やっと見つけた幻のブサイク女子マンガはやはり傑作だった——『ひなちゃんの恋』の巻

2020/02/06 12:00

この連載を始めてからずっと気になっていた作品がある。2012年に発表された「ひなちゃんの恋」という読み切り作品で、「少女マンガ ブサイク」などで検索すると必ずと言っていいほど引っかかってくるのだが、『別冊マーガレット』の別冊ふろく『bianca 1½』に収録された作品のため、入手がとても難しい(本体は見つかるけどふろくがなかなか見つからない)。

『別冊マーガレット』別冊ふろく『bianca 1½』

どこかの単行本に収録されたとか、電子配信されたという噂も聞かない。一応、誰かが写メったやつがネットに落ちているのだが、画像が粗くてあまり参考にならない。というより、著作権法で認められた引用の要件を上回る写メっぷりなので端的にまずい。というようなわけで、わたしにとって「ひなちゃんの恋」は紹介したいのにできない「幻の作品」だった。

『ひなちゃんの恋』中村有希生

しかし、長きに渡る捜索活動の結果、先日とうとう『bianca 1½』を入手することに成功した(メルカリは偉大である)。ああ、やっと読めた。たった16ページの短篇だが、確かにこれはいろいろな意味で稀有な作品だ。ネットで話題になっていたのも頷ける。

本連載でも繰り返し指摘してきたように、少女マンガのブサイク女子は、そばかすがあるとか、困り眉だとか、読者に一発で伝わるブサイクの徴(しるし)によって表現されることが多い。しかし、本作の主人公「ひなちゃん」(14歳)には、わかりやすいブサイクの徴がない。一応、一重だし、鼻も低いっちゃ低いけど、デフォルメ感が少なく、妙に地味なのである。

じゃあキャラが立ってないのかというと、そういうことでもない。その理由は、よく見るとツルツルの髪の毛とか、シュッと整っている眉毛にありそう。全体としては地味だが、部分的にイイ女感が漂っていて、このアンバランスさが彼女の持ち味なのだ。スタイルも、はっきりと「悪い」とまでは言えない、これまた絶妙な中途半端さ(褒めています)。敢えてデフォルメし過ぎないことによって、唯一無二の存在感を醸し出すことに成功している。

そして、この地味なのかイイ女なのかよくわからない感じには、見覚えがある。これまでの人生で、彼女みたいな人に会ったことがある気がする。というか、この「惜しい」としか言いようのない女はわたしだ、と感じる人もいるんじゃないのか。いまはブサイクに振り分けられる顔かもしれないけど、大人になったら化粧映えしそう……いわく言いがたいリアリティをたたえたひなちゃんは、これまで見てきたブサイクヒロインの中でもかなりの貴重種だ。

そんなひなちゃんは、授業中だけメガネをかけているのだが、クラスの男子「赤沢」から「フンイキかわるな」と言われて、いきなり彼を意識するようになる。メガネをかけると雰囲気が変わる。当たり前だ。しかし、自意識過剰な思春期女子のひなちゃんにしてみれば、客観的事実以上の意味があるように思えて仕方ないのである。イケメン男子が自分の見た目に「ネガティヴじゃない形で」言及したことが、彼女の乙女心をこれでもかと刺激するのだ。ちなみに、少女マンガでよくあるのは、メガネを外すと褒められる、というやつだが、本作ではメガネをかけると褒められる(とヒロインが思い込む)という描かれ方になっているのがおもしろい。

物語はここから、ひなちゃんの恋の独り相撲を延々と描いていく。彼のカバンを漁って、学生証でフルネームを確認、帰宅後ネットで相性占いをやるひなちゃん。赤沢の趣味に合わせようとサッカーの教則本を読むひなちゃん。放課後の下駄箱で赤沢の靴を勝手に穿いてみるひなちゃん……もちろん赤沢は彼女の暴走を知る由もない。

ある日のひなちゃんは、気合の入ったおめかしをして赤沢の自宅前をウロウロする。偶然を装って彼に会おうという算段だ。もはやいつ通報されてもおかしくない状況だが、2時間ほど粘ったところで、愛しの赤沢が出てくる。

赤沢「あっ」
ひな「え?/あっ/あぁどうも」
赤沢「…どーも」
ひな「えー 家ココなんだぁ」
赤沢「うん」
ひな「へー知らなかったあ」
赤沢「…その格好何かあったの?」
ひな「えっ 何がぁ?/別にいつもこんなカンジだけど?」
赤沢「そっか/じゃあな」

恐ろしくわざとらしいトークを繰り広げるひなちゃんだが、赤沢はぜんぜん気にしていない。そしてめちゃくちゃ爽やかに去っていく。いや、赤沢はいつも通りに外出しただけなんだと思う。でも「じゃあな」と言った赤沢には燦々と日の光が降り注ぎ、ひなちゃんの周りには大輪のバラが咲くのであった。恋する者にとって、世界はこんなにも美しい。しかし注目すべきは、この美しい世界にあっても、ひなちゃんの顔面偏差値が少しもアップしないこと。ひなちゃんは地味なひなちゃんのまま、世界だけがキラキラと美しいのである。

彼女が変わらない(変われない)のは、その方がギャグっぽくておもしろいから、ということもあるだろうが、それ以上に、この恋が独り相撲だからだと思う。赤沢の発言を勝手に解釈してひとりで盛り上がっているひなちゃんは、恋に恋しているだけで、まだ本当の恋をしらない。だから、トキメキの魔法で美人になったりしないのだ。残酷だが、筋は通っている。

本作は、最後にひなちゃんの失恋を描いて終わる。告白してもないのに振られた格好になっていてちょっと可哀想だが、彼女には独り相撲じゃない恋ができる未来がきっとある。だってまだ14歳だもの、恋の仕方を知らなくて当然だよ。わたしもそんな感じだったけど、なんとか今日まで生きてきたから心配しないで……これを現役の14歳が読んだらイタい奴の恋物語なのかも知れないが、40歳のわたしが読むと、かつてのダサいけどピュアな自分を愛おしむような、なんとも懐かしい&エモい気持ちになるのだった。ブサイク女子ヒロインをこんな風に思える作品は、滅多にあるもんじゃない。電子でいいから復刻して欲しい。