連載
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アニメーション版「この世界の片隅に」を捉え直す(15)かまど
細馬宏通
2017/02/15 2:59
食事の支度をするさまがあまりに楽しそうなので、つい気づきそこねてしまうが、かまどの前のすずはずいぶん長いこと一人で過ごしている。 たとえば、楠公飯の場面がそうだ。「三倍の水にて弱火でじつくり炊き上ぐるべし」と、作り方 […]
食事の支度をするさまがあまりに楽しそうなので、つい気づきそこねてしまうが、かまどの前のすずはずいぶん長いこと一人で過ごしている。 たとえば、楠公飯の場面がそうだ。「三倍の水にて弱火でじつくり炊き上ぐるべし」と、作り方 […]
アニメーション版「この世界の片隅に」では、場面の変わり目で、動物たちが句読点を入れるようにさっと画面を過ぎることがある。冒頭からして、すでにそうだ。「うちはよう、ぼーっとした子じゃあいわれてじゃけえ」。すずのゆっくりし […]
「う~~~~」と少しくぐもった声で言うのが、戦中に少女時代を過ごした母の得意の口真似だった。警戒警報の長いサイレンのことだ。口真似の次にはたいてい「あの音ぁよう忘れんねえ」が来て戦時中の思い出話となり、それが一段落する […]
アニメーションには、原作のマンガにはない小さなエピソードがいくつか散りばめられているが、中でも印象に残るのは、晴美とすずのやりとりだ。 たとえば、19年9月、まだまだ暑い畑で、すずと晴美が何かを収穫しており、晴美は黄 […]
こまい、ということばは懐かしい。 子供の頃、呉出身の両親の知り合いたちと久し振りに会うと決まり文句のように「おおきゅうなったのう」「こまいころようあそんだのう」と言われた。「こまい」は、背丈の小さい人にも小さいものに […]
爪のあるなしは、登場人物の印象を決定づける。たとえば、萩尾望都描く「ポーの一族」のエドガーやアランの指先に爪があったら、彼らの散らすバラは全く異なった意味を持っただろう。山岸涼子「日出処の天子」の厩戸皇子が爪を持ってい […]
小学2年の頃だっただろうか。「不幸の手紙」ならぬ「幸運の手紙」(ハガキ)をもらったことがある。くれたのは確か同級生のミヤちゃん(仮名)だった。ミヤちゃんは付き合い下手のわたしとよく遊んでくれる子で、ミヤちゃんから手紙を […]
さて、正月早々、これはトリならぬ虫の話。 「戦争しよってもセミは鳴く。ちょうちょも飛ぶ。」 そう物語った19年夏のある日、すずは晴美がしゃがんで「ありこさん」を見ているのに気づく。二人はアリの行列をたどってゆくのだ […]
アニメーション版『この世界の片隅に』を見ていると、マンガにそんなことが描かれていたのかと虚を突かれることがある。たとえば画帳だ。 19年5月、径子たちが街に戻って再び食事の支度をすることになったすずは、刈谷さんから教 […]
「とりかへしのつかぬあやまちをおかして仕舞ひました」と主婦十九歳はがっくりしている。義姉の径子が様子を見に行くと、驚いたことにその主婦十九歳はずらりと並んだ端切れを前に、目を笹の葉のごとく三本線にして「裁ち間違えた…… […]