とした部分が多くあったのと、さらにその第1話の執筆中に起こった東日本大震災の経験もふまえた上で、ストーリーをふくらませて執筆したのが、この「リウーを待ちながら」という作品なのです。

ここまで読んでくれたなら、とりあえず試し読みの第1話だけでも読んでほしい。

朱戸アオ「リウーを待ちながら」第1話 横走へようこそ

たぶん試し読みを読んだほとんどの人は、そのまま1巻を読みたくなると思うけど。2巻以降も期待してます。


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リウーを待ちながらに関するマンガ情報・クチコミ一覧

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リウーを待ちながら(1) (イブニングコミックス)

富士山麓の美しい街・S県横走市──。駐屯している自衛隊員が吐血し昏倒。同じ症…

前田隆弘
顔のこわさに定評のある編集者。広域指定編集業。著書に、同世代のクリエイターたちに「今の死生観」を聞いた「何歳まで生きますか?」(パルコ)がある。幼少期に読んだ「とどろけ!一番」の影響で、物心ついたときから「右手に鉛筆・左手に消しゴム」というスタイルで勉強してました。