マンガで(ひとまず)満たす「中年だってカワイイものを愛でたい欲」

2019/01/07 12:00

こんにちは、Mk_Hayashiです。2019年も、どうぞよろしくお願いいたします。

ところで皆さん、キャラクターグッズとかカワイイものはお好きですか? 自分は好きです。というか、大好きです。「いい歳した人が、いきなり何言っちゃってんの……」と、思わず眉をしかめる人もいると思いますが。

30代前半の頃には「もういい加減、大人なのだから……」とカワイイものばなれを試みたのですが、どうもうまくいきませんでした。あれこれ悩んだ末「中身が子どもの自分が、無理に大人らしくふるまおうとすることの方が自然の摂理に背いている」という結論に至り、今や開き直って日々カワイイものに癒されながら生きている次第です。

しかし好きな服が必ずしも似合う服と限らないように、見てくれがカワイイから程遠い自分は、とことんカワイイものが似合わない。おまけに加齢によって、不釣り合いっぷりがどんどん激しくなりつつある。

これまで赤の他人(主に自分の趣味嗜好を知らない人)に見られたとき、なるべく不快感を抱かせないよう、自分なりに節度をわきまえながらカワイイものと付き合っていましたが、そろそろ“節度”の具合を見直すタイミングなのかもしれない。

そこで今回は、ツトムさんの『おじさんはカワイイものがお好き。』(フレックスコミックス)で「中年だってカワイイものを愛でたい欲」を満たしつつ、中年のカワイイものとの節度ある付き合い方について考えたいと思います。

『おじさんはカワイイものがお好き。』1巻・2巻 ツトム/著(フレックスコミックス)

『おじさんはカワイイものがお好き。』の主人公である小路三貴(1巻冒頭では40歳)は、タイトルからお分りいただけるようにカワイイもの好きの中年男性。「幼少時 男らしくあれと育てられた反動からか カワイイものに目が無い」という彼が愛するのは「犬をメインに展開する キットディランドの キャラたち」の中で、メインキャラに次ぐ人気をほこるパグをモチーフとした〈パグ太郎〉。

(『おじさんはカワイイものがお好き。』1巻 第4話「小路課長はスマホゲームのために一駅歩く。」より)

幼少時に出会ったパグ太郎を、現在までずっと好きでありつづけている小路さん。ファン歴(推定)30年以上の筋金入りである。

(『おじさんはカワイイものがお好き。』1巻 第4話「小路課長はスマホゲームのために一駅歩く。」より)

だが訳あって、パグ太郎好きであることはおろか、カワイイもの好きであることを、小路さんは一切公言していない。SNSのアカウントは持っているものの特に活用していないので、カワイイものについてネット上で密かに語り合う同好の士すらいない。

さらに元妻にも自分の趣味を打ち明けず、カワイイもの好きをひた隠しにしてきた結果、「私に何かずっと 隠し事してるでしょう……? そういうのもう 耐えられないの」と離婚届をつきつけられてしまう(ちなみに元妻との間には、子どもはいなかった模様)。

離婚への悲しみも多少あったと思われるが、諸々の手続きが済んだ現在、小路さんにとってはパグ太郎が全てである。

(『おじさんはカワイイものがお好き。』1巻 第5話「小路課長と週末ガチャの人。」より)

晴れてシングルの身となり、自宅に「パグ太郎を飾って ひとり暮らしを 満喫するつもり」満々でいた小路さん。でも今度は甥っ子の真純くんが、大学通いのため(部屋が決まるまでの期間限定で)下宿をすることになってしまい……と、世を忍び、カワイイものを愛でる小路さんの受難と(パグ太郎&カワイイものへの)愛に満ちた日々が『おじさんはカワイイものがお好き。』ではコメディタッチで描かれます。

エッセイストの酒井順子さんは、エッセイ集『中年だって生きている』(集英社)の中で、「キャラクターを愛でるという行為は、『他者を可愛いと思っている自分って、可愛い』と思うための行為でもあります。(中略)他者に対して『可愛い〜』と言うその底にあるのは、『私自身が、最も可愛い存在でありたい』という、大いなる野望。」と提言しています。

でも小路さんの場合、どうもこれに当てはまらないようにも思えるんですね。もはや“愛でる”というよりも、“崇める”とか“信仰する”という表現の方がしっくりするくらい、カワイイものへの愛がエクストリームなので。

