昭和のスパンキング漫画と平成のスパンキング漫画—小池一夫+芳谷圭児『ぶれいボーイ』&倉科遼+杉浦要之助『俥屋甚八暴れ太鼓』

2026/01/05 1:00
『ぶれいボーイ』小池一夫 / 芳谷圭児

 お久しぶりの方はお久しぶり、はじめましての方ははじめまして。V林田です。一昨年半ばに終わっておりました無軌道ノンジャンル漫画紹介連載、この度再開することになりました。「記事が読めないほど広告が出まくり」とかも全然なくて誰の目にも金の匂いがしなさすぎるために連載コラムを終わらせざるを得なかったマンバ、コラムを読める月額会員制を導入することで原稿料を捻出し連載コラムを再開する(しばらく前から既存の記事にカンパボタンを導入したものの、過去記事に人が来ることがあってもカンパは全然されなかったそうです)という野心に燃えておりまして、その実験体第一号として筆者に白羽の矢が立ったというわけです。責任重大ですね。マンバの小國社長からのリクエストとしては「実験の第一弾として、前の『極悪美女軍団卍』みたいな新年らしいやつをお願いします」とのことで……、正気か? 「割礼ーーっ!」は新年らしいのか? そんなんだから金の匂いがしないのではないのか? とは正直思いますが、有料会員が増えたり、アフィリエイトのリンクで紹介作品を買う方が出たりというのを目指してやっていきます。増えなかったら私の連載も自動的に終わっちゃうし……。

 というわけで今回の紹介は、小池一夫+芳谷圭児『ぶれいボーイ』です。原作の小池せンせいについては説明は不要ですね。前に『木曜日のリカ』なんかを取り上げています。作画の芳谷は、60年代に『りぼん』などで活躍した後で少年・青年漫画へ活動の場を移した人で、赤塚不二夫のフジオプロに所属していました(当時はフジオプロ内に劇画部というのがあったのです)。前にやったありま猛氏のインタビューにも名前が出てきますし、『あだち勉物語』にも何度も登場しているので知りたい方は読みましょう。
 本作の連載は73〜75年の『漫画アクション』。このコンビは同誌で、『高校生無頼控』を皮切りに本作および『カニバケツ』『学校の探偵』と、70年代を通してほぼずっと連載を持っていました。この中だと『無頼控』が3度の映画化もされている大ヒット作、かつかなりとんでもない作品なんでとして有名ですが、本作も負けず劣らず、……というか小池作品の中でも最大級にとんでもないです。見ていきましょう。
 本作の大まかな話は「着流し姿の型破りな教師・阿久津無事が、生徒が抱えている諸問題を解決していく」というもので、まあこの構造を見るとオーソドックスな教師ものに見えます。構造だけなら。オーソドックスじゃないのは阿久津先生のキャラ造形でして、型破りにしてもちょっと程があるんですよね。まずは第1話の初登場シーン。大混雑する山手線のホームに現れた彼は、いきなり脱ぎ始めます。

『ぶれいボーイ』1巻9ページより

 

 当然駅員が飛んできますが、彼は「満員電車は濁流の大河に等しく、裸になるのは自衛のため当然」と澄んだ瞳で語りだします。

『ぶれいボーイ』1巻13ページより

 

 いちおう、当時の首都圏国鉄の混雑というのは全体に今よりもかなりひどい(路線によっては、車内の乗客が窓ガラスを突き破って重傷を負う事故とかが全然あった)という事情もあるはあるんですが、それにしても裸になることはない。しかも、乗り合わせた女性が当然恥ずかしがるのに対し、「気にしないことです」と優しく声をかけたりします。

『ぶれいボーイ』1巻16ページより。この後は当然のごとく「気ちがい!」と罵倒されます

 

 まあ小池作品の主人公って、この人に限らずかなりの割合ですぐ裸になりたがるし、あまつさえ相手に対して「恥ずかしがることはない」と説教したりする悪癖があるんですけど……(『オークション・ハウス』のリュウ・ソーゲンとか)。お前が恥ずかしがってくれ。

 この時点で異常人であることは十分伝わりましょうが、さらに読者を震え上がらせるのが、彼の必殺技「せっかーン!!」です。例えばタバコを吸っているスケバンがいた場合、ガっと小脇に抱え込んでしまうとパンツをずり下げて……、

『ぶれいボーイ』1巻30〜31ページより

 

