マンガで(ひとまず)満たす「誰か俺のことも褒めてよ欲」

マンガで(ひとまず)満たす「誰か俺のことも褒めてよ欲」

こんにちは、Mk_Hayashiです。やたらと長い名前なので、代わりに連載タイトルを覚えていただけるとうれしいです。タイトルも負けじと長いので、最悪「ひとまず満たす」とでも。

毎回ひとつの欲望をテーマに設け、その欲望と潤い不足の心を満たしてくれる(であろう)マンガを紹介していくこの連載。今回テーマとする欲望は「誰か俺のことも褒めてよ欲」です。

連載2回目にして、書き手のドロドロとした感情がダダ漏れていますが、この欲望を満たしてくれるマンガとしてご紹介するのは……

■天国でセカンドライフを満喫する文豪たちが繰り広げるドタバタを、史実を織り交ぜつつハイテンションに描く教養ギャグ文豪失格シリーズ

■体幹は安定しているけど、情緒はとことん不安定! 体操のお兄さんと、ゆかいな仲間たちが送る、哀しみの人生賛歌マンガうらみちお兄さん

……の2作品です。

左・『うらみちお兄さん』1巻 久世岳/著(一迅社刊)、右・『文豪失格 文豪の恥ずかしい手紙編』千船翔子/著 一柳廣考/監修 AIR AGENCY・フロンティアワークス/原作(実業之日本社刊)

 

「誰か俺のことも褒めてよ欲」

いささか唐突ですが、仕事をする上でのモチベーションがどうしても上がらないとき、皆さんはどうされていますか? 特に心も身体も疲れ果てちゃっていて、ニッチもサッチもいかないとき。

自分の場合ですが、脳内に“すべてを肯定してくれるモフモフとした小動物”を召喚して「メール、返信したの? えらい!」「原稿ファイル、開けたの? すご〜い!!」と一挙一動を自画自賛して、一日を乗り切るようにしています。でも、この状態を長く続けすぎると、ひたすら虚しくなり、ボッキボキに心が折れそうになるんですよ。

そんなときにバズっている記事を、うっかり目にしちゃった日には、もう大変です。「う…うらやまじいぃ……」と嫉妬の炎がメラメラと燃えさかり、果てには「誰か(脳内の小動物以外で)俺のことも褒めてよおぉ……っ!!(号泣)」と承認欲求の権化となり、ただでさえ進んでいない仕事が、さらに進まなくなっちゃいます。面白い原稿を書けない自分に、そもそもの原因があるというのを頭では分かっていても。

ちょっとドン引いている人もいるかもしれませんが、こんな自分よりもさらに承認欲求をこじらせちゃっているのが『文豪失格』シリーズの中で描かれる、我らが文豪日本代表のひとりである太宰治(敬称略)。いや、自分と大文豪を比較するのも、おこがましいのですが。

左より『文豪失格』『文豪失格 文豪の恥ずかしい手紙編』『文豪失格 文豪、同人マーケットに出る!?編』千船翔子/著 一柳廣考/監修 AIR AGENCY・フロンティアワークス/原作(実業之日本社刊)

単行本に同録されている、日本近代文学研究者の一柳廣考氏による人物解説では「明朗闊達な話し上手、酒席ではいつも話題の中心にいたと伝えられている」と紹介されている太宰。

世間的に認知されている自意識過剰な人物像は「太宰が作品内で作り出した虚構の自画像に過ぎない」そうですが、『文豪失格』シリーズでは破滅型ナルシストな部分がとことん誇張されて描かれます。

例えば、目の敵にしていた“小説の神様”こと志賀直哉と、ひょんなことから運動をすることになった太宰。水泳競技では飛び込み宙返りをし、棒高跳びでは軽く3メートルは跳んでいたという、小説だけでなくスポーツも万能だった志賀のリア充っぷりを、天国でも目の当たりにすれば、ギリギリと歯ぎしりをし……

(『文豪失格 文豪の恥ずかしい手紙編』第1話「文豪の神様」より)

江戸川乱歩が探偵作家クラブの賞を坂口安吾に贈った(けど、坂口は受賞を拒否。賞金も返送した)と聞けば、文学賞とは無縁だった人生を(得意の自分語りをブッ込みつつ)嘆き……

(『文豪失格 文豪の恥ずかしい手紙編』第5話「文豪推理合戦」より)

