「海外マンガ」をマンガ家5人でワイワイ語る夜(入門編)──真造圭伍編

写真 ただ(ゆかい)

CONFUSED!』の作者であるサヌキナオヤ氏と日頃から交流のあるマンガ家4人が集まり、おすすめの海外マンガについて語るイベント、その名も「海外マンガ」をマンガ家5人でワイワイ語る夜(入門編)。第4回は真造圭伍氏です。

ケラスコエットの『かわいい闇』は『家猫ぶんちゃんの一年』のヒントにもなった作品

森 次は真造圭伍さんです。月刊モーニングツーで『ノラと雑草』を好評連載中で、来年1月23日頃に第3巻が発売予定です。まずは『かわいい闇』という作品をお持ちいただきました。

真造 この作品を読むまでは、そんなに海外マンガのことが好きじゃなかったんですよ。例えば、絵が細かすぎたり、ストーリーもあまり面白くないなって思って(笑)。大人すぎるかなぁって。この作品って知っている人が多いですか?

森 かわいい闇』が出たときは、仲がいい漫画家たちの間でも話題になりました。者のケラスコエットというのはユニットですね。

真造 そうですね、フランス人の男女二人が描いているんですけど、最初はこんなにかわいい絵の女の子が出てくるんです。

真造 だけど、読み進めていくと彼女のいる場所がどんどんドロドロになってきて、あわてて外に出てみると……。

真造 実は死んだ少女の中から出てきたという……。

森 ドロドロしていたのは、少女の体内だったんですね。

真造 かなりショッキングなはじまり方です。このかわいい子は死んだ少女から出てきた妖精で、こういうかわいい妖精がいっぱい出てきてサバイバルするけど、みんな死んでいくんですよ。

森 なるほど。

真造 はじめはお互い協力しあったり恋愛したりして和やかな雰囲気だけど、夜中、猫に襲われて最初の犠牲者が出てしまうんです。そこで俺は「ウワー!」となりました。(自分が知っている)今までの海外マンガとは違って、ゾクッときたんです。仲間同士なのに共食いしたりもするし……。

森 『蠅の王』のような展開がありますよね。

真造 さっきの死んだ少女の肉体が腐乱してきていたり。はじめはかわいい雰囲気だったのに、徐々にグロテスクで怖い方へと展開していく作品は今まで読んだことがなかった。

西尾 作者の二人は背景とキャラクターでそれぞれの作画を分けていますよね。

 作者の片方は医療系のイラストを描く仕事をしていた経歴を持っていると聞いたことがあります。海外マンガを読んでいると、そういう面白いバックグラウンドを持った人たちに遭遇することがありますね。そこならではの表現が活きているのは、読んでいて気持ちがよいところでもあると思います。

西村 真造君はなぜこれを読もうと思ったんですか?

真造 これはTwitterに流れてきて、表紙の女の子がかわいいなと思って買いました。実はこれを読んで『家猫ぶんちゃんの一年』というマンガを描いたんです。

真造 この作品は、パッと見おじさんと猫のほのぼの4コママンガと思わせつつ、実はおじさんは孤独死していて、飼われていた猫がその後をどう過ごしていくかを描いています。ずっと前からこんな作品を描きたかったんですよね。でも、どう描いたらいいのか分からず悩んでいたときに、この『かわいい闇』を読んで、こういう風に描けばいいのかと刺激を受けました。

森 この作品が収録されている『休日ジャンクション真造圭伍短編集』は、現在も発売中なのでぜひ手に取ってみてください。

展示作品と鑑賞する客がリンクするダヴィッド・プリュドムの『ルーヴル横断』

森 次は、ダヴィッド・プリュドムの『ルーヴル横断 La traversée du Louvre』ですね。

真造 この方はずっとフランスで描いていて、巨匠ともいわれている方です。

森 これはルーヴル美術館といろんなマンガ家がコラボした作品のひとつですよね。

真造 そうですね。この帽子を被っているのが主人公でプリュドム自身です。

真造 (ちゃんと翻訳したわけではないので、間違ってるかもしれませんが)彼がこのルーヴル美術館のマンガを描かなきゃいけないのに何を描いていいのか思い浮かばず、実際にルーヴルを散策するという話です。