 「せっかーン!!」(折檻)の掛け声とともにお尻をペンペン。

『ぶれいボーイ』1巻35ページより。ページ数カウントで伝わるかもしれませんが、見開きを含む5ページくらいを使ってスパンキングを描いています

 

 昔は今より体罰に対する認識はゆるく、特に尻叩きは子供へのしつけとしてポピュラーなものだったのはそりゃそうなんですが、それでもこの阿久津先生は異常です。作中でも普通に「婦女暴行」とか言われてるし。あと、単に悪いことをした生徒に対してだけではなく、自分に塩対応を取った大人の女性とかにもやりますし、

『ぶれいボーイ』2巻256〜257ページより

 

 自分に協力してくれない同僚の先生(シスターの恰好なのはミッション系の学校だから)にもやりますし、

『ぶれいボーイ』3巻164〜165ページより。どことなく瞬獄殺みたい

 

 生徒を激励する場合にもやります。

『ぶれいボーイ』4巻54〜55ページより

 

 阿久津先生(そして小池せンせい)、全体的に何考えてるのか分からなくて怖いんですよね……。特に怖いのは、最初に赴任した学校を離れることになったシーン。すっかり阿久津先生にメロメロになってしまい「行かないで」と追いすがる女性の同僚に、生殺与奪の権を握らせます。

『ぶれいボーイ』2巻206〜207ページより

 

 生殺与奪の権を他人に握らせるな!! もしかすると冨岡さんにもこのように生殺与奪の権を握らされた悲しき過去があり、それであんなに激昂したのかもしれませんね。

 あと、本作の怖さをより増幅させているのが芳谷の絵。異様な迫力を持っているというか、阿久津先生の表情が全体的に怖い。折檻シーン以外でも、例えばこの、現代の高校生の気持ちを知るためにいったん教師をやめて高校生になろうとするシーンとか、目の焦点が合ってなくて怖すぎる。

『ぶれいボーイ』4巻250〜251ページより

 

 さっきの生殺与奪の権を握らせた後のシーンなんかも、相手の人が白目むいてるのも相まってかなりの怖さがあります。「さようなら」って言ってるし、これから相手を殺す人みたいというか……。

『ぶれいボーイ』2巻213ページより

 

 ともあれ、これらのシーンの他にも、阿久津先生を倒す刺客としてやってきた、コンピューターとピューマの合成怪人・コンピューマとか(何がピューマなのかは不明)、

『ぶれいボーイ』2巻66ページより。こいつは秒で阿久津先生に負けます

 

 学校を去ろうとする阿久津先生に元スケバンたちが追いすがったことで服が脱げていくシーンとか、

『ぶれいボーイ』2巻220〜221ページより

 

 異常な面白さのパワーが全体に溢れている漫画ですので、電書で気軽に読める現在、皆さんも読んでみてはいかがでしょうか。「ガッツ広場」と「かくて……」という謎ワードばかりがやけに頭に残る最終話も呆然とさせられますぜ(こうとだけ書いても何のことやらでしょうが、読めばわかります)。

 さて、ここから後半戦です。『ぶれいボーイ』については、小池一夫というビッグネームの作品ですし、アクションというメジャーな青年誌の連載ということもあって、昔の漫画(特に異常なもの)を読んでいる人ならばご存知の作品ではありましょう。しかしそんな方の中にも、21世紀になってから本作のインスパイア漫画が出たことを知る人はほとんどいないではないでしょうか。それが、倉科遼+杉浦要之助『俥屋甚八暴れ太鼓』です。
 連載は04〜05年に竹書房が刊行していた『劇漫スペシャルデラックス』で、単行本は出ていません。『劇漫スペシャルデラックス』という雑誌も99%の読者が知らないんじゃないかと思いますが、「最後に正義が勝つ! 世直しマガジン」と銘打たれていた劇画雑誌です。第1号の目次を見るとこんな感じで、

劇漫SPDX目次

 

 それっぽいのが並んでいますね(山口組の実録漫画も混ざってますが、これは前身時代からの引き継ぎ)。竹書房、今も『劇漫デラックス』というの出し続けていますが、これは高年齢向け官能劇画誌なので、名前は受け継いでいても中身はだいぶ違います。

 『俥屋甚八暴れ太鼓』の内容紹介に移りましょう。主人公・甚八は浅草で観光人力車の車夫をしている若者。実は関東香具師(テキヤ)連合の頂点である根岸一家の跡取り息子で、組を離れて男を磨くための修行をしている身です。

