『水は海に向かって流れる』 田島列島インタビュー

2019/10/17 12:00

美大に入って、話を作ることはできるけど、人を使うことはできないと気づいた

 
──田島さんご自身についてもいくつか質問があります。「子供の頃読んでいたのは『ちびまる子ちゃん』」というのをインタビューで読みましたが、自分がマンガを描くようになってから気づいた、影響を受けた作家はいますか?

田島 高野文子さんは強かったですね。特に投稿してデビューした作品には、そうした影響が反映していたかもしれません。だから、そのあとはずっと見ないようにしてました。

篠原 新人賞の授賞式の時にみんなに「田島さんの作品で高野文子さんを思い出した。高野文子さん、好きでしょ、やっぱり」みたいなことを言われて封印したんですよね。でももう封印はといて読んでるんでしたっけ?

田島 ときましたね。『ドミトリーともきんす』で。
 
──重力圏から脱して、読めるようになったと。ところで美大の映像学科に通われていたということですが、それはつまり元々は映像を志していたっていうことですか?
 
田島 そうですね。高校生が考えることですよ。北野武の映画を見て「やろう!」っていう。
 
──じゃあ、映像っていうより映画ってことですか? 映画をやるための映像学科って実は結構少ないですよね。どこか聞いてもよいですか。
 
田島 多摩美の映像演劇学科です。
 
──あの、今はなき映像演劇!
 
田島 なくなっちゃいました。映像も演劇も写真もやる人もいて面白かったんですけど。
 
──演劇だと「快快」とかの出身学科ですね。
 
田島 はい、同じ時期の上の学年にいましたね。
 
──物語全般に興味があった?
 
田島 そうですね。物語がやりたくて行ったんですよね。
 
──でも映画の方にはすすまなかったんですね。
 
田島 学校に入ってみて、自分が話を作ることはできても、人を使うことできないことに気がついたというか。
 
──映画は、人を使う仕事ですものね。
 
篠原 その点、マンガは自分一人でもできますもんね。
 
──映像演劇学科にいった影響というのはあるんですか?
 
田島 ありますね。あそこに行ってなければ出会えなかった映画もたくさんありますし、卒制は舞台をやって、よかったって思ってます。
 
──大学の時は、演劇的なこともやってたんですか?
 
田島 そうですね。一年生の時は強制的に誰かと組まされて演劇やったり映像も作ったり。2年生からはわりと自由にできるんですけど、人の舞台手伝って、アニメを作って。3年生のときは4コママンガを描いて、アニメを作って。4年生では舞台をやってましたね。
 
──どんな舞台だったのでしょう?
 
田島 ちょっと変わった舞台で、メンバーは、写真の子と、舞台に出る子たちと、衣装をやる子と私の5人でやったんですよ。写真をやる子が舞台上に大きなカメラオブスキュラを作って、紗幕で中の人を見せるっていう。わたしはチャリンコフリッカーっていうのを作りました。チャリンコをフリッカーにしたもので。
 
──えーと、つまり自転車の車輪部分とかをフリッカーに見立てて?
 
田島 フィルムに一個づつ描いたものを、穴開けて、貼っつけて、アニメを見せるっていうのと、オリジナルのラジオ体操みたいなのを作って、ふりつけは友達がやったんですけど、その動きに合わせて白い人を描いて、それをプロジェクターで、白いところにちゃんと人が来るようにして、やるみたいな変わった舞台をやったんです。
 
──ぜんぜん想像できないです(笑)。それが卒業制作だったんですか?
 
田島 そうです。
 
──そこからマンガってすごい展開ですね。人と一緒になにかを作るのはもう向いてないと、すでにわかっていた時期ですよね。
 
田島 そうですね。でもせっかくお金出して大学に入ったんだから、卒業制作はひとりでやるより誰かといっしょにやったほうがいいって思ったんですよね。それで舞台をやった、と。
 
──卒業したらひとりでやっていく、という決意とともに。
 
田島 そうですね。人は使えないし。
 
──卒業後は就職とかは考えなかったんですか?
 
田島 考えなかったです。する人もあんまりいなかったし(笑)。
 
──それは美大のトップシークレットですね。投稿作を描いてたのは大学在学中ですか?
 
田島 大学出て、一年くらいしてから描きました。
 
篠原 受賞作は23歳でしたっけ。それがすごいおもしろくて。最初はスピリッツに応募しようと思って描いたんですよね?
 
田島 それでマンガ描いて投稿しようとコンビニでスピリッツ開いたら新人賞のページ見つからなくて、じゃあモーニングでもいいかなって、マンガオープンの記事見つけて出したと。
 
──適当すぎる。なぜその時期に描いたんだですか?
 
