『魔方陣グルグル』で「ガタリの啓示」を受けるためにはどれだけ働けばいいのか

『魔方陣グルグル』で「ガタリの啓示」を受けるためにはどれだけ働けばいいのか

経営と労働。
多くの現代人が時間を費やしている行為にして、悩みの種。
裏を返せば、それだけ普遍的なテーマの一つであるとも言えます。

なので、マンガにも経営と労働は頻繁に登場します。
特定の職業に取材したマンガは枚挙に暇がありません。

ただ、意外なタイトルにこの要素が出てくることもあるんです。
その一つが、『魔方陣グルグル』です。

『魔方陣グルグル』とは?

魔法陣グルグル』は、1992年から2003年まで『月刊少年ガンガン』で連載された少年マンガです。
ロールプレイングゲームの世界をいじったギャグを大きな特徴としています。
特にいくつかのシーンやフレーズは、読者に大きなインパクトを与え、連載が終了した現在でも根強い人気を博しています。

かういう私も、初期の発想力溢れる笑いの質に心を打たれ、かつて夢中で読んだ経緯があります。
旅立ちのときに、勇者が母親にRPGのフィールドを模した料理を振舞われ、毒の沼を食べて怒られる場面で「これはすごい!」と飛び上がりました。

ストーリーとしては、勇者の少年ニケと魔法使いの少女ククリが旅をしながら魔王討伐を目指すというものです。
ただ、基本的にニケは気の抜けたような態度ですし、ククリも魔王討伐はニケと旅するおまけくらいに考えている節があります。
ヘンテコな敵や味方も多数登場するので、あまり深刻にならずに楽しめます。

3回に渡ってアニメ化されており、その都度新たな世代の認知を得ることに成功しています。
マンガも現在は、続編にあたる『魔方陣グルグル2』が『ガンガンONLINE』にて連載中です。

子供の頃に読んでも面白かったですが、大人になってから読み込むとまた違った味わいがあります。
ファンタジー色の強い同作で見つかるんですよ。
経営とファンタジーのクロスする場面が。

ガタリの啓示

それは、新しい能力を得るために資金集めをするシーンです。

(『魔方陣グルグル』5巻 55p)

コミックスの5巻で、主人公一行は高僧ガタリと出会います。
ガタリには「啓示」という能力があり、人間の秘めた力を目覚めさせてくれるといいます。
しかし、ガタリは人間が嫌いになっていて、簡単に啓示をしたくないようです。
そこで啓示代として、1人5万R(リン)で合計15万Rという金額を突きつけられます。

後述しますが、15万Rは個人が用意するにはかなり大変な額です。

これは、いくらなんでも高すぎやしないか?
初めて読んだ際に「ええっ」と驚きの声が出たのを覚えています。
それどころか、電車を待っているときなどに思い出して「やっぱり高いよなあ」と今でも反芻しています。

確かに結果を言えば、啓示を受けることで通常の修行では得られないステップに辿り着けました。
特に、勇者の能力、光魔法キラキラについての情報は大きかったと言っていいでしょう。
さらに擁護すれば、ガタリは勇者たちの資質を試すために無理めの金額を言った感じもあります。
それにしたって15万Rて。

勝手に唸っていても分かりづらいので、まずはこの15万Rがどれだけ高いのか力説していこうと思います。

グルグルの世界の物価

この魔方陣グルグルの世界の物価を見てみようと思います。
基準が分からないと15万Rへの驚きを共有できませんからね。

(『魔方陣グルグル』1巻 49p)

武器を見てみましょう。
鉄の剣が400Rで、短剣が200Rでした。
この世界の初期装備と言える武器です。
ガタリの啓示の375分の1と、750分の1ですね。

(『魔方陣グルグル』7巻 114p)

服や靴などは、簡単なものでよければ100Rも出せば揃います。
日用品は特に安い世界なんでしょうか。
家計に優しい。

(『魔方陣グルグル』3巻 166p)

民家から見つかったお金で150Rです。
日用品の価格を考えると、へそくりの金額くらいでしょうか。

(『魔方陣グルグル』3巻 122p)

村レベルの平和を守ったときのお礼は2000Rでした。
ニケが「おおっ2000Rも…」と言っているところから、市民の感覚では2000Rは大金であることが分かります。

(ゲーム版グルグルのアイテムテーブルより筆者作成)

さらに詳しく、ゲーム版の魔方陣グルグルを参照してみましょう。
ゲームは複数出ていますが、比較的物価の近い初代魔方陣グルグルを選択します。

お店で買える最高の剣「ゆうしゃのつるぎ」でやっと5万5千Rですよ。
啓示1人分。
市販の最高の杖、「だいちのつえ」は3万1千Rです。
いくつもダンジョンをクリアして終盤でようやく買える武器ですからね。
しかも今まで使っていた武器を売り払う場合は、さらに必要な額は少なくなります。
それをガタリのじいさんは、いとも簡単に15万Rと!
谷にひっそりと住むには十分すぎる額でしょう。

私が15万Rを請求されたら目がクラクラしてそのまま谷底に落ちていたかもしれません。

15万Rを溜めるためには

では、勇者たちはどうやって15万Rもの大金を捻出したのでしょうか。
RPGのゲームのように敵を倒してRを稼いだのか。
それとも、カジノで大きく勝ちを収めたのか。
ご都合主義の武術大会に出たのか。

(『魔方陣グルグル』5巻 61p)

