森泉岳土のマンガだけは紙の本で買わなくてはならない理由

2017/12/15 5:40

10月に発売された森泉岳土さんの『報いは報い、罰は罰』について書いてみます。

深い森の奥の洋館で起こる恐ろしい話です。ゴシック・ホラーってやつですよ。怖いの苦手なんで書くのいやなんですけど、書きますね。というかそれ以前に読むのがいやだった、怖いから。さらにいえばこの本の存在がいやですね、もう怖くて怖くて、持っていたくない。こわいなあ。いまも、目の前にあるんですよ。こっち見てる感じがする……。
ほんと憂鬱。
ゆえにその憂鬱について書いてみようと思います。

この本を僕はいわゆる「紙本」で買いました。
僕はこのコラムでも何度か電子書籍のこと書いているように、紙の本に対するこだわりは全然ないんですね。紙でも電子でもどっちでもいい人間です。どっちでもいいってことは、どうなるかというと電子で買うことが多くなるわけです。
だって欲しいと思った瞬間に買えるし、場所もとらない。便利便利。ひとつの物語をタブレットで読んだり、PCで読んだり、スマートフォンで読んだりと渡り歩けるのもいい。愉快愉快。ね。だから電子で買うことが多くなります。
理想をいえば紙と電子と両方あると嬉しい。「紙の本」という読書デバイスがひとつ増えるからですね。

という具合にまったくこだわりがない。

なんだけど、森泉岳土さんのマンガだけは紙で買います。買わなくてはならない! なぜか?
結論を先に言ってしまえば、森泉さんの著作は紙という媒体に激しく最適化されているから。
いや、たいていのマンガが紙に最適化されているような気がしないでもないけれど、森泉さんのものは、特にね。紙で読まないとダメなような気がするんですよ!

彼の執筆方法が、たいそう変わったもの、ありていにいえば変態であるということはよく知られていますね。
なんでも、筆に水を含ませて描き、そこに墨を流すらしいじゃないですか。ド変態としか言いようがない。
しかも線だけじゃなくて、塗りも同じようにしているという。それ「塗り」じゃないじゃん。塗ってない。垂らし? 滲み? 染み?

水と墨と爪楊枝。森泉岳土『報いは報い、罰は罰』の制作過程をまとめました。

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なんでこんな手法をとっているのか知らないのですが、まあ、とにかくこっちは「ああ……染みてるなあ」と見る度思うんですよね。染みちゃってるなあ、と。

この染み具合だけは、電子書籍で読むと、もったいない気持ちになっちゃうんですよね。染みを体験しているのではなく、染みを記録した写真を見ているような気持ちになってしまう。タブレットには染みないからですね。染みてる写真を見ていることが強調されちゃう。
紙の本だって、印刷しているわけで、そこに実際の森泉さんの作業のように大量の水と共にインクが染みているわけではないですよ? だけど紙にインクが載っているという状態に、気持ちよくだまされる感じはするんですよね。
掲載誌の『コミックビーム』で読む時は、その紙のざらつきとかも効いていて、これも塩梅良くだましてくれます。

森泉マンガはこれまで、カフカや漱石の小説をコミック化したり、中学生女子のひとり旅を描いたり、と幅広い題材を扱ってきています。そのそれぞれの題材で、この変態的描画手法が特異な効果をもたらせているんですね。
例えばその女子中学生が主人公の『ハルはめぐりて』の場合には、かすれ、途切れ気味の描線が「記憶のあいまいさ」のように感じられたりする。あるいは夢? 確かに見たけれど、細部を思い出そうとするともやがかかってくっきりとは見えない。そんな、小気味いいもどかしさを感じたりします。

『報いは報い、罰は罰』はゴシック・ホラーですよ。画面を見てくださいよ。なんだかよく見えない! 
これってもう悪夢そのものじゃないですか。
しみのようなもやなのか、もやのようなしみなのか。

ああ、いやだ。

僕は、怖い話を読む時に、最高にいやなのが古本で読むことなんですよ。その本を以前に持っていた人の、なにかが残っているような気がしてますます怖い。
茶色く変色した紙もいやだし、前の持ち主がつけたのか、経年劣化なのか、ページをめくると時折あらわれる染みがいやですねえ。古本でホラーは勘弁。新品でしか読みたくない。
なのに『報いは報い、罰は罰』は新刊なのに染みがあるんですよ。よく見えないの。すごくいやじゃないですか?
ああ、いやだこの本怖い。あとあつーいお茶が怖い。

僕は本はためておくばかりで、売ったり捨てたりは基本的にしないのですが、この本は売ってみようかな。誰かが古本屋でこの本に出会ってほしいから。


報いは報い、罰は罰に関するマンガ情報・クチコミ一覧

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伊藤 ガビン

マンバ通信をちまちま編集中