あと酒井さんの言うところの“大いなる野望”が見え透かないように意識すれば、中年がカワイイものを愛でていても、ハタから見たときのキモさを(1ミクロンくらいは)減らせるような気もする。というわけで、ここからは『おじさんはカワイイものがお好き。』を読み、カワイイものを愛でる中年女として見習うべきだと感じた小路さんの言動をあげていこうと思います。

1. 最善を期待し、最悪に備えよ
第1話の中で「今では カワイイものが 好きだと言うことは 個性の一つだと思える だが 理解のある人ばかり でないことも 分かっている この趣味が原因で 過度に他人から 興味を持たれたくない」と、モノローグでカワイイもの好きであることを公言しない理由を語る小路さん。

(『おじさんはカワイイものがお好き。』1巻 第1話「おじさんはカワイイものがお好き。」より)

その根底にあるのは学生時代にカバンにつけていたキャラクターもののチャームをからかわれたときに「……もらい物で 別に好きで つけてるわけじゃない」と咄嗟に嘘をつき「大事にしていたものを 自ら否定しまった」ことへの罪悪感だと伺える。

(『おじさんはカワイイものがお好き。』1巻 第1話「おじさんはカワイイものがお好き。」より)

しかし年齢を重ね、人間誰もがお互いを完全に理解しあうのは不可能であると知り、“うそも方便”の真意を分かるようになった中年の我ら。カワイイもの好きを公言していようといまいと、人の目につく可能性があるカワイイものには、嘘にならない範囲で使用している言い訳を用意しておいた方が良いかもしれない。

(『おじさんはカワイイものがお好き。』1巻 第3話「小路課長は休日にコラボカフェに行きたい。」より)

2. 老いを受け入れても、理想は捨てるな
この世界のどこかにいるはずの“カワイイもの好きおじさん”たちの社会的地位を貶めるようなことを「自分がして しまわぬよう 日々精進するのみ……!!」と自分に言い聞かせながら、仕事に励む小路さん。ちなみに会社では課長というポジションにあり、部下たちからの信頼も厚い。

(『おじさんはカワイイものがお好き。』1巻 第1話「おじさんはカワイイものがお好き。」より)

しかし男女や貧富を問わず、誰にでも平等に訪れるのが老い。マンガのキャラとはいえ、小路さんも例外ではない。書類の文字がかすんで見えれば老眼を疑い「もしそうなら 受け入れるしかない…」と覚悟しつつも、推し(パグ太郎)が見えにくくなる哀しみに絶叫せずにはいられない。

(『おじさんはカワイイものがお好き。』2巻 第14話「小路課長とバレンタイン戦争。」より)

また加齢による新陳代謝の衰えなどで体重が増えれば「老いたとて 体型だけは 保たなければ…!!」と、ポケモンGO的なゲームで運動量を増やしつつダイエットに励む。

(『おじさんはカワイイものがお好き。』1巻 第4話「小路課長はスマホゲームのために一駅歩く。」より)

老いは受け入れても「カワイイもの好きの理想のおじさん像」だけは捨てない小路さんのストイックさは大いに見習うべきかもしれない。まだ40代だから自力でどうにかなるかもしれないけど、50代になったらレーシックや美容整形に頼ってしまう予感もしなくはないですがね……。

3. 衝動買いするその前に、使用時の自分を想像する
会社では課長というポジションにあり、それなりの収入があると予想される小路さん。しかしファンシーショップを巡るときは「見るだけ見るだけ…」と片っ端からグッズをカートに入れたい欲望をおさえ、例えプチプラなものでも使わない/使えないものは購入しない。

(『おじさんはカワイイものがお好き。』2巻 第10話「小路課長とファンシーショップ。」より)

物欲に流されてしまいそうなときに小路さんがよくしているのが、使用時の自分をイメージすること。品揃え豊富なパグ太郎の文房具を前にしても、実際に自分が使用している姿を想像して「まぁ無理なんだけど」と素直に購入を諦める。

(『おじさんはカワイイものがお好き。』2巻 第10話「小路課長とファンシーショップ。」より)

