『水は海に向かって流れる』 田島列島インタビュー

2019/10/17 12:00

写真 杉山亜希子(ゆかい)
 
講談社「別冊少年マガジン」で『水は海に向かって流れる』を連載中の田島列島さんのインタビューです。
 
田島列島さんといえば、2014年の初長編『子供はわかってあげない』(上下巻 / 講談社)一発でマンガファンの心を鷲掴みにしました。
水泳部の女の子と書道部の男の子が絶妙な体温でやりとりする青春ストーリーでありながら、父親探しに新興宗教や超能力まで絡むという、荒唐無稽かつ甘酸っぱいという見事なバランスを持った作品。初の単行本にして、いきなり「このマンガがすごい! 2015」のオトコ編第3位になるなど様々なマンガ賞にずらーっとランクイン! も納得の素晴らしい作品でした。
 
が、しかし、寡作。めちゃくちゃに寡作。
 
『子供はわかってあげない』以降、ほぼ完全に沈黙。短編すら発表されずに、ファンたちの喉がカッラカラになっておりました。あれから4年。突然「別冊少年マガジン」に1本の読み切りが掲載され、その後半年待って、ついに始まったのがこの連載なんです。
 
(『水は海に向かって流れる』©︎田島列島/講談社)
 
5月には、めでたく単行本第一巻が発売されました。その瞬間にわたしの観測範囲のマンガファンたちから嬉しい悲鳴があがりました。すごい、おもしろい、さすが! と。その中で多くの人が「いますぐ続きを読ませてくれ!」と叫んでいて、あれ? そんな作風だっけ?と思いつつ、わたしも読んでみたらまんまと「おおおおい! いますぐ2巻出して!!」と叫んでましたわ。
この後の展開が気になって気になって、気づいたら取材を申し込んでおりました。
 
内容をスーパーざっくり書きますと、高校進学で家を出て叔父さんの家に居候することになった直達(なおたつ)くん。しかし、最寄り駅に迎えに来たのは見知らぬ女性の榊さん。しかもこの叔父さんの家というのがシェアハウスになっていて、女装の占い師やら、留守がちな大学教授とか、ひとくせある人たちばかり。叔父さんも親戚にないしょでマンガ家に転職していて……。
って書いててもさっぱり伝わらないので、やっぱり無料公開されている第1話を読んでもらえると吉です。
 
前作は青年誌「モーニング」(講談社)での連載でしたが、今回は「別冊少年マガジン」(講談社)という少年誌での連載! しかし田島節は絶好調なので、もちろん大人のみなさんにも読んでいただきたい(というかこれ子供読んでるのかな??)という内容になっております。
 
とにかく、マンガファンが待ちに待った田島列島先生新連載、ってことで、インタビューどうぞ。モーニング時代からの担当編集者 週刊少年マガジン編集部の篠原健一郎さん(※所属はインタビュー当時。現在はモーニング編集部に復帰)にも同席していただき、思いっきり話に加わっていただきました。
 
──勢いあまって取材を申し込んだわけなのですが、1巻出てすぐインタビューって無粋ですよね。今後の展開聞いてもしょうがないし、、、、しかし聞きたいことが山盛りでして。
 
田島 はい。
 
──まず、今回のお話ってすごく複雑な構成だと思うんですね。どうしたら、こんな話が作れるんだろう? と。前作の『子供はわかってあげない』の時は、ネームを全部描ききってから連載スタートしたというかなり常識はずれの描き方だったとなにかのインタビューで読みました。今回もやはりネームが最後までできてたりするってことなんでしょうか?
 
田島 えーと普通に……1話ができたら(編集者に)見せて、2話目ができたら見せて、2話目が一回ボツになったりして。
 
──え! じゃあ前作とまったく違う作り方なんですか?
 
