『釣りキチ三平』は『カードキャプターさくら』なのか

『釣りキチ三平』は『カードキャプターさくら』なのか

点と点が繋がり、線になる。
知性で道を切り開いてきた人類にとって、この経験は欠かせません。
しかし、ときには点と点があらぬ方向に繋がってしまうこともあります。

それが今回のタイトルである、「『釣りキチ三平』は『カードキャプターさくら』なのか」です。

「何を言っているんだ?」と思われた方、正常です。
極めて妥当。
仰る通り・OF・FIRE。
ごもっともユーロビート。

安心してください。
経緯を説明します。
話は、たまたま『釣りキチ三平』を手に取ったところから始まります。

釣りキチ三平』とは?

釣りキチ三平』は、『週刊少年マガジン』で1973年から1983年にかけて連載された釣りマンガ。狂ったように釣りが好きな少年、三平三平(みひらさんぺい)が様々な川や海で、環境や魚たちとの駆け引きを楽しむストーリーです。

釣りキチ三平』の独特な声

(『ワイド版 釣りキチ三平』 5巻74p 参照)

この作品を読んで、私は思いました。
「奇声が多いな」、と。

(『ワイド版 釣りキチ三平』 1巻29p 参照)

釣りキチ三平のキャラクターたちは、大半が釣りに夢中です。
そもそも釣りキチとは、「熱狂的な釣り好き」みたいな意味ですからね。
仕方ないです。

彼らは白熱してくると、言語を忘れて叫びます。
魚が餌にかかった興奮は、原始的な衝動を呼び起こすのでしょうか。

(『ワイド版 釣りキチ三平』 4巻352p 参照)

結果、「トヒョ~~~ッ」です。
人生で一回も発したことのない音。
でもこの独特の発声が、釣り人の心のワクワクを伝えるのに効果的なんですよね。

(『ワイド版 釣りキチ三平』 8巻91p 参照)

「プーオッ!!」もかなり好き。

ん?
ここで私は気が付きました。
「そういえば、他にも独特の声を出すマンガがあったな」。

そうだ!『カードキャプターさくら』だ。

カードキャプターさくら』とは?

カードキャプターさくら』は、『なかよし』にて1996年から2000年まで連載されたファンタジーマンガ。ひょんなきっかけから魔法カードの使い手になった木之本さくらが、街で起こる不思議な事件を解決していくというストーリーです。2019年現在は、続編にあたる『カードキャプターさくら クリアカード編』が同誌で連載されています。

疑惑の浮上

(『カードキャプターさくら』 3巻98p 参照)

カードキャプターさくら』でも『釣りキチ三平』と同じく、「ほええええ」「ほえ?」といった特徴的な言葉遣いが見られます。

この時点では、「三平もさくらも変な言葉を使うのが好きだなあ」くらいに思っていました。
どちらも子供が主人公ですし、微笑ましく読んでいました。
しかし、『カードキャプターさくら』を読んでいく内に、あるコマが見つかったんです。

(『カードキャプターさくら』 4巻97p 参照)

「ふええええ」と言っている。
これは、さくらたちが臨海学校へ行ったときに、肝試しで驚かされて出た言葉です。

私は戦慄しました。
顔は青ざめ、背筋を冷たい汗が伝います。
おいおい、嘘だろ?

(『ワイド版 釣りキチ三平』 25巻359p 参照)

 

三平も「フエーッ」って言ってるぞ。
こんな偶然あるかね。
奇妙すぎる一致。

いや、違う。
私の直感が警鐘を鳴らします。
偶然で片づけちゃだめだ。

念のため、この二作品を交互に見てみることにします。

(『カードキャプターさくら』 5巻144p 参照)
(『ワイド版 釣りキチ三平』 21巻70p 参照)
(『カードキャプターさくら クリアカード編』 4巻6p 参照)
(『ワイド版 釣りキチ三平』 30巻178p 参照)

同じマンガ?

まさか、釣りキチ三平』って、『カードキャプターさくらなのか?
炭焼き名人と空をマラソン、夢をユニゾンするのか?

「『釣りキチ三平』、『カードキャプターさくら』」説

いやいやいや。
展開に無理があるだろ。
強引すぎる。

釣りキチ三平』は『釣りキチ三平』だし、『カードキャプターさくら』は『カードキャプターさくら』でしかない。
これを読んでいるあなたはそう思ったことでしょう。

確かにな。

私だって信じたくないですよ!
クロウ・リードと毛釣山人(けばりさんじん)が同じマンガに出てきてたまるか。
知世ちゃんの豪邸に来た次のコマでサーモンダービーが始まったら、女の子の読者が泣いてしまう。

だからこそ!
きちんと検証をして、疑問を完全に拭い去っておく必要があります。

検証方法

検証方法としてはまず、二つの作品の共通点である「ふえー」を全て洗い出します。
そして、この二つの「ふえー」を見比べ、違う性質のものであれば、晴れて「『釣りキチ三平』、『カードキャプターさくら』」説は棄却できるということにしましょう。

範囲は、『カードキャプターさくら』1~12巻及び、『カードキャプターさくら クリアカード編』1~7巻(2019年12月時点での既刊)。

『ワイド版 釣りキチ三平』1~37巻及び、『釣りキチ三平 釣りキチ同盟編』、『釣りキチ三平 釣り犬ハチ公編』、『釣りキチ三平 平成版』1~12巻とします。

なお、『ワイド版 釣りキチ三平』37巻に収録されている、「落ち鮎のコロガシ釣り」は重複する内容のものがあるため除外。「磯のダンプカー」「月ノ輪熊狂騒曲」「幻の大岩魚アカブチ」は、釣りキチ三平本編ではないため除外しています。

