実は先の展開考えてないんじゃ?疑惑の『ドラえもん』3巻レビュー

2019/04/12 12:10

長らくおやすみしていたこの連載ですが、特に意味のあるタイミングでもなく唐突に復活です!

ガビン いきなりなんですけど、3巻読んで思ったのは「あれ? なんかもしかして、超てきとうに描いてないですか?」ってことなんですよ。

 ははは。

ガビン 超てきとうというのは、まあ、言い過ぎなんですけどね。言い方を変えると、毎月毎月必死でネタを絞り出して描いていたんだろうな、って思ったというか。それゆえに辻褄の合わないところかなりあるんだけど、てんとう虫コミックス版は、前も話したけどダイジェスト版なので、整理されてみえる。しかし実際には、締切に追われて切羽詰まっていろんなトライを繰り返していたんだろうなと感じられるわけです。

 はいはい。

ガビン で、そういう制作体制とその時の心境が素晴らしいストーリーの昇華されているのが第一話の『あやうし! ライオン仮面』だと思うんです。

あやうし! ライオン仮面

ガビン これは作中に登場する『ライオン仮面』というマンガがありまして、作者はフニャコフニャ夫先生です。そのフニャコ先生が、ストーリーに行き詰まっているんですね。で、先のこと何も考えずに主人公を絶体絶命のピンチにしちゃって、わー次の回どうしよう!?  って話なんです。見切り発車というか「未来の自分に託す」派というか。で、僕はですね、実際にF先生にはそういうところあったんじゃないかなって思うんですよ。

 マンガの中だけじゃなく。

ガビン というのも、ドラえもんが始まる直前に掲載された新連載予告というのがあって、これがすごいんですよ。

1969年の「小学四年生」12月号に掲載されたドラえもんの予告ページ。(出典:『ド・ラ・カルト』小学館ドラえもんルーム編 )
 
ガビン 「正月から新れんさい」って書かれてて、机からなにか飛び出してるんだけど「出た!」って文字が描かれているだけなんですよね。この「出た!」の勢いがぜんぜんドラえもんらしくない。そういうことから、これ内容決まってたのかな? と訝しんでるんですけど。

 ドラえもんの形もないんですよね。

ガビン 情報はほぼない。

 期待感をあおる、という意味に見えなくもない。

ガビン ティザー広告であると。そう思ったんですけど、この『ライオン仮面』読むと、この決めずに先を描いちゃう感じ、もしかしてそのままなのでは? って思っちゃうんですよ。

 ああ〜なるほど。

ガビン この話では、ドラえもんがタイムマシンで『ライオン仮面』掲載誌の翌月号を買ってきて、その内容を作者が知ってしまって描くって話なわけです。しかも最後のオチも面白くって、作者が倒れて、ドラえもんがタイムマシンで買ってきた原稿を写すという。こうなってくると作者は誰なんだという非常に面白い問題が出てくる。

 でもストーリーマンガって、多くの場合、おおまかにこっちにすすむであろうことは指針としてあるかもしれないけれど、細かいところまでは決めてなさそうですよね。つまり言い換えれば行き当たりばったりってことなんですけど。それにドラえもん自体は一話完結だから、先のことまで考えてなくても不思議じゃないですよね。

ガビン そうなんですよ。いきあたりばったりって悪いことじゃない。米国のドラマシリーズとかもそうやって作ってるって話あるじゃないですか。マシ・オカさんがロストの脚本について語っていたインタビュー読むと、シーズン1の最後の部分「このハッチの中に何がはいっているか」という謎、その答え考えないまま終わって、シーズン2の脚本家オーディションで解決法の面白かった人を採用したっていう話があって、大好きなんですけどね。それライオン仮面とまったく同じ展開なんですよね。

 それが回収されるかどうか知らないけども、伏線を張るのは張っておくと。それもすごいな。

ガビン そうそう。でも計画しきってしまうよりも、自分に対して無理難題を投げる方式は、悪くないやり方だと思うんですよね。

 そうですね。むしろ無理難題が無いと、自分の想像の範疇を超えられない、ジャンプできないみたいなこともありそうです。

ガビン あと、そのほうがおおらかじゃないですか。ドラえもんって、すごくよくできた名作ではあるんですが、作られ方は優等生的じゃなかったんじゃないかなと思ってきました。よく読むとだいぶいい加減さが残っていて、そこがいいなあと思うんですよ。最近はこういうのは許容されないかもしれない。おおらかさが初期のどらえもんにはあったなと。

 うんうん。

ガビン 単にいま僕がこういうおおらかさを求めてるからかもしれないんだけど、実際にF先生がこういうだらしなさ持っていたら嬉しいなあと思ってしまうんです。

 しかしこの時間を越えて新しい情報を持ってくれば解決できるっていう話の構造は、よくよく考えると複雑ですよね。そういったパラドックスを扱う話っていうのが、3巻は比較的多い。

ガビン ですねー。しかし一話目から語りすぎましたね。次いってみましょう。

日付変更カレンダー

ガビン さっそくこれも時間がテーマなんですが。

 なんですけど、影響範囲がすごく狭い。

ガビン 「この近所だけ」なんですね。ストーリーとしては、のび太がクリスマスプレゼントを待ちきれなくて日付をいじるというもので。だけど実際には日付は変わってなくて、周りにいる人が勘違いするだけなんですよね。新聞とかは正しい日付のものが届くし。だから時間操作の装置に見えて、実は人の心を操ってるだけとも言える。