田島 そうですね。
 
──てっきりこの複雑さ、またネームを作りきって描いたのではと勝手に思い込んでいました……しかし1話ごとに描いているとなると、あらためていろいろと疑問があるのですが、例えば第1話で、主人公の高校生直達くんを、榊さんという女性がたまたま迎えにきますね。この時、榊さんの表情や振る舞いは、後々わかってくる彼と彼女の関係性を知ると非常にこうグッとくるものなわけですけど、これは複雑なプロットができてないと難しい表現だなと思ったんです。
 
篠原 実はこの1話目って、ネームの段階では少し違ったんですよ。今おっしゃった関係性が丸々抜けたネームだったんです。
 
──おお……!
 
篠原 おじさんのかわりに榊さんが迎えに来るのは一緒なんですけど、その関係性がはっきりしないネームだったんですよね。ただ、その榊さんと直達くんの様子が、これは続きを読んでみたいなと思うものだったので書いてもらったんです。
 
冒頭の3ページ。この表情、テンポ。マンガ史に残るオープニングだと個人的には思う。特に最後のコマの榊さんの(無)表情。マンガを読み進めてから、ここに戻るとかなりエモーショナルなコマだなと思う。 (『水は海に向かって流れる』©︎田島列島/講談社)
 
──まだ関係性が生まれてなかったんですか?
 
田島 最初「グルメマンガ」って言ってネームを渡したんですよ。
 
──え、グルメマンガを描こうとしてたってことですか?
 
篠原 1話目でポトラッチ丼が出てきますよね。
 
──はい、文化人類学でおなじみのポトラッチにヒントを得た、ムダに大盤振る舞いのドンブリ飯ですね。
 
表情もセリフも完璧なシーン。 (『水は海に向かって流れる』©︎田島列島/講談社)
 
篠原 で、2話目でもなんか料理しますとか言って。それで2話目のネームが出来てきて読んだら、二人の関係性は全然進まずに、家にニラがあったから卵を買いに言ってニラ玉を作りましたっていう話だったんですよね。これは困ったぞと。
 
──しかもニラ玉って、普通にもほどがありますね。

田島 笑。はい。それで、ちょっとグルメマンガっていうのは難しいんじゃないですかねえという話に。

篠原 高校進学の話なのに学校行ったりもしないし、動かないんで、なんかとにかく状況進むような感じで書いて欲しいと話したら、2話目もできたんですけど、まだその二人の間の因縁は生まれてないんですよ。

田島 で、出てくる人、出てくる人、なにかしらありそうなんで、このままなにかつかめるまで描いてみますか、っていう話をされて。

──そういう進め方なんですね。まだ作者も登場人物をわかっていないけれど、なにかがあるというような。

篠原 そこから多少時間があいて、3話目のネームができたというので見せてもらったんです。そしたらいま世に出てるのと同じ関係性が出てきていて、それに付随して1話目と2話目が少し修正されてるんですよ。そしてその少しの修正だけで、全体がそう見える。

──……すごいつくり方。
 
田島 最初のネームでは、榊さんの不機嫌な雰囲気とか、なぜ不機嫌だったのかわからなかったんだけど、それがわかるようになったんですよ。それだけで1、2、3話がいっきにできた瞬間があって。
 
──作ったというか、気づいた、という感じなんですかね?
 
篠原 僕としてはそれを読んだ瞬間に「これはいける!」と思って別冊少年マガジンの班長(編集長)に提案したんですよ。そしたら、ものの30分くらいで「面白かった」って返事がきて。
 
──しびれる展開ですね。
 
篠原 その班長から「参考までに聞きたいんだけど、どういうふうにしたらこういうマンガって始まるの?」って聞かれて経緯を話したら「……そんな立ち上げ方があるのか……」と驚いてました。普通は、もうちょっと1話目に入る前にすったもんだして、1話目の一稿目ができてからも話を揉んで始めるので。
 
──ですよねえ。しかし、これは、田島さんの頭の中には、はじめからそういう関係がなんとなくあったんですか?
 
