ブサイク女子は性格美人じゃないといけないの?──『麗しのサブリナさん』の巻

2018/06/04 3:21

藤緒あい『麗しのサブリナさん』(以下同)

アタシ佐舞沢理奈22歳
みんなはサブリナって呼ぶわ

趣味はショッピングとカフェ巡りと自分磨き

髪もメイクもファッションもネイルも
いつだって完璧に楽しんでる

でも女の子をナメないで?

もちろん仕事もバッチリこなしてるの
仕事の合間にはとっておきのミントティーでリフレッシュ
ONとOFFをしっかり使いわけるのがデキる女
でしょ?

そんなあたしだけど
ひとつだけ悩みがあるの

え?
男たちからの視線が多いこと?

ううんそれはもう慣れっこ☆

悩みっていうのはつまり
アタシにふさわしい王子様がなかなか現れないコト…。

な、長い……。『麗しのサブリナさん』は、このようにめちゃくちゃ長い独白からはじまる。よくまあこんだけ喋るわなと思うが、サブリナは自己肯定感が強く、思い込みが激しく、どうかと思うほどロマンティックな女子なので、この冗長さがよく似合う。

いきなりのディスで申し訳ないが、彼女には現実を客観視する能力が激しく欠けている。実際、本人は仕事ができると思っているようだが、ぜんぜんできてないし、自分のことを「若くてかわいい女」だと思っているようだが、「意識高そうなブスだな〜」「オシャレを楽しんでるブスだな〜」とか言われている。ズレ方が尋常じゃない。

ご覧いただければわかるように、サブリナはブサイク女子として描かれている。困り眉につぶらすぎる瞳、団子鼻、そしてぽっちゃり体型……ソバカスとメガネがないのがちょっと珍しいくらいで、あとの要素はばっちり揃っている。

しかし、見た目とは裏腹に、そのマインドは叶姉妹ばりにポジティブ。少女マンガのブサイク女子には、自分がブサイクだと気づいてない女子、あるいは、気づいているけど笑い飛ばせる女子が一定数存在するが(古くは『はいからさんが通る』の袋小路つめ子、最近では『カンナさーん』のカンナなど)、サブリナはそうした女子の中でも群を抜いている。他の追随を許さぬポジティブさは、まさにファビュラスだ。

というわけで、彼女には、侮蔑の言葉も侮蔑として響かない。たとえばサブリナは、会社のイケメン「殿下(とのした)」と廊下でぶつかり「何よそ見してんねん/自分の幅考えろやコブタ」と言われても「ホント失礼しちゃう!/「コブタみたいでめっちゃ食べちゃいたいやん」/だなんて…/初対面でそんなエッチなこと…っ」と驚愕のポジティブ解釈で片付け、「あ〜ンもうっ/どうしてアタシってこういつのまにか男をトリコにしちゃうのかしらっ」と困って見せる。また、もうひとりのイケメン社員「王子」にブスと言われたときも「好きな女のコに「ブス」なんて言ってからかうなんてまだまだコドモね?/カ・ワ・イ・イ♡」と言っている。前向き〜!

容姿に対する侮蔑の言葉は、決して許されるものではない。容姿をバカにされたら怒っていい。それは当然の権利だ。しかし、サブリナは、何を言われてもすべて自分に都合よく解釈することで、他者からの悪意を漂白してしまう。そしてこの漂白プレイにやられた者は、二の句が継げなくなる。そりゃそうだ。何を言ったところで、「それもこれもわたしへの好意ゆえ」ということになってしまうのだから。しかも、相手の悪意に気づいていながら敢えてそういう解釈をしているわけではなくて、心からそう思っているのが彼女の強いところだ。

でも、そんなこと、ふつうのひとにはできない。ていうか、ものすごい美人にもできないんじゃないか。だからサブリナは共感を集めるタイプのヒロインではない。誰にも共感できない次元をたったひとりで歩いている、規格外の女。少女マンガのブサイク女子だけど、少年マンガのヒーローみたいだ。

そんなサブリナに振り回されているのが、先ほども登場した王子と殿下だ。ふたりとも、サブリナのことなんてちっとも好きじゃないのに、サブリナの勝手な解釈で三角関係ってことになっている。言うだけ無駄だとわかっているので、抵抗すらしない。もう、諦めの境地である。

 

ブサイク女子には「だけど内面が美しい」という但し書きが付されがちだが、ポジティブすぎてズレてるサブリナには、それもあまり当てはまらない。当てはまらないが、その屈託のなさは、周囲を諦めの境地に導き、呆れさせ、やがて笑顔にさせる(半笑いだけど)。なんかもう、参りましたという感じだ。
心優しくて人の痛みに敏感なブサイク女子ばっかりじゃ、つまらないじゃないか。もっと言えば、ブサイク女子=性格美人、みたいな決めつけの方がよほど失礼である。少々強引なブサイクヒロインにも、居場所を与えよ。本作を読んでいるとそう声を上げたくなる。

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トミヤマユキコ

1979年秋田県生まれ。ライター、大学講師。早稲田大学法学部、大学院文学研究科を経て、2017年4月から文学学術院文化構想学部助教。少女マンガ研究を中心としたサブカルチャー関連講座を担当。