生前に評価されただけ良いではないかと、無名作家で死んだ宮沢賢治に言われれば、激しく逆ギレをし(同じく死後に評価された)中原中也をイラつかせたりしています。

(『文豪失格 文豪の恥ずかしい手紙編』収録「文豪ショートマンガ」より)

こんな感じで『文豪失格』シリーズでは、嫉妬に狂う太宰の描写が、定番ギャグとして多々登場します。で、人格を疑われるのを覚悟の上で告白しますと、承認欲求の権化となった状態で嫉妬に狂った太宰を見ると、すんっっっっごく心が癒されるんですよ。それこそ、他の文豪たちの不遇を糧に、イキイキとする太宰みたいに。

(『文豪失格 文豪の恥ずかしい手紙編』収録「文豪ショートマンガ」より)
(『文豪失格 文豪の恥ずかしい手紙編』収録「文豪ショートマンガ」より)

万が一この記事を読んでいる皆さんが劣等感に苛まれたり、〆切に追われすぎて「誰か俺のことも褒めてよ!」という欲望で頭がおかしくなってしまいそうなときは、『文豪失格』シリーズを読むのは有効かもしれません。承認欲求は満たされずとも、情緒がけっこう安定し、人間らしさを多少は取り戻せるので(※効果には個人差があります)。

ただこの方法、「ゲスいと思われてもいいから、今すぐ心を整えたい!」といった緊急時には良いのですが、常用してしまうと性根がゆがみきってしまう可能性も高くなるので、気をつけねばなりません。

そこで併読書として提案したいのが、今回ピックアップするもうひとつのマンガ、2017年度「WEBマンガ総選挙」インディーズ部門で第1位に輝いた『うらみちお兄さん』です。

左より『うらみちお兄さん』1巻、2巻 久世岳/著(一迅社刊)

こちらの主人公は、教育番組『ママンとトゥギャザー』で、体操のお兄さんをつとめている表田裏道(おもたうらみち)、通称・うらみちお兄さん

大学の後輩には「裏道さんは体大でもエリートだったし俺たち後輩にとって憧れなんですよ」と言われる存在で、子どもたちといるときは目を細めてニコニコしている、見るからに心身ともに健やかそうな好青年です。

(『うらみちお兄さん』1巻 第1話「うらみちお兄さん」より)

でもうらみちお兄さん、実はかなり情緒不安定。目と口を開くたびに、大人として生きることのしんどさを、子ども相手にダダ漏らせちゃう程度には、情緒がグラグラしています。

(『うらみちお兄さん』1巻 第2話「先輩と後輩」より)
(『うらみちお兄さん』1巻 第2話「先輩と後輩」より)

ほぼ毎話、子どもたちに生きる辛さを吐露する、うらみちお兄さん。腐った魚のような目をしながら口にする強烈なフレーズは、ひたすら悲哀に満ちています。

(『うらみちお兄さん』1巻 第1話「うらみちお兄さん」より)
(『うらみちお兄さん』2巻 第11話「一人でできるもん」より)

でも、これらのフレーズ、妙に説得力がある上、変な説教くささもないんですよね。

きっとそれは目がどんなにヤバくとも、10分前行動を心がけ、日頃から(趣味でもある)筋トレに励み、共演者である歌のお兄さんが困っているときは、さりげなくフォローもできる上、なんだかんだ孤独をうまく飼い慣らしながら生きている、うらみちお兄さんの言葉だからこそ。

疲労とストレスで猜疑心が強まり、人間不信っぷりが酷くなっているときでも、心に届くうらみちお兄さんの言葉は、ある種のセーフティネットみたいに作用してくれると思います(※効果には個人差があります)。

少なくとも、社会性を放棄することを踏みとどめてくれるような気がしますし、うらみちお兄さんも作中にて以下のようなことを言っていますから、皆さんも休みやマンガ休憩をちゃんと取り入れながら、お仕事を頑張りましょうね。

(『うらみちお兄さん』1巻 第3話「チンダル現象」より)

ちなみに自分、持病の関係で下腹部が強烈に痛くて、脂汗を垂らしつつ原稿を書いています。もう今まさに、こんな気持ちですわ……。

(『うらみちお兄さん』1巻 第5話「お友だち」より)

マンガでメンタルは癒せても、フィジカルは癒せないから、皆さんも健康管理をしっかりしながら毎日を元気に生きてくださいね。それでは、また来月! みんな、バイバ〜イ☆(空元気)

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