三部けい『夢で見たあの子のために』ミステリー&人間賛歌の新たな名作!

2018/02/19 12:00

日々大量に刊行される新作マンガの1巻から、編集部がおすすめの1巻をセレクトする「1巻でました!!」。

今回紹介するのは、三部けい『夢で見たあの子のために』。

三部けいといえば、やはり傑作『僕だけがいない街』に触れないわけにはいかないでしょう。ちょっとだけ『僕街』のこと書かせてください。

「主人公がタイムリープの能力を使って真犯人を探し出す」という基本プロットだけ見ると、ありがちな気もするし、なんならちょっとさじ加減を間違えると陳腐になる可能性さえあると思うのですが、『僕街』は一切そんなことを感じさせなかった。というか、「SF的な設定を使えば使うほど、むしろミステリー感がどんどん加速していく」という展開にページをめくる手が止まらなくなり、しかしそのときは2巻までしか出てなかったので、あっという間に読み終わり、「早く続きを読みたい!」という強烈な飢餓感に襲われたのでした。

『僕街』はある時点で真犯人がわかってしまって、「真犯人はいったい誰だ?」というミステリー的なグルーヴはそこで止まってしまいます。が、それで作品のテンションが落ちることはなく、そこから素晴らしい人間ドラマ……荒木飛呂彦的な表現でいえば、「逆境に負けない強固な意思こそが未来を切り開く」という「人間賛歌」とも言うべきドラマが展開されていったのでした(三部けいは実際に荒木飛呂彦のアシスタントをやっていた時期があります)。

ミステリー展開だけでも十分面白い作品だったのだけど、後半の「人間賛歌」展開を見たときに、この作家の真の実力を見た気がしました。

『僕だけがいない街』はいったん8巻で完結したのですが、その後、外伝的なエピソードを収録した9巻が刊行されています。あと、アニメ化、映画化されていたのは知っていたけど、Netflixで連続ドラマ化されていたのは知らなかった。今度見よう。

で、今回の『夢で見たあの子のために』も、1巻からミステリー感をビンビンに発しているのです。まだまだ謎だらけでどう転がっていくのかまったくわからないけど、過酷な境遇で育ったキャラたちを見ていると、やはり「人間賛歌」的なものが根底に流れる作品になってくるのではないか、とも想像できる。

では、ちょいと序盤の展開をかいつまんで紹介しますね。ここまでの流れですぐ読みたくなった人は、1巻を買うなり第1話を試し読みするなりしてみてください。

物語の発端は、13年前に起こった凄惨な事件。

主人公の少年・中條千里は、このときの事件で生き残った子供。13年たった現在でも事件の記憶は薄れるどころか、家族を殺した犯人への復讐を考えながら日々を過ごしています。

復讐を果たすためにはとにかく金がいる……ということで、危険な仕事にも手を出し、幼馴染の女の子から心配されたりもしています。

じつは千里には、双子の兄がいました。双子には人知を超えた共通感覚があるという話がありますが、この双子は「痛み」の感覚を共有していて、さらにその「痛み」を感じた瞬間の「視覚」までも共有しているという、特殊な感覚を持ち合わせていました。つまり、双子の一方が父親に殴られると、もう一方もその痛みと殴られる瞬間の映像を感じるわけです。

そしてその双子の兄・一登も、13年前の事件に巻き込まれ、行方不明になっていたのでした。

両親と双子の兄の復讐を片時も忘れずに過ごしていた千里は、たまたま目にしたテレビ番組に、犯人につながる手がかりを見つけます。その手がかりを追っていくと……くらいにここでは話をとどめておきます。

『僕街』を読んでいた時の感覚でいえば、『夢で見たあの子のために』の1巻もまたほんの序章に過ぎないはずなのですが、しかし(読めばわかりますが)1巻の時点でミステリーのギアがけっこうな具合で入ってます。犯人の行方も気になるところですが、重い十字架・暗い過去を背負った人間がどうやって「自分の生」を獲得していくのか、というところも注目して続きを読んでいきたいと思います。

というわけで、三部けい「夢で見たあの子のために」(誰か良い略称考えて)の紹介でした。読んでくれ!


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前田隆弘

顔のこわさに定評のある編集者。広域指定編集業。著書に、同世代のクリエイターたちに「今の死生観」を聞いた「何歳まで生きますか?」(パルコ)がある。幼少期に読んだ「とどろけ!一番」の影響で、物心ついたときから「右手に鉛筆・左手に消しゴム」というスタイルで勉強してました。