田島 うーん、ぜんぜん知らなかったですね。
 
──知らない……作ってないというより、知らなかったって感じなんですねえ。
 
田島 1話目2話目までは、本当にふたりの間になにがあるのかわかってなくて、3話目を描く時に、いまの状態はお話をひっぱっていく力がないなとは思っていて、ふたりの間に秘密があるのかなと考えていたら、駅の階段を昇っている時に「わかった」んですね。思いついたというよりも「わかった」んですね。
 
──わかったというのは、えーと、「そうか、あのふたりそういう関係なのか!」みたいなことですか?
 
田島 はい。
 
──「だからあんな感じなのか!」とわかったと。もうキャラクターは生きて動いていて、その理由に作者が後から気づくという。
 
篠原 だからそれ以前をちょっと直すだけで成立するんでしょうね。
 
田島 お話はキャラクターが持ってくるっていう感じですよね。
 
──すごい……しかしそうしたストーリーの細部がが決まってない段階で、あのふたりのキャラクターを造形して登場させているわけですよね。どこまでなにが決まっていたんですか?
 
田島 ああ……それはですね、前作はモーニングに描いていたんですけど、篠原さんがマガジンに異動になって。マガジンでなんかやるとしたらラブコメだなと私が勝手に思ったんです。
 
──ラブコメ!? それであの二人が登場したと。
 
田島 そうです。少年誌だから、主人公は少年で、あと読者の方からのお手紙に「田島列島に住みたい」って書いてあったんですよ。だからシェアハウスものだなって。ははははは。
 
──えー。
 
田島 それで、男の子主人公で、シェアハウスもので、ラブコメだったら、年上お姉さんっていう、そういうお話の定番として。
 
──『めぞん一刻』みたいな……? ということは、田島さん的にはこれをスタンダードなものを描こうとしたってことなんですか。
 
田島 はい。
 
──スタンダード……だったのか……。

前作は長い短編だった

──前作とはぜんぜん違う、1話ごとに作っていくというスタイルをとったのはなぜなんですか?
 
田島 一番大きいのはお金の問題ですね。
 
──お金の……?
 
田島 お金が全然なかったんですよ。前作の時はネームを全部やる余裕があったんですよね。というかあのネームがすごく早くできただけなんですけど。今回はもう1話から3話のネームを作るまでに5ヶ月くらいかかっちゃって、もう全然お金がないので、1話分のお金を貰えるんなら貰いたいと、そういう理由ですね。
 
──そりゃまた世知辛いというか、なんというか、意外な。では、やり方を変えようとしたわけじゃなく、やむにやまれずだったんですね。ネームはできてないまでも、物語の行く末というのは見えているんですか?
 
田島 うーん、いちおう……ぼやーんと。「こういうシーンがあるなぁ」とは思ってるんですけど、ちゃんとそこにたどり着けるかはわからないという状態です。
 
──結構、複雑な人間関係というか、入り組んでますよね。これがこの先、ほぐれていく道筋というのはあたまの中にあるのでしょうか?
 
田島 ないですね。
 
──前作のつくり方が衝撃的だったので今の作っていき方が意外に感じますが、考えて見れば普通になったってことでもありますよね?
 
篠原 前作はすごく長い読み切りを描いたみたいなところがあって。
 
──ああ……確かにすべてネームを上げてから描くというのは短編のつくり方ですね。
 
田島 2ヶ月くらいでネームが全部できて、すぐ連載決まって、そこから2冊分の300数十ページの原稿を、延々ひとりで机に向かって描くという感じだったので。
 
──それはつらそう……ある意味「作業」が延々続くという感じになりますよね?
 
田島 そうなんです。毎日同じことの繰り返しを延々。
 
篠原 途中で明らかに疲弊している時期がありました。一回だけ間に合わなくて休載して。傍目にも疲れている感じでした。
 
──長期戦ではあったけれど、いわゆる「連載」の作業とは違っていたと。
 
田島 だから『水は~』を始めるまで、まだ「連載」というものを経験したことがなかったんです。

篠原 かつては連載用のネームを……ということでやりとりしたこともあったんですけど、その時はうまくいかなかったので。

──過去には密な打ち合わせをしていたんですか?