『劇漫スペシャルデラックス』第1号178〜179ページより

 

 この甚八が、カツアゲをする不良少女やら(上のシーンにも、カミソリを指に挟むという古式ゆかしい武器を使っているのが出ていますね)浅草を狙うヤクザやらといった悪人を退治していくというのが毎回の内容。そしてクライマックスで行われるのが、

『劇漫スペシャルデラックス』第1号194〜195ページより

 

 この通り、女性に対するスパンキングなんですね。「暴れ太鼓」というのはこのことを指しているわけです(最悪のタイトル回収)。そして毎回「折檻〜〜〜っ!!」って叫びながら叩いています。スパンキングだけならたまたまも考えられますものの、この構図で「折檻」と言ってしまっていたらさすがにインスパイアである可能性が100%でしょう。
 いやしかし、日本に漫画作品は数あれど、『ぶれいボーイ』インスパイア作品というのは本作だけなのではないでしょうか(普通はやろうと考えないので)。そう考えると、非常にオリジナリティーがある作品と言えるのかもしれません。甚八さん、何考えてるのかわからない阿久津先生(と小池せンせい)に比べるとかなり正気なんで、そういう点では『ぶれいボーイ』とはだいぶ読み味は違いますし。

 さて本作、先に単行本が出ていないと言いました。しかし、なぜか「めちゃコミック」でのみ配信されています(本当になんで?)。「めちゃコミック」の作品紹介では、

“『遠山の金さん』meets『ぶれいボーイ(小池一夫作品)』!主人公は眼無しの昇り龍の紋々を背負ったいなせな男で、今はただの下町の俥屋(くるまや)。その正体は、侠客修行中のヤクザの総元締めの跡目!人力車を引いては町のワルどもにお仕置きし、毎回何かと理由をつけては女を肩に担ぎ上げ、スカートをまくってお尻ペンペン「折檻〜〜っ!」。流石に21世紀なので、ぶれいボーイのような「公衆の面前でパンツずり下げ」と言う暴挙にまでは出ませんが(笑)。”

 とのことで、ああもう『ぶれいボーイ』って言っちゃってるよ。『ぶれいボーイ』のインスパイアをやるということの暴挙ぶりに比べたら、パンツをずり下げるかどうかは些細なことという気もしますね。
 ただこの配信、ちょっと問題があって、以下のようにコマが切り刻まれて縦スクロールになってるんですよね……。しかもなんか解像度すごい低いし……。

『俥屋甚八暴れ太鼓』めちゃコミック版001話より

 

 また、このように微妙に白四角での修正が入っています。

『俥屋甚八暴れ太鼓』めちゃコミック版002話より

 

 というわけで、完全版が読みたいという人(いるのか?)は国会図書館に行って『劇漫スペシャルデラックス』を読むしかありません。ちなみに同誌、国会図書館の蔵書検索で『劇漫スペシャルデラックス』と入れても出てきませんが、これは『近代麻雀』の増刊扱いで入っているから。14〜15年の『近代麻雀』を検索して、「増刊」と書いてある号をリクエストすれば読めます(お役立ち知識)。

おまけ:

 国会図書館で完全版の『俥屋甚八暴れ太鼓』をマジで読んでみようと思った人は、上の『劇漫スペシャルデラックス』の目次で『俥屋甚八暴れ太鼓』と上下に並んでいる沖圭一郎『炎の怒りん棒』も読んでみるといいかもしれません。タイトルと「ムクムク…もー、シンボーたまりません!」というキャッチコピーだけ見ると艶笑ものみたいなんですが、実は「めちゃくちゃデカいチンポで、悪女(「轢き逃げで人に重傷を負わせた挙げ句に金の力でもみ消そうとするセレブ」など)の女陰を破壊する」という「肉棒仕置人」が主人公という、『俥屋甚八暴れ太鼓』とは別方向にオリジナリティーがある仕置ものなので……。第1話の最終ページが

『劇漫スペシャルデラックス』第1号226ページより。なお、本作のタイトルで検索すると、2chの猿渡哲也スレでなぜか語られているのが引っかかるっス

 

 であるように、あまりにガンギマリで怖すぎるからなのか、全2話で終わってしまってはいますけどね。ちなみに、これもめちゃコミックで配信されています。