地球は誰かのものじゃない—エコと必殺を組み合わせた全く新しい怪作『エ恋スト』

『エ恋スト』

 近年、環境問題に関して「エコテロリスト」と呼ばれるような人たちの活動がまたぞろ話題になっていますね。というわけで今回の紹介は、世にも珍しいエコテロリストが主人公の漫画、末田雄一郎+岬ゆきひろエ恋スト』です。いやあるんですよ世の中にはそういう漫画も! 連載は09〜10年の『別冊漫画ゴラク』で、単行本は全1巻です。

 表紙にも描かれている本作の主人公・回向院清香は、東京科学大学の環境保全研究室で働く美貌の研究員。恋人にプロポーズされても「あなたと付き合ってるのは研究への的確なアドバイスと情報をもらえるから」と言って断るという、環境保全のことばかりが頭にある人です。しかし彼女には裏の顔がありました。「都市伝説」と呼ばれるほどに呼ぶことが困難だが、いまだかつてないほどの快感を男に与えてくれるという「伝説のコールガール・清香」です(源氏名使わないで本名なの!?)。伝説なので語るスレも立っています。

 

『エ恋スト』39ページより

 

 で、彼女はコールガールですが本業が本業なので地球環境のことをめっちゃ考えており、「30分の性的交渉をしても片方が平静時のままなら浴槽1杯分のCO2を抑制したことになるわ」と言って自身はまるで興奮せずにセックスをしたり(相手男性はすごい快楽を与えられて昇天します)、ティッシュの無駄使いを戒め、「ティッシュを取る時に1枚にするよう心がければ 日本全体で一年間に木造住宅7万軒ぶんの木を節約することができるのよ」などとエコ啓発をしてきます。

 

『エ恋スト』75ページより。「そうなんだ……」という返事がいいですね。セックス中にこんなつるセコ啓発されたら「そうなんだ……」としか言えないと思う

 

 しかし彼女にはさらに裏の顔があり、「エージェント」を自称する謎の組織からの司令を受け、環境破壊をしたり環境保護助成金を詐取したりするような「環境保護の敵」であるが法が裁かない悪人に「地球は誰かのものじゃない」の決め台詞とともに仕置を与える(罪の軽重によって、殺しはしない「パターンL」と、殺す「パターンD」があります)、エコ版必殺仕置人だったのです……。
 正直、この基本設定の時点でだいぶ渋滞が起きており、「裏の顔にさらに裏の顔が!?」「というか、コールガール設定要るのか!? いや読者へのサービスというのは分かるけど……」という感じで読者の主人公への感情移入をかなり拒んでくるのですが、清香さんはそんな読者のことなど知ったこっちゃないとばかりに先述のようにエコ啓発もしてきますし、「エージェント」からのオーダーを受けて仕置に出る前には、なぜか全裸になってエコポエムを詠みながらスプリンクラーの水をシャワー代わりに浴びたりオナニーをしたり謎の舞を舞ったりします。理解が追いつかない。

 

『エ恋スト』148ページより。「エコポエムと謎の舞」としか言えないシーン。変身バンクみたいなもんなんですかね……

 

 終盤では、清香は「エージェント」に反逆者として狙われることになり(「パターンL」として指定された悪人を自己判断で勝手に殺してしまったことから)、ピンチになったところで突然地盤の陥没により「エージェント」の始末屋が地割れに飲み込まれ「地球が私を救ってくれた?」とひとりごちたり、清香は「エージェント」と接点を持つ前から独力でコールガール兼エコ仕置人を行っていたことが明らかになったり、「エージェント」の正体を探るためにネットカフェで生半可なハッキング(Google検索)を行ったり、色々すごい展開になっていきます。

 

『エ恋スト』164ページより。このシーンがもとで、筆者の周囲ではググることを略して「生半可なハッキング」と呼ぶことがあります。 

 

 そして最終的に「エージェント」の裏には人類の行末を決めるマザーコンピューターがいたことが判明し(マザーコンピューターがボスの漫画は名作)、物語は、様々な謎——人類はどの道を進むべきなのか……本当に全てはコンピューターに委ねられているのか……結局あのエコポエムと舞はなんだったのか……そもそもこの漫画の企画意図はなんだったのか……「エ恋スト」ってタイトルはエコイストとエゴイストをかけてるんだとは思うけど「恋」要素がほとんどないので結局どういう意味だったのか……——を読者に問いかけて終了します。
 ただ一つ言えることは……。

 

『エ恋スト』204ページより

 

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