「海外マンガ」をマンガ家5人でワイワイ語る夜(入門編)──サヌキナオヤ編

2019/11/29 5:00

写真 ただ(ゆかい)

こんにちは、マンバ通信です。

10月にKADOKAWAから発売された『CONFUSED!』は、もうチェック済でしょうか?

海外マンガ好きでも知られる、イラストレーターのサヌキナオヤ氏(作画)とバンドHomecomingsの福富優樹氏(原作)による初のマンガ作品です。

『CONFUSED!』原作 福富優樹・作画 サヌキナオヤ(KADOKAWA)

『CONFUSED!』は、グリーンバーグという街に暮らす住人たちのさまざまな物語が綴られた短編集。それぞれのストーリーはバラバラの内容ですが、そこには常に同じ香りや情緒を感じるアルバムのような作品なので、「まだ読んだことないよ」という人は是非読んでみてください。

今回、この『CONFUSED!』の出版を記念し、サヌキ氏と日頃から交流のあるマンガ家4人が集まり、おすすめの海外マンガについて語るイベント、その名も「海外マンガ」をマンガ家5人でワイワイ語る夜(入門編)がSHIBUYA PUBLISHING & BOOKSELLERS(SPBS)本店で開催されました。

イベントに登壇したのは写真左から、かつしかけいた氏、西村ツチカ氏、真造圭伍氏、西尾雄太氏、サヌキナオヤ氏の5名、司会には『CONFUSED!』の編集・デザインをてがけた森敬太氏。

当初、ひとつのレポート記事でまとめようかと思いましたが、これが5人分のオススメとなるととんでもない情報量だったので、各作家ごとに記事化することにしました。というわけで、このイベントは全5回の構成でお送りいたします。

第1回目はアメリカのコミックに影響を受けたと語るサヌキナオヤ氏のプレゼンです。

STUDIOVOICE「”アメリカン・オルタナティヴ=コミックス”集成」が僕のはじまりだった

サヌキナオヤ 1983年、京都市生まれ。書籍の装画や、音楽のアートワーク、雑誌などでイラストを手がける他、ユニット”WHOPPERS”ではアニメーターとしても活動。今年の10月にHomecomingsの福富優樹原作でのマンガ『CONFUSED!』をKADOKAWAより出版。アートワークを手がけるバンドHomecomingsとは映画と音楽のイベント”New Neighbors”を共催している。

サヌキ 僕の絵柄には源流があって、いつもはこういう絵なんですけど。

『CONFUSED!』第1話「Little Prank」より。

サヌキ 先日『ヒップホップ家系図』を出しているエド・ピスコーというマンガ家と話す機会があって、自分の絵を見せたら「ああこれ知ってる」と言われました。彼が「知っている」と言ったのは、色のトーンのことを指していて、僕の絵を“ミッドウェスタン調”だと言ってました。例えばエイドリアン・トミネやダニエル・クロウズのような作家が使う色のことを“ミッドウェスタン調”というんですって。
海外マンガといえど、僕の中ではアメリカのものがメインになります。そもそもはスタジオボイスの「”アメリカン・オルタナティヴ=コミックス”集成」(2002年1月号)という特集号があって、この本が僕のはじまりというか、ここに全部がありました。

STUDIO VOICE 2002年 01月号「 特集・アメリカン・オルタナティヴ=コミックス集成」

サヌキ この本を開くと、「アメリカン・オルタナティヴ コミック史文」についてピーター・バッグが書いていたり、ロバート・クラムについてはテリー・ツワイゴフが書いているんですね。あと小田島等さんがジム・ウードリングへのインタビューをしています。

この本の中でもクリス・ウェア(Chris Ware)という作家をおすすめしたいと思って今日は持ってきました。

手法そのものからコミックを更新する作家、クリス・ウェア

サヌキ これ、箱のように見えますが本なんですね。『ビルディング・ストーリーズ』といって、たしか2012年ごろに出ました。

森 これはクリス・ウェアのライフワークのような本ですよね。出版までに10年以上の時間を要していますよね。

サヌキ この箱の中に判型の違う短編が14冊入っているんです。

『ビルディング・ストーリーズ』クリス・ウェア

森 このひとつひとつがパンフレット、ポスター、新聞だったりとさまざまな形態をとっています。

サヌキ あるひとつのビルをモチーフとした短編集って感じです。

『ビルディング・ストーリーズ』の中身

森 どれから読んでも成立するんですよね。

サヌキ あるビルが中心となっていて、その周辺を描いた作品です。人間の話だけじゃなくて、近くに住む蜂の話とかね(笑)。

森 クリス・ウェアの絵の上手さというのはもちろんなんですけど、オブジェとしての完成度も高くて、こういった試みが(マンガで)できるんだっていうのがとても衝撃ですよね。

真造 コマ割がちっちゃいね。

森 小さいのもあれば、大きいのもあるんですよ。非常にグラフィカルな表現もありつつ。

サヌキ これについて何か言うというよりも、まずはこの本を体験してほしい。すごい作品です。

森 クリス・ウェアの良さというのは、どういうところにあると思います?

