不動産屋さんと読むマンガ。密林不動産 菅野弥生さんの場合

2017/09/19 6:06

写真 ただ(ゆかい)

マンガって、さまざまなテーマやジャンルが無限にありますよね。

自分とはあまり関係ないジャンルのものを読んでみると、これまで知ることのなかった世界のことがおもしろおかしく描かれてあって「ナルホド〜こんなことになっているのか〜」と感心しちゃうことが誰しもよくあると思うんです。だけど何も知らないだけに「ココ!」ってところを読み流してしまってる……なんて場合も多いですよね、きっと。

マンバ通信では、「ある物事に詳しいプロの人=そのスジの人」がどんなマンガをどんな視点で読みこんでいるのか、ちょっと深掘りして聞いてみようという連載コーナーをつくりました。

その名も「そのスジの人と読むマンガ」

そのスジの人が読むマンガの中には、そのスジでないと「わからない」「伝わらない」「共感できない」ツボのようなものがあると思うんです。それを教えてもらいたいなと。

記念すべき第1回目は「不動産屋の人が読む不動産マンガ」。「そのスジの人」として、都内の月々の支払い抑えめの好物件を紹介している不動産屋さん『密林不動産』の代表菅野弥生さんをお招きしました。おすすめの不動産マンガとその読みどころについて、詳しくお話を聞いちゃいました。

「事例」として読む不動産マンガ

──マンガの話の前に、菅野さんのことを教えてください。マンガがかなりお好きだということなのですが、よくサッカー選手が「キャプテン翼を読んでサッカー選手になりました」って言うじゃないですか。さすがに菅野さんはそういう道筋ではないですよね?(笑)。

私が不動産に入ろうと思ったきっかけはマンガではなく都築響一さんの『TOKYO STYLE』ですね。

──東京の若者の暮らしを等身大にバシッと撮影した名著ですよね。あの本以前には、あんな風に部屋を撮るということ自体がなかったですから。

あの本を見て、人の暮らし方ってこんなにも多様性のあるものなんだということを知って、もっとたくさん部屋を見てみたいと思い、不動産業界に入りました。こうして集めている不動産マンガは「事例」として読んでる感じなんです。

──「事例」として読んでる!? それってどういうことですか?

例えば『プリンセスメゾン』でいうと、女性1人で物件買うときに会社員じゃないと与信が厳しいとか、頭金ゼロとはいうけど、実際に買うとなるとけっこう費用がかかるとか。そういう「家を買う場合の事例」という感じです。

──なるほど。今は不動産系のマンガがあればとりあえずは読むという感じでしょうか。

なんでも集めるというわけではないですね。自分が「おもしろい」と思わないと買わないようにしていて、そこはちゃんと線を引いています。

──と言いつつ、すごいたくさん持ってきていただいちゃって、こんなにあるのか! と驚いてますけども。では、さっそくおすすめのマンガの紹介をお願いします! 不動産マンガといってもいろいろあるわけですが、まずは不動産屋さんが主役のマンガから。

「不動産屋さんが主役」のマンガ

吉祥寺だけが住みたい街ですか?』 マキヒロチ

これは最近ドラマ化もされたので、ご存知の方も多いと思います。不動産のマンガというと入居者や物件が軸となるものが多いと思いますが、このマンガは街をテーマとしているところがおもしろくて。

不動産屋って、その土地に根づいて商売しているので、ここに出てくる重田不動産みたいに吉祥寺に店舗があって、錦糸町や蔵前の物件を紹介するということは実際はあまりないんです。

──ああ、そうか。リアルな不動産屋さんだとここまで自由に、いろんな場所を提案できないんですね。不動産屋さん視点で、このマンガがいいなと思うところは?

「新しい視点を見せてくれる」ところ。条件だけで探さないで、その街に住むことで自分のライフスタイルや人生も変わるということをわかりやすく提案しているのがいいなと思います。

──ライフスタイル?

「ここしか知らないから」とか「人気の街だから吉祥寺に住みたい」って重田不動産を訪ねてくるお客さんに、店主の双子は「別の駅だけどもっとおもしろくて、いい街あるよ」って街のガイドをしながら物件を紹介するんです。
場所から自分の生活を変えていくという提案ですね。すごくためになります。

──なるほど、それはちょっとわかりますね。デザインでいうと、クライアントが最初から「こういうの作ってくれ」って言ってきてるけど、もっとニーズの根っこの部分を掘り起こしてみると「実はこういうのを求めているんじゃないか」と提案ができたりとか。

そうなんですよ。そういう提案のやり方って実際に営業でもやるので。例えば「職場に通いやすい所で麻布がいいかな」とご希望をいただいたときに、余地があれば「お客さまのご希望条件ですと、武蔵小山駅あたりも良いですよ」とか。

──そういうとき、お客さんの反応はどうですか?