カードキャプターさくら』の「ふえー」

(『カードキャプターさくら』 4巻97p 参照)

まずは、『カードキャプターさくら』側から見ていきましょう。
今回の範囲で「ふえー」系統は、合計3回出てきました。
集計対象は2,915pだったので、約0.13%程度の割合でページに出現します。

バリエーションは、「ふえええええ」「ふえっ!!」の二つでした。

(『カードキャプターさくら クリアカード編』 4巻6p 参照)

ニュアンス自体は、「ほえー」とほぼ同じです。
驚きや戸惑いなど、感情の動きを幅広く表す感嘆詞。
古典的な中国キャラの「アイヤー」を思い浮かべると、分かりやすいです。
文脈によって歓喜の「アイヤー!」だったり残念そうな「アイヤー…」だったりするイメージ。

(『カードキャプターさくら』 5巻144p 参照)

強いて「ほえー」との違いを言えば、「授業中に寝ていて先生に怒られた」「臨海学校で驚かされた」など自分にとってマイナスのことが起きた場合に使われる傾向が見えました。

釣りキチ三平』の「ふえー」

(『ワイド版 釣りキチ三平』 8巻241p 参照)

次に、『釣りキチ三平』側の「ふえー」を洗い出します。
今回の範囲で「ふえー」系統は合計163回出てきました。
集計対象は16,564pだったので、約0.98%の割合でページに出現します。
カードキャプターさくら』の10倍くらいありますね。

バリエーションは、「ふえー」、「フエーッ」、「フエー」、「フエ~~ッ」、「フェ~~~ッ」、「フエ~~~ッ!!」、「フェ~~~ッ!!」、「フェーッ」の8パターンでした。
平仮名表記とカタカナ表記では、意味が違わなかったため、一緒に集計しています。
「え」と「ぇ」についても同様です。

(『ワイド版 釣りキチ三平』 34巻315p 参照)

「フェッフェッフェッ」は文脈が違うと判断し、除外しています。
十五段先生すみません。

(『ワイド版 釣りキチ三平』 30巻330p 参照)

主な使い道は、さくらと同じく感嘆です。
ただ、こちらは釣りパートでの「ふえー」と日常パートでの「ふえー」で微妙に用途が分かれます。

(『ワイド版 釣りキチ三平』 10巻194p 参照)

釣りパートでの「ふえー」は、主に魚を引いているときと、魚を釣り上げた後で大きさに感心するときに使います。前者では、苦戦しながら魚の重みを感じている様子を表します。

(『ワイド版 釣りキチ三平』 12巻199p 参照)

後者では、魚を眺めて興奮しつつ、充実感に浸っているようなイメージです。

因みに魚がヒットしたときや釣りあげた瞬間は、「うっひょー」「ひょっ」などがよく使われます。

(『ワイド版 釣りキチ三平』 27巻63p 参照)

日常パートでの「ふえー」は、驚いたときや困ったとき、初めての出来事に感心したとき、ホッとしたときに主に用いられます。競合感嘆詞は「ひえー」「ひやー」「どっひゃー」などです。競合感嘆詞って何?

体感ですが、三平のテンションが50~70%くらいのときに「ふえー」を発する傾向があります。
強いて近い日本語を挙げるなら、「いやはや」くらいの感じです。

二つの「ふえー」の決定的な違い

そしてついに、このときが来ます。
決定的な違いが見つかってしまいました。

(『ワイド版 釣りキチ三平』 5巻28p 参照)

釣りキチ三平』では、三平以外も「ふえー」と言っているんですよね。

カードキャプターさくら』では、独特の発声がさくらの個性としてデザインされているため、さくら以外が「ほえー」「ふえー」などと言うことはありません。

(『カードキャプターさくら』 1巻134p 参照)

さくら専用のセリフだからこそ、上記のコマのように、ほぼ吹き出しだけでもどれがさくらなのかが分かります。

まさに特注品。
他のキャラクターが侵入できない特別な個室です。

(『ワイド版 釣りキチ三平 平成版』 2巻46p 参照)

一方で、釣りキチ三平の世界では、独特の発声は他のキャラクターも頻繁に使います。
世界全体がアパートだとして、奇声は共用のコンロ。
使いたい奴が使いたいだけ、感情の赴くままに叫べばいい。

これはもう、完全に性質が違うと言っていいでしょう。

ということで改めて、二つの作品の「ふえー」は異なっていたため、「『釣りキチ三平』、『カードキャプターさくら』」説は棄却されることになりました。

まとめ

以上で検証を終わります。
いやあ、『釣りキチ三平』が『カードキャプターさくら』じゃなくてよかったです。
流石にそんな訳ないですもんね。
釣りキチ三平』が『カードキャプターさくら』だったら、とんでもないことになっていました。

もし、ご家族や友人が「『釣りキチ三平』って『カードキャプターさくら』なのかも」と悩んでいたら、この記事を見せてあげて下さい。
きっとすっきりするはずです。

あれ?でも、待てよ。

(『カードキャプターさくら』4巻144p)
(『釣りキチ三平 釣り同盟編』225p 参照)

「あやー」って発声も共通しているな。
やっぱ同じなのかも。

参考資料

『ワイド版 釣りキチ三平』1~37巻 2002年 矢口高雄 講談社
釣りキチ三平 釣りキチ同盟編』 1993年 矢口高雄 講談社
釣りキチ三平 釣り犬ハチ公編』 1993年 矢口高雄 講談社
釣りキチ三平 平成版』1~12巻 2010年 矢口高雄 講談社
カードキャプターさくら』1~12巻 1996年~2000年 CLAMP 講談社
カードキャプターさくら』1~7巻 2016年~2019年 CLAMP 講談社

 

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