車イスも肉体も感情も激しくぶつかり合う『マーダーボール』

2018/09/06 5:00

日々刊行されつづける新作マンガ1巻の中から、「これは続きが読みたい!」と思ったものを紹介していくこのコーナー。

きょう紹介するのは、コミックDAYSで連載中の肥谷圭介『マーダーボール』。肥谷圭介は、犯罪者だけをターゲットにした窃盗団を描いた『ギャングース』で連載デビューしたマンガ家。本作が2作目の連載作品です(ちなみに『ギャングース』は今年11月に映画化の予定)。

表紙を見てすぐ「ああ、車イスのスポーツマンガなんだな」というのはわかったのですが、それ以上の情報は入れずに読んでみました。車イスのスポーツといえば、まず井上雄彦『リアル』を思い浮かべる人は多いと思いますが、はたして『マーダーボール』はどんなマンガなのか。

主人公は、車イスの女子高生・海野アサリ。ある事故が原因で障がい者となり、高校に通いながらリハビリを続けています。序盤では、アサリの日常生活が描かれるのですが……。

リハビリの帰り道。車イスで子供にぶつかったのに、気づかわれるのは子供よりも自分という現実。

友達から合コンに誘われて、「車イスで合コンなんて、アタシが日本初なんじゃない?」と思いながら待ち合わせ場所に行ってみたら、こんな光景に出くわします。

合コン相手から「障がい者を連れてくるな」と言われた友達は、さすがにそのまま伝えるわけにもいかず、気をつかって「なんか人数足りてるんだって」とアサリに伝えます。

この「妙に気をつかわれてる感じ」に、アサリは言いようもないモヤモヤを感じている。きょうび、障がい者ということでストレートに差別意識をぶつけてくる人はあんまりいないのだと思います。「障がい者を連れてくるな」と言っていた合コン相手だって、本人がそこにいないと思っているからそう言ってただけで、もし目の前にアサリがいたら、たぶんちょっとごまかしたような言い方で断っていたんじゃないかと。

自分と世界との間には「気づかい」というフィルターがあって、生きていても「生身のままぶつかり合う」という感覚が得られない。アサリはそのモヤモヤを近親者にも友達にも言えず、一人で抱え込んでいる。

沈んだ気持ちのまま帰っていると、アサリの車イスさばきに目をつけた車イスの男性が「この後の予定は?」と声をかけてきます。ナンパだと思ったアサリは「アタシが障がい者だからいけるとでも思ってるの!?」と言って逃げる。男は追いかける。アサリはそれを上回る速度で逃げる。いつしかデッドヒートの様相を呈してきます。

すったもんだの末、男はアサリを体育館に連れて行きます。アサリがそこで見たのは、障がい者たちが車イスをガシガシぶつけ合っている光景でした。

このスポーツこそ、車イスのラグビー「ウィルチェアーラグビー」。車イス競技の中で唯一タックルが認められている球技スポーツです。車イスで激しくぶつかり合うことから、こうも呼ばれています。

ルールもロクに知らないまま、つい好奇心にかられて練習に乱入するアサリ(井上雄彦『リアル』のイメージが強いのか、パスを受けた瞬間、なぜかバスケのシュート態勢にw)。ぶつかり合いがOKということを聞いて、路上で声をかけてきた例の男・白川(実は元日本代表)に真っ向からタックル勝負を挑みますが、なんといっても実力者VS素人、しかも競技用車イスVS普通の車イスなので、アサリはあっさりとふっ飛ばされてしまいます。

いくらなんでも素人のJKにやり過ぎたのでは……とチームメイトが心配して駆け寄る中、転倒したアサリは晴れ晴れとした顔でこう言うのです。

ここまでが1話。作品自体も面白いけど、まず1話として、とてもよくできている。最初は試し読みで読んでいて、2話まで無料公開されていたのですが、ここまでの展開で「よし、1巻買おう」と思わせるに十分なものがありました。

ここまでで1巻買う気になった人は、もう読むのをやめてもらってもよいのですが、「いやまだまだ」という人のために、もうちょっと続けます。

1話のラストシーンがあんな感じだったから、2話以降はすんなりチームに入って練習を始めるかというと、そういうことでもなくて。

さっき出てきた車イスでのデッドヒートのシーン。なぜアサリは競技者でもないのに車イスのスピードが速かったのか。少年マンガ的な感覚でいうと「そういう才能を持っていた」「天才だった」みたいなことになりそうなのですが、実はそれには理由がありました。しかもそれは「自分が障がい者であるというコンプレックス」と密接に関係していた。

後天的に障がい者になった人は、「自分はもともと健常者だった」という過去についしがみついてしまう……というのは『リアル』でも描かれていたことですが、アサリもまたそのことと向き合うことになるのです。そこでアサリを説得するコーチの言葉がとてもいい。

ストーリーの話ばかりしてきましたが、このマンガ、絵に力強さがあるのがいい(あと口の描き方が非常に特徴的)。激しくぶつかり合う競技を描くのに、この絵はとても合っているように思います。

そしてなんといっても選手たちのクセの強さ。

チームメイトの川平さん。

ライバルチームの黒川さん。

1巻の時点でこれなので、2巻以降はさらにクセの強そうな選手が出てきそうなのも楽しみです。

というわけで、肥谷圭介『マーダーボール』1巻、おすすめです。まずは試し読みからでも。

*余談ですが、この8月に行われたウィルチェアーラグビー世界選手権で、日本代表が初の世界チャンピオンになったとのこと。日本代表メンバーをモデルにした選手もマンガの中に登場してくるようです。

マーダーボールのマンガ情報・クチコミ

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前田隆弘

顔のこわさに定評のある編集者。広域指定編集業。著書に、同世代のクリエイターたちに「今の死生観」を聞いた「何歳まで生きますか?」(パルコ)がある。幼少期に読んだ「とどろけ!一番」の影響で、物心ついたときから「右手に鉛筆・左手に消しゴム」というスタイルで勉強してました。