篠原 10年以上前、担当になったばかりの頃は1話1話毎週打ち合わせみたいなことをしていたんですけど、当時の編集長にボツを食らったり、話が続かなかったり、どうもうまくいかなくて、音信不通の時期もあって。それから読み切りがババッとできた時期があって。

──音信不通!!
 
篠原 電話しても繋がらないから手紙書いたんですよ。そしたら返事が手紙できて、何月くらいにまた連絡します、と。でも普通はそんなの連絡来ないじゃないですか? でも来たんで、あ、この人なりのペースがあるんだなと。
 
──お金の話、もうちょっと聞いてもいいですか? 単行本が発売されてあちこちで評判になったわけですが。
 
篠原 はい。望外の評判を得ることができました。そして評判になったことで、思ったよりもお金がもらえた。
 
田島 そうですね。
 
篠原 それまで、すっごい家賃安いところに住んでたんですけど、このままそこに住んでいるとお金が長いこと減っていかないから、普通の家賃の部屋に引っ越したんですよね。
 
──それはつまり、お金のなくなるペースを速めて仕事させるために!? マンガの編集ってそんなことまで考えるんですか。
 
篠原 元々は「なんとか荘」みたいな感じのところに住んでて。
 
田島 水道代込みで4万5千円の部屋に住んでたんですよ。
 
篠原 東京の家賃の底値って感じですよね。駅から徒歩15分で。
 
田島 そこから普通の部屋に。
 
篠原 引っ越したところも高いわけじゃないので、定収入があればそんなに家賃は重圧じゃないはずなんですけど、マンガを描けてなかったので。
 
──でもなにかはしてるわけですよね、マンガの。
 
田島 一応お話は作ろうとはしてたわけですよね。でも、なんだろ……あの頃うまくいかなかったのはやっぱり大殺界のせいだとしか思えない。
 
──大殺界! 細木数子先生ですか……。

篠原 それまでもいろんなプロットを持ってきてくれたりしたんだけど、うまく動かなくて。

田島 いちばん最初にキャラクターを考えなくちゃいけなかったのかもしれないですね。

篠原 とはいえキャラクターから考えようっていって簡単に生み出せるものでもないですもんね。

田島 そうですね。

──動き出してよかった……。

田島 運がいいだけみたいな気がします。
 
篠原 ずっと悩んでた時間がなにか生み出したんでしょうね。
 
──これだけ前作から時間が空いたのはなにかコレということがあったわけではなく?
 
田島 うーん……まあ、大殺界と厄年が被ってる3年だったっていう。
 
篠原 細木数子さんの本でいうところの大殺界って3年間で、それがおわったから描けると思います、って言ってて、終わってみたら実際描けたという。いい感じに大殺界のせいにできましたね。
 
──前作の『子供はわかってあげない』がとても高く評価されましたけど、そのことについてはどう思われました?
 
田島 通じたんだなっていうか、人にわかってもらえた? わりとたくさんの人に受け入れてもらえたんだな、と。
 
──それが意外でもあった? 多くの人に受け入れられたことで今回の作品になにか変化はありましたか?
 
田島 うーん、プレッシャーに弱いので、あんまり考えないようにしたというか。誰かも言ってたけど、セカンドアルバム症候群でしたっけ? 
 
篠原 『子供はわかってあげない』は、連載終わってから上下巻一発で出したので、描き終わったあといっぺんに反応が来たんですよ。すごいよかったですよ! って終わった後に絶賛されて、次回作どんなのですか? ってすごい期待をされてる感じを直接受け取りまくっちゃったのがプレッシャーになったのかもしれません。
 
──あー。連載中に受け取る絶賛とはまた違いそうですね。
 
篠原 期待に応えないといけない気がして描きにくくなってるって田島さんも言ってましたもんね。まあ、それも時間がたつとだんだん……。
 
──それを消化していった三年間でもあったと。
 
田島 そうですね。
 

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