ラブレター/『捜愛記』(『みやわき心太郎 純愛コレクション4』収録)みやわき心太郎

 晩酌をしながら、ぼんやりとテレビを見ていたら驚いた。20代くらいの独身男性がスマホのLINEを使って女性に愛を告白する場面が映っていたのだ。メッセージを送ると、すぐに彼女がつくった「グループ」から招待が届いた。独身男性が参加すると、グループには彼女ともうひとり別の男性がいて、その男性から「彼女を奪ってしまって申し訳ないです」というメッセージが——。
 人生を決めるかもしれない重要な用件を、直接会うとか、電話でとかではなく、LINEで済ませるのも驚きだったが、グループを作ってそこに当事者以外(この場合はある意味で当事者かもしれないけれど)が加わってくるというのも今風だな、といささか感心した。
 女性からも「そういうわけなので、さようなら」というメッセージが届いておしまい。独身男性があわてて送った「もう一度話し合おう」というメッセージにはいつまでたっても「既読」がつかなかった。
 後日、仕事上の付き合いがある30代独身男にこの話をすると、「ナカノさん古いですよ。そういうことで驚いていると、老害扱いです。LINEだと反応も早いし、後腐れなくていいんです」と。
 昭和の時代には、熱い思いを綴った長い長いラブレターを書いて、投函しようかどうか散々迷って、投函してからも悔やんで、という青春があったというのに、である。
 そこで、マンガの中から昭和を探る「マンガの中の昭和のアレ」では、昭和の「ラブレター」を取り上げることにした。

『みやわき心太郎 純愛コレクション4』

 マンガは、みやわき心太郎の連作短編『捜愛記』である。全4話で構成され、第1話は平凡出版(現・マガジンハウス)の男性週刊誌『平凡パンチ』1975年2月15日春の増刊号に掲載。2〜4話は秋田書店の月2回刊青年コミック誌『トップコミック』1976年7月27日号から9月27日号に連載という変則的な発表形式だった。単行本は、朝日ソノラマの新書判「サンコミックス」の短編集『あたたかい朝』に収録された。現在は、電子書籍『みやわき心太郎 純愛コレクション4』で読むことができる。
 主人公は大学生の武田。彼は2年前から、自分のアパートとは道を挟んでお向かいのアパートに住むOL、繭子に密かな好意を寄せていた。とは言え、近所の道ですれ違うだけの関係。片思いというやつだが、これも昭和のアレかもしれない。
 ある日、武田のアパートの住人が引っ越して行った。武田は大家に掛け合って空いた部屋へに移ることを決めた。その部屋はちょうど繭子の部屋の真正面だった。
 翌朝、繭子はお向かいの窓に武田の姿を見て慌てた。実は、彼女もいつもすれ違うだけの武田のことが気になっていた。お互いに相手の気持に気づかないまま、片思いを続けていた。これも昭和のアレだなあ。
 そして、いつものように道端ですれ違ったふたりは、どちらからともなくコクリと会釈を交わしたのだった。ここまでが第1話。

 第2話は、武田が友人に貸した本の中に繭子に宛てて書いたラブレターが挟まれていたため、気を利かせた友人が投函してしまった、というお話。いよいよ「昭和のアレ」の本命登場である。
 ラブレターを書いたものの、相手を怒らせるんじゃないか、嫌われるんじゃないか、と考えて破り捨てたり、そのまま机の引き出しにしまいこんだ経験は、筆者にもある。おそらく、今の若い人たちからは笑われるだろう。
 武田も「失うことの恐ろしさ」から投函をためらい、本の間に挟んだまま忘れていたのだ。心のどこかに捨てがたい気持ちもあったのだろう。
「手紙を出しといたぞ」という友人の言葉に慌てた彼は、今日届くはずの手紙を取り戻すために彼女のアパートに駆けつけたが、一足違いで彼女は郵便受けから手紙を取り出していた。
「だ…だめなんです」「ママ間違いなんです」としどろもどろになる武田。繭子は「読みたい!」と思いながらも、そっと手紙を返す。これが初めて二人が言葉をかわした瞬間だった。
 内心では、それが武田からのラブレターだと気づいている繭子だったが、「間違い」という言葉に悩む。ほかに好きな人ができたから、取り戻しに来たのではないか、と。
 じれったい。LINEを使えば悩んでいる時間もない。レスポンスも早いから、フラれてうじうじしている間もない。頭の切り替えも楽だろう。アナログな時代のアナログな恋は、今の時代の若者には非効率の極みかもしれない。
 それでも、武田と繭子のアナログな恋は、3話、4話と進むうちにゆっくり進展していき、確実に二人の距離は縮まっていく。のんびりとした時代だが、それはそれで良い時代だったのだ。

電子コミック『みやわき心太郎 純愛コレクション』34〜35ページより

 

 

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