また若者が持っている痛バッグに興味を持てば「おれだったらどんな風になるかな…」と、まず想像してみる。

(『おじさんはカワイイものがお好き。』1巻 第7話「サラリーマンの夜。」より)

さらに着用している自分のディテールまで想像して「おれ似合わない 気がするなァ…」と、自分で自分を納得させる。

(『おじさんはカワイイものがお好き。』1巻 第7話「サラリーマンの夜。」より)

「文房具とか消耗品ならいいか!」とカワイイものを衝動買いしつつも、結局は使えずにいることが多い自分としては、この想像力を駆使して物欲を飼いならす小路さんの習慣は身に付けたい。

ただ想像力が豊かなあまり、コートを試着した際に店員さんにかけられた「部屋着に さっと羽織れば ワンちゃんのお散歩などにも──…」という言葉を「ワンちゃん(パグ太郎)の お散歩などに!?」と受け取って、想像力と物欲を暴走させていたりもする。

(『おじさんはカワイイものがお好き。』2巻 第8話「小路課長はスタンプを使いたい。」より)

何事においても、他人の言葉を自分の都合に良く解釈してはいけないことを痛感せずにはいられません。

以上、自分が(個人的に)思う、小路さんの見習いたいポイントでした。なんか、まとめ系サイトみたいになってしまったような気もしますが、気づかなかったことにさせてください。

なんだか作中における小路さんの(世間的に見たら)ヤバい(かもしれない)エピソード紹介のようにもなってしまったので、『おじさんはカワイイものがお好き。』が少し変わった趣味を持つ人の生態を面白おかしく描いている“だけ”の作品だと勘違いさせてしまっているので補足です。

作中では小路さんの日々だけでなく、何かと突っかかってくる&大人がカワイイものを持つことを理解できない同僚が大の猫好き(ただしリアル猫限定)だと判明して、関係性が(一進一退ではあるが)変化していく様子や、仲間(カワイイもの好き青年)が偶然できたことをきっかけに、人間関係や日々の楽しみが広がっていく様子も描かれています。

若い人や、ものすごくアクティブな人にはイマイチ理解いただけないと思うのですが、四十も過ぎると体力の衰えからか、日々の暮らしや仕事だけで手一杯になりがちなんですよ。で、「あー、なんとなくこのまま人生終わっていくのかな……」っていう気持ちも芽生え始める。まさに人生の黄昏ですよ。

でも好きな物事があったり、推しという存在がいることによって、中年の乾いた心と日々が(個人差はあれど)潤ったり、新しい人間関係が生まれたり、人間的な成長も自分がまだできる可能性があることを教えてくれる、すごくポジティブな作品だと思うのですよ、『おじさんはカワイイものがお好き。』は。

なので、大っぴらに人に言えない趣味を持って悩んでいる人のみならず、中年を迎えて「若い頃みたいに楽しくない……」と感じている人には、ぜひ一度読んでいただきたい。あと現実においても、小路さんのようにカワイイものを密かに崇めている中年男性も一人くらいはいると思うので、もし身近に“リアル小路さん”がいましたら、私の代わりに『おじさんはカワイイものがお好き。』をオススメしていただけると助かります。

あと作中に登場するパグ太郎をはじめとするキャラクターがとにかくカワイイので、カワイイもの好き(特にキャラもの好き)であれば、かなりの高確率で『おじさんはカワイイものがお好き。』を気に入っていただけるかと。それと版元さんには、作中に登場するパグ太郎のLINE風スタンプをリアルに制作&販売していただきたいですね……(パグ太郎マステはあるけど、これ以上“使えないマステ”を増やしたくないんですよ……)。

(『おじさんはカワイイものがお好き。』2巻 第8話「小路課長はスタンプを使いたい。」より)

なんだか回を重ねるごとに、中年女のお悩み&トラウマ暴露コーナーといった内容になりつつある本連載ですが、あらためて2019年もよろしくお願いいたします。

おじさんはカワイイものがお好き。のマンガ情報・クチコミ

おじさんはカワイイものがお好き。/ツトムのマンガ情報・クチコミはマンバでチェック!2巻まで発売中。 (フレックスコミックス )


1977年生まれ。無記名・匿名の原稿ばかり書いているため、自意識がゆらぎっぱなしのライター。〈偏読書評〉なるものを、noteにて細々と書いている。趣味は、散歩と読書。