 そうですね。読書体験としてこの話が面白いのは、今日が何日として描かれてるかということを理解してないと読めない。のび太の家族だけは日曜日だけど実際には……ということを理解してないと楽しめない。これ結構高度な読み方を要求してくるんじゃないかと。

ガビン アー。ぼーっと読んでるとあたまぐるんぐるんになってきますね。コントで演ったら面白そう。

ママをとりかえっこ

ガビン 「家族合わせケース」というひみつ道具で家族をシャッフルしちゃう話です。自分のママにそれぞれうっぷんが溜まってるんですね。

 これは立場を変えてものを見るっていう話ですよね。さっきのと同じで、関係する人にそう思い込ませるという。

ガビン しずちゃんのママはのび太が自分の子供だと思い、のび太のママはスネ夫を自分の子供だと思うという具合に。

 家族の設定を変更するっていう道具だと思うんですけど、「怒ってばかりのこんなママいやだ!」って思うけど、同じのび太のママに対峙したスネ夫は「のび太のママやさしいじゃない」と思う。のび太に向かって「公平に見てきみにも反省すべき点があるよ」って言ったりしますよね。立場が変わると、評価の視点が冷静になるっていうのは面白いですよね。

 あと意外だったのは、のび太がしずちゃんの家にいくじゃないですか、そこで人形ばっかりで遊ぶものがなくて暇だからって、宿題やったりお手伝いし始めるという。あれ? やるんじゃんとか思ったり。

ガビン 環境が人変える論者なんだろうか。あと、このオチはどうですか。のび太がしずちゃんちで水をかぶってしまって着替えをした時の忘れ物を届けられて。

 のび太のママに「どうしてしずちゃんのところで、パンツなんか忘れてきたの。」って問い詰められる。

ガビン これダメなヤツですよね。自分の息子が、小学生の女の子の家に遊びにいってパンツ届けられたら、土下座しますよ。

 あと、これ届けられたってことはパンツに名前書いてあったんでしょうね。「のび太」って。

 

シャーロック・ホームズセット

ガビン シャーロック・ホームズ読んで感化されたのび太が推理するという話です。道具に頼ってますけど。事件は、しずちゃんの本=シャーロック・ホームズがなくなってしまうというものなんだけど。まあ、のび太がなくしてるんですよね。

 そのなくす瞬間が、ちゃんと描かれてるんですよ。冒頭、のび太がシャーロック・ホームズを散歩しながら読んでいて、そのままシャーロック・ホームズのストーリーがマンガで描かれて。

ガビン 劇中劇的に。

 で、そのマンガから戻ってきた時に、もうのび太の手に本がないんですよね。

ガビン ホントだ! 実に自然になくなってる。

 その後、本を散歩の途中でなくしたってことで伏線が回収されますけど、そういうことちゃんとやってるんだなって。

ガビン 自然に見せるために結構複雑な構成になっているんだけど、それを感じさせないですね。

 道具も複雑。名前からしてホームズ・セットなので。方向示したり、覗いて手がかりを示したり、いろんな道具がセットになってる。これって、のちのち出てくる道具のいくつかのヒントになってるような気がするんですよね。

ガビン ああ〜。確かに。今回オールインワンな感じで登場したけど、ひとつひとつ面白い機能ありますね。それと冒頭で、のびた自身もホームズ読んだ影響で賢くなってるんですけど、いいこと言ってるんですよねえ。

「ようするに注意ぶかく観察することがだいじなんだ。そして考える」

ガビン このセリフ、菅さんの著書『観察の練習』の言ってることと同じですよね。

 そうですね。これはあくまで持論なんですけど、賢さって突飛な才能とかそういうのとは関係なくって、ただひたすら「丁寧に考える」ってことだと思うんですよね。だから、この話でものび太が色々冷静に現状を見て、よく考えてみると…っていう感じで賢い推理を見せるのは、そうそうそうだよな〜って思いました。

スケジュールどけい

 
ガビン これ冒頭のシーンが最高に好きなんですよ。ドラえもんがぼーっとしているのび太に向かって、なに考えてるのと聞くと
 
「いろいろしなくちゃならないことがたくさんあってさ。
あれをしようか それともこれをはじめようかと考えているうちに………。
時間がすぎちゃって、けっきょくなんにもできないの。」
ガビン なんてこと言わせるんだと思いました!

 まあでものび太のキャラクターを端的に表していますよねえ

ガビン 自分のキャパシティを超えるとなんもできないというか。

 シャットダウンするという。

ガビン 防御本能として正しい気がしないでもないですね。それはさておき、マンガの内容の方は、とにかくスケジュールを時間通りにこなさせるマシンですね。

 意味がなくなっても、とにかく守らせるというところの滑稽さですよね。雨が振っていても時間になったから野球をやらなかきゃいけないみたいな。でもドラえもんが巻き込まれるっていうのは珍しいパターンじゃないですか?

ガビン のび太スケジュール設定しようとしてうまく設定できず、かわりにドラえもんが操作したことでドラえもんが機械のターゲットになってしまう。このドラえもんの行動が、結構ダメじゃないですか。

 だいぶダメですよね。

ガビン これドタバタコメディっぽく描かれているけど、現代の視点で見るとも風刺がバリバリのマンガに読めちゃいますね。規律を守ることが絶対で、効率を考えてない。役所や学校の問題点を揶揄するような。

 時間どおりに出社してれば仕事はできなくても評価されるみたいな。そういうことと近いですよね。

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