田島 バイトやめてひまだったんですよ。バイトである程度お金ためて、そのころ住んでたアパートは家賃がかなり安かったので、しばらく遊んで暮らせるから、絵とか描いてたんですよね。女の子の絵を。そしたらその絵が、お話をつれてきてくれたみたいな感じになったんです。
 
──いまと同じだ……。
 
田島 お金がなくなってきて、新しくはじめたバイトが本屋で給料が安かったんですよね。それでもうちょっとお金がほしいなと思って応募作を描いたんです。
 
──ここでも金が! それで賞をとってお金が入って。
 
田島 で、受賞したタイミングでバイトをクビになって。
 
篠原 新店舗のオープニングスタッフとして入ったんですよね。で、経営が伸びずにすぐ半分くらい首を切ることになって、最終的にその店がつぶれて。
 
──なんかずっと運命に翻弄されてるというか、流れゆくところに流れていってるというか。キャラクターが物語を運んでくるのを待ったり……なんというか、為す術もない感じが。コントロールしてる感じじゃないということなんでしょうか。物語に関しても。
 
田島 うーん、でも、考えまくってますけどね。
 
篠原 今の作品の前に持ってきてくれたSFっぽい話があったんですけど、それは動きにくそうな感じがして。「水は~」の1話とは印象がぜんぜんちがって、これを続けて書くのはなかなか難しいのかなという。
 
田島 あのSFは「手を動かそう」、「手を動かさなきゃだめだ!」って思って始めたんですよ。ちゃんと資料みながら植物描いたりして、風景画描いたり。
 
──でもそれは作品になるまで至らず?
 
田島 そうです。描いてて楽しかったんですけどね。
 
──動き出さなかった?
 
田島 わかんない……もうちょっと付き合ってみればいけたかもしれないけど。まあ。
 
──「手を動かせ」って美大ではすごくしつこく言われることですよね。手を動かしていく中で、発見していくということを。そういう意味で「手を動かそう」としたんですか?
 
田島 脳みそで考えていることは、ほんとにちっぽけなことで。もう体が一番身近な自然だから、手を動かすのが一番大事ですよね。
 
──ちなみに大学の時もそう思ってました?
 
田島 いや全然……結局大学生って……アホだったっていうか。
 

私にもわからないのに出てくるというのは、人生のテーマとかなんじゃないですかね

 
──『水は海に向かって流れる』の話に戻らなくちゃですね。ひとつ気になっているのが「家族」について。前作に引き続き今作の話も「家族」というのが大きなテーマだと思ったのですが、そこは強く意識されているのですか?
 
田島 意識してないというか、なるべく前回とテーマが被らないようにしようと思って描いてるんですよね。でもなんか、被ってしまったみたいな。
 
──自然にしてたら出てきてしまったと。
 
田島 そうですね。
 
──それはなぜかというのはわかっているのですか?
 
田島 わからないです。私にもわからないのに出てくるというのは、つまりそこが自分が気になっているところ、人生のテーマとかなんじゃないですかね。
 
──なにかそこに引っかかるものがある。
 
田島 ですね。家族の話として始めようと思って始めたわけじゃなくて、ラブコメをやろうとして始めたんです。雑誌のアオリも「ひとつ屋根の下ラブコメ」みたいなものが入るのかなって思ってたら、「家族の物語」ってなってるのを見て驚きました。なんか真面目そうなアオリになっちゃって、少年誌でこれ大丈夫かな?って思いましたけど。
 
──ひとつ屋根の下ラブコメ! あと、家族の話と同様に、前作に引き続き登場しているのが、広義のトランスジェンダーのキャラクターですね。それも自然に出てくるものなんでしょうか。
 
(『水は海に向かって流れる』©︎田島列島/講談社)
 
田島 明ちゃんも泉谷くんも、どちらも描いてて楽しいキャラクターです。

篠原 他の人とはまた違う視点で喋れる人がいるのはいいですよね。

──現実世界でもハッとする発言を聞くことは多いですね。あと、性的にガツガツした人は出てこないですね。不倫してたお父さんとかも、性的なにおいはしない。

篠原 ガツガツした人って過去作にも出てきたことないと思いますね。 男性も女性も一見飄々としている人が多いですよね。

──でも、ただ飄々としているという一歩引いた態度ではないんですよね。ところどころで、踏みとどまる感じが、すごく「今」を描いてる感じがします。その匙加減がすごい。

篠原 今、ですか。

──勝手な解釈かと思いますが、タイトルの『水は海に向かって流れる』が指し示すように、登場人物がそれぞれ抱えているものが、いつか行き着くところに行くんだろうな、と感じながら読んでいるんですよね。だけど、そこにどう行き着くんだろう、というのは全然わからない。いろんな感情が行き着くべきところに流れていく中で、時々「そういうのはイヤです」と言ったりする瞬間に、とても感じ入りますし、これは現代の話なんだな、ということを強く感じます。

