いじめの呪いを破るの、超気持ちいい『事情を知らない転校生がグイグイくる。』

2018/12/04 12:00

12月に入り、そろそろ「今年のマンガのベストテン」みたいな企画があちこちで出てくる頃だと思いますが、ここではそんな周囲の状況に惑わされず、しゅくしゅくと面白かった1巻の紹介をしていきます。

今回取り上げるのは、川村拓『事情を知らない転校生がグイグイくる。』。

今年、作者がツイッターで1話を公開したところ大いにバズり、のちに月刊ガンガンJOKERにて連載されることになった作品です。

川村拓(仮)@転校生 発売中! on Twitter

【創作】事情を知らない転校生がグイグイ来る

小学校でクラスメイトから「死神」と言われ、いじめられている西村さん。触れることさえ、みんなから避けられている(このパターンのいじめ、自分が小学生時代に見たやつそのまんまなんだけど、今でも実際にあるってことなんだろうか。やっぱりあるのはあるんでしょうね)。

そのクラスへやってきた転校生の高田くんは、そのへんの事情をぜんぜん知らない。それどころか、彼はあまりに無邪気で素直な子なので、西村さんが「死神」と呼ばれていることを聞いて「死神カッコいい!」みたいな解釈で、西村さんにグイグイ来るわけです。


毎回、そのグイグイっぷりをショートストーリーで描いているのですが(1巻には18話+描き下ろしを収録)。

読んでいて、すごくスーーッとなる感じがしたんですよ。

外部からやって来た事情を知らない人間が、いじめの文脈を次々に破壊していく様がとても気持ちよくて。

いや、実際のいじめはもっともっと陰湿なのかもしれないし、普通は「事情を知らない転校生」はむしろ新しいクラスに順応するためにいち早く「事情」をスポンジのように吸収して、なんなら過剰適応していくパターンだって多いのかもしれない。「マンガじゃん」と言われたらそれまでなんだけど。

でもこのマンガを読んでると、過去に見てきたいじめが「本当にしょうもないことだったんだなー」というのを痛感させられるんですよ。きっかけはしょうもないことであっても、この時期に植え付けられた自己評価の低さって、けっこう人生で長く引きずったりするものじゃないですか。

だから高田くんがいじめの文脈を(何の自覚もなく無邪気に)ブチ壊す様に、感情移入してしまう。そんでそのブチ壊し方がいちいち痛快なのです。

たとえば、西村さんと一緒に下校しようとする高田くんに対し、クラスの男子が「そんな死神と帰るより俺たちと帰ろう」と誘うくだり。

一休さんかよ。

いや、高田くんはあくまで真面目に言ってるだけなんですけどね。

そしてそれに続けての高田くんのセリフと、西村さんの表情。

だめだ。書いていて泣いてしまいそうになる(泣いている)。このへんのくだりに、このマンガのエッセンスがギュッと詰まっているように思います。

もちろんこの一件だけで、いじめの状況が変わるわけじゃない。このあとも西村さんは相変わらず自己評価が低いままだし、クラスメイトだって一度や二度高田くんに論破?されたくらいでは、「死神」という認識を変えてくれない。

それでも高田くんは毎回毎回、グイグイ行く。

彼は無知で素直だからそうしているだけなのだけど、そんな高田くんの姿を見ていると、「周囲の空気に左右されずに、自分が好きなものを好きだと言うのって本当に素晴らしい(そして当たり前の)ことだよな」と思ってしまう。

その昔、「好きなものは好きと言える気持ち抱きしめてたい」(槇原敬之「どんなときも。」)というフレーズにハッとしたのは、要するに現実ではそうじゃないことをたくさん経験していたからなんですよね。

あと、ずっといじめられて、人からほめられる経験がなかった西村さんが、高田くんのストレートな言葉に、顔を真っ赤にして照れるのも可愛い。絵的にかわいいってのももちろんあるけど、人間解放的な良さもある。高田くんの言葉や行動によって、西村さんがちょっとずつ呪いから解放されていってる感じ。


俺もやで。

巻末には2巻の予告があるのですが、夏休みの出来事が描かれるとのことで、今からとても楽しみ。

というわけで、『事情を知らない転校生がグイグイくる。』 読んでみてください。試し読みはこちらからどうぞ。

事情を知らない転校生がグイグイくる。のマンガ情報・クチコミ

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前田隆弘

顔のこわさに定評のある編集者。広域指定編集業。著書に、同世代のクリエイターたちに「今の死生観」を聞いた「何歳まで生きますか?」(パルコ)がある。幼少期に読んだ「とどろけ!一番」の影響で、物心ついたときから「右手に鉛筆・左手に消しゴム」というスタイルで勉強してました。