『ちはやふる』の世界でかるたをする場合の戦い方

2017/12/14 9:07

こんにちは。国府町怒児(こうまち ぬんじ)です。
もうすぐ年末ということで、お正月にはご実家で百人一首でもする人もいるんじゃないでしょうか。
最近では、ニコニコ動画で1月上旬の競技かるた名人位・クイーン戦も放送されていますよね。

今回は、その放送のきっかけとなった『ちはやふる』というマンガを見てみたいと思います。

『ちはやふる』とは

『ちはやふる』は、2008年から講談社のBE・LOVEという雑誌で連載されている少女マンガです。
競技かるたという世界にスポットを当て、そこに携わる人たちの成長や葛藤を描いています。
第2回マンガ大賞2009を受賞し、アニメ化、映画化もされています。

この世界では、とにかく競技カルタに夢中なキャラクターが多いことが特徴です。
熱意をベースに脇役もしっかり立っていて、それが作品の面白さに繋がっています。

(『ちはやふる』7巻174p 参照)

一方で、かるた経験者と未経験者の隔たりが大きく、作中で一般人が引いてしまう場面も描写されています。

もしも、こんな世界に放り込まれてカルタを取ることになったらひとたまりもありません。
一枚も取れずにスピードに圧倒されて終わりです。
でも、本当に戦う手段はないのでしょうか。
どうしても一矢報いたい。
そう思った私は、ある作戦を立てました。

『ちはやふる』の世界で出やすい札を探す

(『ちはやふる』6巻18p 参照)

それは、「『ちはやふる』の世界で出やすい札のデータを取り、ヤマを張る」というものです。
持たざるものは、データを取って工夫しなければなりません。
主人公と同じ高校の、机くんというキャラもデータを活用していましたね。

早速データを取ってみましょう。
レギュレーションは以下の通りです。

1 『ちはやふる』本編の試合中に出てきた全ての札を集計する
2 範囲は、コミックス1巻から36巻(2017年12月時点の最新巻)までとする
3 空札(読み上げられるものの、場には置いていない札)を含む
4 直接読み上げられた描写がなくても、前後関係で読まれた札が分かる場合はカウントする

(『ちはやふる』30巻43p 参照)

5 テレビ番組でのかるた、音源を使った一人での練習など、試合以外の札は含めない

出やすい札はあるのか

集計したところ、試合で歌が読まれた場面は750回ありました。
一番読まれなかった札で2回、一番読まれた札は20回登場しています。
100首あって、一回も読まれていない札がないのはすごいですね。

(『ちはやふる』22巻24p 参照)

22巻で「これやこの 行くも帰るも 別れては 知るも知らぬも 逢坂の関」が出てコンプリートになりました。

ラスト蝉丸。

では、多かった札から見ていきましょう。

最多部門 第1位 ちは 20回

(『ちはやふる』21巻19p 参照)

1位は、「千早ぶる 神代もきかず 龍田川からくれなゐに 水くくるとは」でした。
これはまあ妥当ですかね。
作品のタイトルにもなっている象徴的な歌です。

現代語に訳すと「人間世界では当然のこと、奇蹟の充満していた神代にも、こんなことがあったとは、聞いたことがないのダ。この龍田川で、からくれないの色に、水を絞り染めにしているなどということは」(橋本 2014)といった意味になります。
龍田川の紅さに、めちゃくちゃ驚いてますね。
屏風の絵を見て、それを題材にして詠んだ歌と言われています。

詠み人は、在原業平。
古典の世界ではプレイボーイとして、有名人です。
平安時代の貴族社会は、歌が上手いとモテる価値観だったようなので、彼がモテまくったのも頷けます。

(『ちはやふる』2巻177p 参照)

作中では、何人かがこの歌に対して解釈を披露しています。

競技面で言えば、決まり字(ここまで読まれたら札が特定できるポイント)は、「ちは」です。
主人公の綾瀬千早、元クイーンの猪熊遥が、特にがっついて「ちは」を狙ってきます。
彼女達からこの札を射抜くのは中々厳しいですが、逆に言えば取れば精神的にダメージを与えられるので、ヤマを張っていきましょう。

最多部門 第2位 しら 17回

(『ちはやふる』25巻40p 参照)

「白露に 風の吹きしく 秋の野は つらぬき留めぬ 玉ぞ散りける」が2位につけました。
全体で17回登場しています。

現代語に訳すと「草の葉に結んで白く輝く露の玉に、風のしきりに吹きつける秋の野では、つなぎとめていない白玉が、はげしく散り乱れているように見えることだ」(同 2014)といった意味です。
白露を玉に例えるのは当時の常套手段だったものの、糸で留めていない玉が散ると捉えたところに斬新さがあります。

(『ちはやふる』1巻174p 参照)

決まり字は、「しら」です。
この札を自分の札だと思っているキャラクターは作中にいないので、「ちは」よりは取りやすいでしょう。

ただ、主人公の綾瀬は別です。
彼女にとって最も特別な札が「ちは」だとすれば、「しら」は最も得意な札と言えるかもしれません。
だから登場回数も多いんでしょうね。

s音の響きの違いを聞き分け、「し」を聞いた段階で動いてきます。
めちゃくちゃだ。

最多部門 第3位 「たち」 16回

(『ちはやふる』28巻60p 参照)