サヌキ 端正な絵で、かつ物憂げなシーンが多くて、そういうところにビビッとくるのかなと思います。

森 ポップでグラフィカルな感じかと思いつつも、ストーリーの芯にあるのは孤立や苦悩とか、人間の根本にある暗い部分を描いているところがありますよね。

サヌキ コマが多い割に沈黙を淡々と描いているんですよね。スタジオボイスのインタビューの中で、ぼーっとしている(キャラクターの)表情について訊ねられた時に「会話には多くの沈黙が存在していて、その現象をコミックならではの手法で表現している」と言っていて、それってすごくわかるなと。

(『ビルディング・ストーリーズ』より)

森 クリス・ウェアの『ジミー・コリガン』という作品は日本語版も出ているので、ぜひ買って読んでもらえると。全3巻です。

最高の本屋がつくるフリーペーパー「SMOKE SIGNAL」

サヌキ ブルックリンに「Desert Island」というマンガ屋さんがあるんです。そこへは一度行ったことがあるんですけど、そこが最高の本屋さんで、オルタナティブコミックスといわれる本がとにかくいっぱい売っていて、めっちゃかわいいんです。ここの書店の表札をジム・ウードリングが描いてたりするんですよ。

サヌキ そこが出しているタブロイド型のフリーペーパーで「SMOKE SIGNAL」というのがあるんです。アメリカに限らずいろんな作家に声をかけて、年に何度かこのフリーペーパーを作っているんですよ。これタダですよ?

ブルックリンのコミックショップDesert Islandが発行するフリーペーパー「SMOKE SIGNAL」

西村 そのお店に行ったら、これが置いてあるんですか?

サヌキ そう。通販だと何ドルかで買えることもできたと思うんだけど。とにかくこのフリーペーパーを追っていくだけで、海外マンガに詳しくなれるかと。今日はとにかくたくさん持ってきました。

西尾 今日持ってきてるものは一度で手に入れたの?

サヌキ 僕が行ったときに手に入れたものと、ニューヨークに行くという人がいたときにお土産として頼んだりしてるかな。

西尾 とりあえず、ニューヨークに行けば何冊かは手にいれることができると。

クリス・ウェアが表紙を担当した「SMOKE SIGNAL」の17号

サヌキ バックナンバーも置いてあったはず。

西村 フリーペーパーの内容ってどんなものなんですか?

サヌキ 内容は全部マンガ。僕、これを一度マネしてこういうの作ったんですよ。これ僕がつくった「蓬莱」っていう同人誌なんですけど、「SMOKE SIGNAL」をマネしてタブロイド型のものを作りました。

サヌキ氏がSMOKE SIGNALに触発されて作ったZINE「蓬莱」

サヌキ その「SMOKE SIGNAL」を通してジョン・マクノート(Jon McNaught)さんという人に出会いまして。この人最高なんですよ。

ジョン・マクノートが表紙を担当したSMOKE SIGNALの20号

サヌキ 彼の名前を検索すると、Nobrowというロンドンのインディペンデントっぽい活動をしている出版社にぶち当たるんですけど、ここが年に1回『NOBROW』という出版物を出していて、片方から読んでいくとマンガなんです。だけど別の片方から読んでいくとイラスト集なのね。

海外のマンガ作家探しの手がかりにもなる『NOBROW』

森 Nobrowという出版社は2008年からあるんですよね。

サヌキ これだけイラストとしての魅力がすごい作家を揃えていてるのに、それ一本とはならず、片翼にマンガがあるよってことにこだわっている出版社だなって思うんですね。これもさっきの『SMOKE SIGNAL』と同じように「誰かいい作家いないかな?」って時に、何かの手がかりにはなるんじゃないかと思います。

『NOBROW』vol.9 現在vol.10まで発行されている。
イラストメインのページ
マンガのページ

 日本から急にたくさんの注文が来てビックリするんじゃないですか。

サヌキ さっきも話したマクノートさんはこれまで小品というかミニマムな作品集しか出していなかったんですけど、このNobrowという出版社から『KINGDOM』というボリュームのある本を出したんです。これが最高だったので持ってきました。

『キングダム』ジョン・マクノート

サヌキ とにかくもう誰が見ても最高にかわいいですよね。工芸品みたいな、小さいお土産感というか。クリス・ウェアと同じくグラフィカルなルックで、かつ物憂げな雰囲気を纏ってる所があるので、特に自分はグッとクるんだと思います。この人のように2色のかけあわせを利用して絵を描く方法を試してみたことがあるんですけど、パズルを解くみたいな絵の描き方になるというか、発想がロジカル半分な感じになるんですね。それが楽しいので、絵を描く人はマネして是非やってみてください(笑)。

新たな海外マンガを探すなら、海外の本屋に注目するのがいい

森 サヌキ君のこういった本の入手元というのはどちらのお店になるんですか?

サヌキ できれば書店で買いたいですけどね……Amazonってことになってしまいますよね(笑)書店から通販で直接買うこともありますが、回数で見ると、どうしても少なくなってしまいますね。Nobrowは数年前まで店舗を持ってたはずなんですけど、今はないみたいです。

森 ロンドンといえばHomecomingsの福富君が行って、超良かったと言ってた本屋がありましたね。

サヌキ   Gosh! Comicsですね。そこで『NOBROW』もこの『KINGDOM』も売っていたと聞きました。やっぱり、新たな海外マンガを探すなら、僕は海外の店舗に注目するのがいいと思います。WEB SHOPを構えてるところも多いので。出版社に注目するのもいいかもしれないけど。

森 出版社やレーベルが店舗を直接運営していることも多いですね。

サヌキ 店舗といえば、ロサンゼルスにあるMeltdownっていう本屋があったんですけど、そこが去年無くなりましてね…、という話を最後に終わりにしたいと思います(笑)

サヌキさんはイベント当日メルトダウンで買ったショップTシャツを着てきた。キャラを描いたのはダニエル・クロウズ。

 

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