荒唐無稽で繊細で。『書道教室』(筒井秀行 )を読んだ。

荒唐無稽で繊細で。『書道教室』(筒井秀行 )を読んだ。
いまさらゴールデンウィークの話をしたいんですけど。
 
GWの効能として、積読の消化というものがありますよね。まあ、思ったほどは読めないというのは旅行先の読書と同じなんですが、それでも今年は部屋の中で地層と化したマンガをずるずると発掘し、まあまあ読めました。
 
自分の部屋から出土するマンガというのはまるで自分の好みを知り尽くした誰かによる選書のようで、というか自分で選んで買ってるんだけど、とにかく、あー、これずっと読みたかったやつだわ〜とかつぶやきながらページをめくるわけですね。
せっかくの休日だし、仕事を忘れて単なる読者として楽しむゾウって感じで読み始めるんですけどね、しかし、あ、、、これは発売時に紹介したかったな、、、、とか後悔しはじめちゃったりして、単純には楽しめない。
というわけで、時期外れではありますが、まずは一冊紹介させてください。昨年末発売『書道教室』(筒井秀行 / リュウコミックス)という作品です。
 
 
僕の好みのど真ん中は、「荒唐無稽な表現で些細なことを繊細に描く」ってものなんだけど、この作品はまさにそういうあれでした。
 
まずは無料公開されている第一話を読んでもらうのが一番なので読んでみてほしいんですけど。
ここで読めます。
 
と言ってはみたものの、みなさんがリンクをいちいち踏んでくれるほど時間を持て余しているわけはないと思うので、必要最低限の引用でご紹介していきたいと思います。
 
 
 
主人公の斉藤圭さんがレストランで意中の人とデートする。すると次から次へとレストランの従業員たちが手を変え品を変え告ってくる。そのすさまじい告りを斎藤さんは、バッタバッタとなぎ倒し、ひいては告られる前にごめんなさいを繰り出して、からの、主人公自らの彼氏に対するプロポーズ。
 
 
撃沈、と。
 
このタイミングで、お祖母さんの体調の変化、主人公の心の変化などを経て、お祖母さんがやっていた「書道教室」を引き継ぐことになる。この書道教室でのエピソードを中心に、物語が紡がれていくわけですね。
 
このマンガ、各話、エピソードごとにさまざまな手法で描かれているんですよね。わかりやすい例でいえば、ラップ調でぐいぐい押してくる回。
 
 
お祖母さんのやってた書道教室では、そろばん、カラオケなども教えていたらしく、ここではそろばんの読み上げをやってと迫られてやってみたのが上記のラップ的シーン。
韻をきれいに踏んでいるというよりも、読み上げる数字と主人公の生き様を語る台詞回し、各コマの演出が楽しい回です。
 
もうひとつだけ。
久しぶりに天然のヤンキーが発生して、そのヤンキーに助けられた書道教室の生徒が、お礼を言いに行く回。ヤンキーとのコミュニケーションをとるために、むかし出版された書籍『ヤンキー会話』を勉強してヤンキーに再会します。なに説明してんだかさっぱりわかんないでしょうけど、マンガ読むとわかります。
 
 
まあ、そんな素っ頓狂なマンガなのですが、僕が特にうなったのは、むしろ普通のマンガ部分の演出のうまさですね。
 
マンガでも映画でもその製作者の巧拙が如実に出るのは、何気ないシーンの、何気ない台詞。それがどんなシチュエーションで、どんなことをしながら吐かれるのによって、はっきりと出ています。うまい人は、さりげないシーンに自然に濃密な情報を詰め込んでくる。
 
主人公がフラれた直後の、友達との会話のシーン。
 
 
ファミレス? なんとかバーガー? のボックス席でのこの座り方、キャップの具合、すべていい。対する同級生であろう友達のコンサバ具合と、ゼロ歳後半から1歳くらいの子連れ感のコントラストも効いてる。
 
 
 
そして大人同士のわりとシリアスめな話をしている時の、子が主人公のあたまをよじ登る感じも最高。
このくらいの子どもは、大人の会話などどこ吹く風でぐいぐいとあたまを登る。しかし……。
 
ほんとにクリティカルな会話の時だけ、正しく反応するこの赤子の察知能力よ。
 
ちゃんと発売時に大プッシュしたかったな〜と思いつつ、未読の方はこのタイミングに是非。

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