森 そうなんですね。

真造 読み進めていると、美術館の作品とルーヴルに来た客がどんどんリンクしていくんですよ。まず、これは「写真ばっかり撮ってるんじゃねーよ」っていうことなんですね。後ろの絵はリアルなのに、人物がぼやけているのは「ちゃんと自分の目で作品を見よ」ということではないでしょうか。

西村 観客も美術品みたいに見えてくるってことですね。

真造 そう。言葉がわからなくても絵だけ眺めているだけでも面白い。モナリザが飾られているところは、人気があってめっちゃ人がいるんですよ。

森 行ったことはないですが、そんな話は聞きますね。

真造 で、ここではモナリザ視点になっていて、モナリザは毎日こういう景色を見ているよねってことを描いています。

森 好きなシーンはありますか?

真造 ここですね。プリュドムの連れの女性が美術館の中で迷子になってしまい、プリュドムから「どこにいるんだよ?」って電話で話しているんですね。

真造 ココで首が切れているのは「電波が切れた」ってことを表現していて、こういう表現が面白いなと思いました。

森 これってルーヴル美術館内で話が完結するんですか?

真造 いえ、最後は家に帰宅して終わりますが、特にすごいオチがあるわけでもないのかな?

森 真造君はよく「海外漫画の自由な絵に憧れる」と言ってますけど、絵を描く視点からはどういうところに魅力を感じますか?

真造 今回紹介した2作品はどちらもパソコンを使わず、水彩や鉛筆などを使って描いていて、すっごく線が自由なんです。絵を見るとすっごく自由でしょ? その場でスケッチしたような絵だなって、『ルーヴル横断』を見た時にすごく感動しました。きっと即興で絵が描けるような上手い人なんだなと。

西村 真造君もアナログで描いてますよね。

真造 そうですね。

西村 真造君も鉛筆や水彩で描きたいと思いますか?

真造 日本のマンガはやっぱり白黒の方がいいのかなとちょっと思います。

森 真造君は今どき珍しいフルアナログ作家で、最近はトーンも使ってないですよね。

真造 そうですね。今は使ってないです。どうしても日本のマンガって白黒でずっとやってきているので、かっこよさが完結できているというか。うまく言えないですが。

西尾 日本のマンガは言葉の情報量がとても多いので、カラーだと情報過多になっちゃうかもしれないですね。

森 カラーマンガ読んでると妙に疲れることありますよね。それと、真造君って、本の大きさや判型についても憧れがあるとよく話していますね。

真造 いやー今はもうないです……(笑)。

森 え、でもよく「海外マンガは本がでかくていいな」とか、「俺もいつかA5判の本を出したい」とか話してるじゃないですか。

真造 言ってますね(笑)。でも今の時代だとなかなか難しいのかなって。

森 A5判はどうしても置く場所がないという話がありますね。

西尾 書店の本棚におさまらない問題ですね。

森 海外マンガはあまりそういうことを考えてないのか、サヌキ君が紹介した本の中には箱のものもありましたしね。その自由さがいいというところなのかなと。

真造 そうですね。とりあえず俺からは以上です。

森 真造圭伍君おすすめのケラスコエットの『かわいい闇』は日本語版が出ています。気になる方は本屋で取り寄せるなどして読んでみてください。『ルーヴル横断』は日本語版が出版されていませんが、ネットなどで原書が買えるかと思うので、こちらもぜひ。

以前公開された記事はこちら
第1回 サヌキナオヤ氏
第2回 西尾雄太氏
第3回 西村ツチカ氏

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