篠原 たしかに行き着くところにいくという感じで物語は流れていくんですけど、「こうしたい」と強めのモチベーションを持っているキャラが何人かいるので、普段は水面下に流れる彼らのモチベーションが沸点に達した時に何かを起こして、突然話を進めてくれることがあって、その感じが小気味いいというか。するーっといってるけど、ボン!とターニングポイントが突然現れるというか。この話の進み方って、現代的っていうのはわからないけれど、独特だなと思いますね。
 
──空気を読んでいたり、忖度しているとこれはもう止められないんじゃないかと思うような流れに、急に楔が打たれる感じ。あれが気持ちいいですね。
 
篠原 読んでいて、この感じが気持ちいいからずっと浸っていたいと思うような時に、実は同時にみんなの気持ちは少しずつ変わっていて、その変化がいきなり明示される瞬間がありますね。あ、そうやったんか!という発見をさせてくれる。
 
──独特だと思います。そしてその感じをいまたくさんの人が求めているような気も。
 
篠原 そういえば『子供はわかってあげない』の最後の屋上のシーンでも、あ!そうやったんか!と思いました。そやけど、言われてみたら、そらそうだよね、っていう。あれも、あそこでボンッとシーンが立つまではその感情は表にものすごく出てきてるわけじゃなくて、水面下にあって。そんなのが今回は人間関係が複雑な分、よりポコポコでてるようになっていて、読んでて、それがびっくりするから、緊張感? もそういうことに由来するんじゃないですかね。
 
──自分がとっさにとってしまった行動ではじめて自分の感情に気づく、ということがあるじゃないですか。その感じに近いものを田島作品では感じるんですよね。
って、篠原さんと感想言い合ってるだけになってきてやばい……。
 
篠原 ははは。
 
──今回、1巻が出た瞬間に僕の観測範囲ですがとてもたくさんの人が「早く続きを!」と悲鳴をあげていたんです。実際僕も悲鳴をあげました。今回、マンガを読ませる推進力みたいなみたいなことを意識されたんでしょうか?
 
田島 それは別にないですね。
 
篠原 単行本に関しては当初は1巻の区切りを7話までにしようと話していたんですよ。で、9話まできて、あ、ここやね、と思って区切りを変えたんですよね。
 
──編集的な判断で「引き」のある場所で区切ったってことですね。
 
篠原 はい。2巻の発売は7ヶ月後とかになっちゃいますし。そんなに先だと、1巻のヒキで続きを読みたいって気持ちを強く持ってもらえないと忘れちゃうだろうなっていうのがありますから。
 
──むかしと違ってリアルタイムで追っている人は少なくなってますもんね。周りでもまだまだ『子供はわかってあげない』のあの田島列島先生の新作単行本出てる! ってことに気づいていない人がいっぱいいる感じがしてます。
ところで全体の長さは決まってるんですか?
 
田島 一応「全3巻」みたいな長さが気持ちがいいんじゃないかと思ってます。前は2冊だったから、今度3冊。少しずつ飛距離を伸ばしていけたら。
 
篠原 田島さんの作品って展開がめちゃくちゃ早いので、同じ話でも短いページで進むんですが、今回は関係性も前より複雑ですし、それを解きほぐしていくのに、3巻くらいはかかりそうですね。
 
──射程距離が広い作品だな、と思っていますので、もっと広まれ〜〜〜っと念じています。少し長くなってしまったので、この辺りにしたいと思いますが、最後に読者のみなさんに何か一言いただけますか?
 
田島 私は読む人を想像しないと描けないんですが、今回は少年誌なので、姪っ子が中学生くらいになった時に読んでほしいなと思って描いてます。それがもっといろんな世代の人に届くとしたらとても嬉しいことなので、いろんな方に読んでいただけると嬉しいです。
 

水は海に向かって流れるのマンガ情報・クチコミ

水は海に向かって流れる/田島列島のマンガ情報・クチコミはマンバでチェック!1巻まで発売中。 (講談社 別冊少年マガジン)

子供はわかってあげないのマンガ情報・クチコミ

子供はわかってあげない/田島列島のマンガ情報・クチコミはマンバでチェック! (講談社 モーニング)「2015年コミックナタリー大賞」 「2015年マンガ大賞」などを受賞。