「たち別れ いなばの山の 峰に生ふる まつとし聞かば 今帰り来む」が3位でした。
16回出てきました。

詠み人は、在原行平。
先ほどの在原業平の、異母兄に当たる人です。

現代語訳は、「いまお別れして、私は因幡の国へ行ってしまいますが、そうなったとしても、いなばの山に生えている”松”ということばのように、私を待っていてくれると聞いたら、私はすぐにでも飛んで帰ってきますヨ」(同 2014)です。
「去なば」と「因幡」、「松」と「待つ」をかけてあります。

同じ百人一首では、「大江山 いく野の道の 遠ければ まだふみもみず 天の橋立」も、この技法を織り込んでいます。
「行くの」と「生野」、「踏み」と「文」がかかっています。
この歌に関しては、男性にからかわれた切り返しとして即興で詠んだエピソードがあるので、本当に驚かされます。

決まり字は、「たち」です。
たで始まる2字決まりは全6種類(「たか」、「たき」、「たご」、「たち」、「たま」、「たれ」)と多いですが、作中では「たち」が最も多く読まれているので、勇気を持って飛び出しましょう。

「たち」の多かった理由は、もしかしたら「ちは」と歌番号(百首に付けられている番号)が隣だからかもしれません。
実際、17番の「ちは」の両隣2つは多めに出ています(15番11回、16番16回、18番12回、19番11回)。

次は、登場回数の少なかった札を見ていきます。
出づらい札を思い切って諦めるのは、格上相手には有効な作戦です。
さらに、序盤から中盤にこれらの札を相手に送ることができれば、運命戦(自分と相手が残り1枚ずつの状況)になった際に勝てる確率も上がります。

最小部門 第1位(同率)あはれ 2回

最小部門は、同率1位が3首あります。
一つ目は、「あはれとも いふべき人は 思ほえで 身のいたづらに なりぬべきかな」です。

現代語訳は、「わたしのことを、ああ、かわいそうに……と言って、同情してくれるはずの人は、どうしても考え出せないで、このままむなしく、わたしは誰にも同情されることもなく、結局は朽ち果ててしまうにちがいないのだ」(同 2014)です。
女々しい上にネガティブ。
だからマンガにあまり登場しないのでしょうか。
作者の謙徳公は、太政大臣にまでなった人なんですけどね。
『大鏡』や『宇治拾遺物語』に、彼の才覚や容姿のよさが伝えられています。

最小部門 第1位(同率)なげけ 2回

最小部門二つ目は、「嘆けとて 月やはものを 思はする かこち顔なる わが涙かな」です。
作者は、西行法師ですね。
裕福な武家に生まれて、妻子もあったのに23歳で突然出家した変わり者です。
室町時代には、『西行物語』という西行の説話も登場します。

現代語訳は、「わたしに嘆けといって、月は、物思いをさせるのだろうか、いや、そんなことのあるはずがないのに、まるで月のせいにしているかのように、こぼれ落ちるわたしの涙であることよ」(同 2014)です。
僧侶になった身でありながら、感傷的な恋の歌を詠むのが面白いですね。

最小部門 第1位(同率)よのなかは 2回

三つ目は、「世の中は 常にもがもな 渚漕ぐ 海人の小舟の 綱手かなしも」でした。

現代語訳は、「世の中は常住不変のものであってほしいと切望する。海岸に並行して漕いでゆく漁夫の小舟につけた引き綱を見ると、ほんとに、胸を締め付けられるような思いを抱かずにはいられないのダ」(同 2014)です。
作者の鎌倉右大臣(源実朝)は、政情不安定の中に第三代征夷大将軍になります。
そのときの不安感が、「世の中が不変であってほしい」という願望に表れているのかもしれません。
因みに彼は、28歳で甥っ子に暗殺されて、生涯の幕を閉じます。
暗い。

競技面では、2種類しかない5字決まりの歌です。
もう一種類の「よのなかよ」は8回登場しています。

(『ちはやふる』5巻62p 参照)

札の確定タイミングが遅いため、囲い手のようなテクニックを発揮しやすい一枚です。
テクニック勝負では分が悪いので、潔く諦めましょう。

他にも登場回数が4回以下の札は20枚ありますので、この辺りにあまり力を割かなくてもいいのかなと思います。

まとめ

いかがでしたでしょうか。
ちはやふるのキャラ達と対戦するビジョンが見えてきたでしょうか。

ところで、かるたの覚え方で、「むすめふさほせ」という言葉があります。
これは一字決まりの歌7種の頭文字を表しています。
かるたを初めたての人が覚えやすく、友達と戦ったりするときは実力の底上げに即効性があります。

そして、作中での一字決まりの札も割とよく出てきています。
具体的には、「む」12回、「す」12回、「め」13回、「ふ」13回、「さ」8回、「ほ」14回、「せ」13回です。

じゃあこの一字決まりを集中して取ればいいじゃん。
覚えやすいし、いっぱい出ているし、と思うかもしれません。
でも、ちはやふるのキャラ達と戦うに当たっては、この作戦はあまりお勧めできません。
なぜなら……。

(『ちはやふる』8巻34p 参照)

競技かるたの選手は、一字決まりを信じられないくらい速く取るからです。

参考文献

『ちはやふる』1巻〜36巻 末次由紀 2008〜2017 講談社
『図説 百人一首』 石井正己 2006 河出書房新社
『解説 百人一首』 橋本 武 2014 筑摩書房


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国府町 怒児
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