マンガ酒場【19杯目】酒をネタにしたオカルトギャグ!?◎原案:パリッコ・漫画:ルノアール兄弟『パリッコの都酒伝説ファイル』

 マンガの中で登場人物たちがうまそうに酒を飲むシーンを見て、「一緒に飲みたい!」と思ったことのある人は少なくないだろう。酒そのものがテーマだったり酒場が舞台となった作品はもちろん、酒を酌み交わすことで絆を深めたり、酔っぱらって大失敗、酔った勢いで告白など、ドラマの小道具としても酒が果たす役割は大きい。

 そんな酒とマンガのおいしい関係を読み解く連載。19杯目は酒をネタにしたオカルトギャグ(?)、原案:パリッコ・漫画:ルノアール兄弟パリッコの都酒伝説ファイル』(2023年~連載中)にズームイン!

『パリッコの都酒伝説ファイル』

 場所は、池袋北口の食券制居酒屋。その煤けたカウンターで、漫画家のルノアール兄弟(原作担当サコン、作画担当ウエダのコンビ)と酒場ライターのパリッコ(以下、敬称略)が出会う。パリッコはおもむろに語り出す。「私が今日この場でご両人に出会うことは昔から予言されていましたのでね」。それは、ノストラダムスならぬ「ノ酒(シュ)トラダムス」の予言であった。そこから3人による「都酒伝説」、すなわち科学では解明できない酒にまつわる不思議の調査が幕を開ける【図19-1】。

【19-1】これが「ノ酒トラダムス」の大予言だ! 原案:パリッコ・漫画:ルノアール兄弟『パリッコの都酒伝説ファイル』(双葉社)1巻p10-11より

 いやいや、「ノ酒トラダムス」て! と、いきなりツッコみたくなるが、作中に記された予言もむりやりすぎて腰が砕ける。第2話「チェアリングの真実」でも「白の章 スピリ酒アルの世界」と、これまたむりやり感あるキャッチコピーが付けられていた。何でも「酒」にこじつけるスタイルは、さすがと言うしかない。

 ちなみに、チェアリングとはパリッコが提唱する酒の楽しみ方で、持参した折りたたみ椅子に座って酒を飲む行為を指す。いわば「どこでも酒場」である。それを実践すべく、椅子持参で河川敷に集合した3人の足元には、なぜか魔法陣が描かれていた。

 パリッコいわく、「これから我々が始めるのはただのチェアリングではありません! チェアリングを一歩先に進めた神秘的飲酒体験…その名も…神秘交信飲酒(チェアネリング)です!」と、ここでもむりやりな造語が爆誕。チェアリングによる心地よい酔いとチャネリングの念波で高次元の存在とつながることができるという。

 具体的には、まず魔法陣の中心に宝焼酎の4リットルペットボトルを置く。そして3人が同時にチェアネリングを行うと、なんと宝焼酎の高次元の存在である「極上宝焼酎」が出現するのだった!

 一口飲んで「う…うめえ!! これは間違いなく極上宝焼酎だろ!!」と感動するサコン。が、相棒のウエダは異を唱える。「俺は宝焼酎を365日飲んでるからわかるんだ…これは……ノーマル宝焼酎の味だ…!!」。納得できないサコンは「なんでだよ! だったらなんでこんなにうめえんだよ!」と問う。それに対するウエダの答えが最高だ。

「あのな…宝焼酎はノーマルでもうめぇんだよおおお!!!!」【図19-2】

【19-2】この心の底からの叫びを見よ! 原案:パリッコ・漫画:ルノアール兄弟『パリッコの都酒伝説ファイル』(双葉社)1巻p29より

 安酒を愛する男の魂の叫びに、共感の涙を流す人も多いだろう。

 安酒といえば、パリッコも負けてない。離婚届を残して妻が子供を連れて実家に帰ってしまい、悲嘆に暮れるウエダの家を突然訪ねてきたパリッコ。「いい日本酒が手に入ったのでご一緒しようかと思いましてね」と言いながら風呂敷包みから出してきたのは、なんと……白鶴の酒パック「まる」! 「パック酒でそれやる人あんまりいないんですよ!」と、ウエダが間髪入れずツッコむのも無理はない。

 ウエダが離婚の危機と聞いたパリッコは、「人生には浮き沈みといういくつもの坂があります…」と語り出す。「その坂を無視して無限の未来を創造できる方法があるのです…それが坂無視…坂無視…酒蒸し料理なのです!」と、またしてもむりやりな語呂合わせでパリッコ式酒蒸し法へと話をつないでいく。

 どんな食材でもおいしくなる酒蒸しを「錬金術の一種」とパリッコは言う。「不完全な存在であるスーパーの激安鶏もも肉が 酒蒸しという錬金術により完全なる存在である鶏もも神に錬成されたということです!」とドヤ顔のパリッコは、さらに「夫婦関係も酒蒸しの対象になりうる…!」と離婚届を酒蒸しにする。そんな無茶な……という話だが、その先のまさかの結末には思わず感涙してしまう。

 一事が万事この調子で、こじつけ、ダジャレ、語呂合わせのオンパレード。キンミヤ焼酎のラベルの「宮」の字を「古代ナスカ文明の土器に描かれている神々の顔に酷似していると思いませんか…?」と切り出し、「キンミヤ焼酎は…ナスカ文明の遺したオーパーツなのかもしれません…!!」という大胆仮説からナスカの地上絵とキンミヤの関係を語る強引な展開は、もはや神業と言っていい【図19-3】。

【19-3】いや、似てないだろ。原案:パリッコ・漫画:ルノアール兄弟『パリッコの都酒伝説ファイル』(双葉社)1巻p133より

 そんなふうに、さまざまな「都酒伝説」の謎を解き明かしながら、最後はとにかく飲む、飲む、飲む! それも基本的に安酒場の安酒で、酒のウンチクを語っても決して偉ぶらない意識低い系。ひたすらくだらないのに、前述の離婚騒動のようにちょっといい話風のオチもあるから油断ならない。

 そして、これだけブッ飛んだマンガなのに、実在のお店が出てくるところもすごい。ある店のご主人は、掲載依頼に対して「どうぞ好きに描いてください!」と快諾しつつ、「ただ、僕とお店のことを偉そうに描くのだけはやめてもらえると……そういうのが苦手で……」とお願いされたという。いい酒場は、やはり店主もいい人なのだ。

 全編を通して酒好きオーラが充満。まさに「ノーアルコール ノーライフ」であり、 読んでるうちに猛烈に酒が飲みたくなってくること間違いなし。巻末に収録された「ストリート系メンズファッ酒ンのすすめ」に従って、路上飲みに挑戦してみるのもいいだろう(ただし、マナーとモラルは忘れずに)。

 

 

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