「あ、なるほど~!プロがそういうなら見てみようかな」という感じで、お客さんがはじめに言っていた希望を一切叶えてないのに、ちゃんと喜んでもらえる着地点があったときは楽しいですね。

──プロにまかせてよかった!と思いますよね。でも一方で「不動産屋さんは自分の売りたいものを売ろうとしてるだけなんじゃないの?」的な疑り深い人とかいないですか?

うちではめったにいないですが、そういった方もいらっしゃると思います。

──そういう時はどうするんですか?

普段は1回の物件案内で3~4件は見るので、その中の1〜2件はお客さんの希望通りの物件、ほかの2件はこちらが提案する物件を見てもらって、どちらがいいか比較してもらうようにするといいのかなと思います。

──希望と関係ないものだけだと不信感生まれますもんね。でも実際に比較できると「確かに」と納得できそう。

このマンガでは、部屋を探しに来た女の子が「なんだ、自分は吉祥寺にこだわりすぎていた」ってことに気づくんです。そうすると、新しい街で楽しく生活する自分を想像できたりして。

実際に街を歩くことで、イメージがふくらむんですね。

──実際、不動産屋がアドバイスしているようなことに近い感覚でしょうか?

近いですね。エリアをここまで広げて案内することはできないけど、できるんだったら、こういうことだと思います。

なぎとのどかの萌える不動産』板倉梓

不動産屋さんのお手本っていうと完全にコレです。このマンガは不動産屋さんになりたい人や、実際に不動産の仕事をしている人に読んでほしい。

──おお〜。タイトルはなんかすごいですけど。

この「萌える」っていうのは、女社長のなぎちゃんが「キャラ萌えと同じで家にも萌えがある」ということでつけた会社名なんです。お客さんへの営業のやり方とか、バックボーンを想像したうえで物件を紹介したりしないといけないこととかがちゃんと描かれていて、すごくいいですね。これは不動産屋さんのマンガとしてはイチオシです。

──イチオシ、ただし不動産屋に限る、ってことですね。このマンガの不動産屋さんの視点で見た良さは?

この二人がかなり寄り添っているところですね。

──寄り添っているというのはお客さんにですか?

はい、例えば、予算的にちょっと背伸びした物件を探していたお客さんに対して、「無理しないで、自分が安心できるのはこの部屋だったんだ」っていう答えを、萌える不動産の2人は一緒に探してくれるんです。

ほかにも、シングルマザーのお母さんにシェアハウスの物件を紹介する話とか、自分たちの儲けにならなくても、親身に寄り添いながら、提案してくれる感じが、いいんです。

『萌える不動産』1巻より

──不動産屋さんが考えていることが理解できると、探す時にも参考になりそうですね。

カブキの不動』 観月昴/奥道則

これは新宿歌舞伎町で働くアウトロー不動産屋さんの話ですね。連載が3巻で打ち切りになっちゃって残念です……。わりと暴力も使って解決するタイプの方で(笑)。

──暴力ですか!?

法の範囲内でやってるんですが、ケースによって訴えてこないとわかっている相手の場合は暴力を使います。

──このマンガはありえない事例として面白いってことですか?

ありえない案件もあるんですけど、例えば、取り壊さないといけない物件にわざと住んで、あとから立ち退き料を請求してくるような悪質な入居者に対して、どう対処するかという話も出てくるので、そこは「ありえる事例」として読んでます。

──歌舞伎町というのは、やっぱり特殊?

特殊だと思います。“ハンシャ”に対して物件を貸さないよう、契約書に条文が追加されたり、厳しくなっていますね。

──ハンシャ? ハンシャってなんですか?

反社会的勢力を略して“反社”と言います。暴力団や暴力団関連企業などのことですね。

──それ、はじめて聞きました(笑)。

業界用語ですね(笑) 。うちの会社では物件の管理もしていますが、オレオレ詐欺のグループに募集中の空き物件を利用された……なんていうことも世間ではあるようなので、こちらも気が抜けません。

──でも反社の人たちも家は必要じゃないですか。逆に反社の人が借りたいときはどうしたらいいんでしょう?

といった裏社会のお話がこの本に!

──描かれてるんですね!

マンガですけどね(笑)。

──実際どんな話が描かれてるんですか?

暴力団の事務所ばっかりが入居している「ヤクザマンション」ていうのがあるんですけど、歌舞伎町のホストに法外な金額を請求されて逃げている女の子を主人公の不動さんが「ここに入れるしかない」といって、そのマンションに住まわせるんです。
その後、居場所がバレてホストが「ドアを開けろ!」って彼女の部屋の前で騒ぎだしちゃうんですけど、別の部屋から出てきたヤクザたちに「何やってんだ、ウルサイぞ」ってボコボコにされるっていう話とか。

『カブキの不動』1巻より

──反社をセキュリティとして使っちゃうってことですね! それはすごい(笑)。

そうなんです(笑)そんな解決策が面白かったりするんですよ。

──それはシナリオ素晴らしいですね。

そうですよね。これは続いてほしかったです。

*「家を建てたい」または「買いたい」マンガの話に続きます。