なんと「にけや」というお店を出して、地道に商売をして稼ぎました。
15万Rを。

こういうほのぼのした手段を取るところは、グルグルらしいです。
ドラゴンクエスト4のトルネコの章を連想する人もいるかもしれませんね。

でも、ちょっと大変じゃないですか?
試しに計算してみましょう。

にけやの財務

繰り返しになりますが、ガタリの啓示を受けるには15万Rが必要です。
言い換えれば、にけやで15万R分の利益を出すことになります。

利益の求め方は、こうなります。

利益(15万R) = 売上高 − 費用

売上高と費用が分かればいいわけですね。
ではまず、売上高を求めてみましょう。

にけやの売上高

(『魔方陣グルグル』5巻 65p)

にけやで唯一値段の分かっている品物は、ククリの手作り弁当です。
お店の主力商品で、1つ20Rで販売していました。
ゲーム最序盤の回復アイテム(たまごせんべい)が40Rなことを考えると、極めて良心的な値段設定です。

<売上情報1>
お弁当の単価 = 20R

(『魔方陣グルグル』5巻 65p)

お客は、龍の定期便という交通手段で塔の攻略に向かう戦士たちです。
上述のコマで、15人いることが確認できます。
この15人全員がにけやでお弁当を買っているようです。
他の定期便でどれくらい人が乗っているか分かりませんが、情報がないため1回15人が訪れるとしましょう。
そしてここでは、15人が1人1つのお弁当を買うことにします。

<売上情報2>
1回に買われるお弁当の数 = 15個

(『魔方陣グルグル』5巻 21p)

そして龍の定期便は、1日1回だけ出ている記述があります。

<売上情報3>
1日あたりのサイクル = 1回

となると、1日のにけやのお弁当の売り上げは以下になります。

20R × 15個 × 1回転 = 300R

(『魔方陣グルグル』5巻 62p)

お弁当以外には、「魔よけのポプリ」といったアイテムも、にけやで売られている記載があります。
名前からして、武器や防具というより消耗品系の道具なのでしょう。
おそらく敵が出にくくなる系の効果です。
価格は不明ですが、ゲーム版で買える「えんまく」という戦闘離脱のアイテムが100Rだったので、それよりは高いと見て仮に200Rとします。

こういったアイテムが1日に1個は売れると見積もって売上に足します。
300R + 200R = 500R

1日500Rくらいの売上になりそうです。

にけやの費用

続いて費用を求めています。

(『魔方陣グルグル』5巻 53p)

まず、商品の大部分はケムケムというモンスターが遺跡から拾ってきたものです。
アイテムに関する仕入れ費用は、かかっていません。

お弁当に関しては、箱とおかずはケムケムが持ってきたものを加工しているとしましょう。
米だけは遺跡に勝手に生えているというわけにはいかないので、どこかから仕入れる必要があります。

米は、2018年時点の物価から見てみます。
現実世界でのお弁当の値段は、大体500円としましょう。
現実世界での米10kgは、業務スーパーの最安値で2400円くらいです。
一人用のお弁当に使う米の量は約200gです。

まず、10kgを200gで割ると、お弁当何人分かが分かります。
50人分でした。
2400円を50人分で割ると、一人に何円のお米代がかかっているか分かります。
48円でした。
これは、お弁当代500円に対して、9.6%を占めます。

グルグルの世界の米の相場が分からないので、今回はククリの弁当も同じ割合のお米代がかかっているとします。
そうすると、20×0.096で1.92(R)がお米の材料費ということになります。

1日単位で見ますと、15人前が売れますので材料費は、以下になります。
1.92R × 15人分 = 28.8R

<費用情報1>
お米の費用は、1日28.8R

続いては、住居費光熱費人件費などの固定費です。
人件費に関しては、啓示の代金が報酬代わりということなので、0とします。

住居や食事に関しては、ガタリの家にお世話になっているようです。
いくら啓示の代金を払うとは言っても、全く無料で居候ということは考えづらいです。
ニケ、ククリ、トマ、キタキタおやじの4人を居候させるのは精神的に大変そうですしね。
仮に1日40R(一人10R×4)としておきます。

<費用情報2>
宿泊費として1日40Rを支払う

にけやの利益

以上を加味して、にけやの利益を出してみましょう。

にけやの1日の利益 = 500R(売上) − 28.8R(お米の費用) − 40R(宿泊費) = 431.2R
1日431.2Rの利益が見込めます。
これで15万Rを捻出するためには、

150000R ÷ 431.2R = 約347.87日

約347.87日働けばいいことになります。
ほぼ1年!

世界の平和が刻一刻と脅かされているというのに、1年も資金繰りのために奔走しないといけなかったというのか。
しかも毎日営業して347.87日ですからね。
1日の営業時間はそんなに長くなさそうとはいえ、気が遠くなります。

にけやの損益計算書

最後に、1年というキリのいい数字が出たので、年間の収支が分かるよう損益計算書を作りました。
損益計算書は、「ある期間に、何でいくら増え、何でいくらかかり、最終的にどれだけ儲かったのか(損したのか)」(『図解でわかる!読める財務3表』)を示す報告書です。
小数点は第1桁を四捨五入しています。

(にけやの損益計算書)

1年間で348日営業したときの内容になっています。
ちゃんと15万R稼いでいますね。
ケムケムの活躍のおかげで、売上総利益率(粗利率 = 売上総利益を売上高で割ったもの)が約94.2%と非常に高い数字になっています。
なんせほとんど材料費がかかっていないんですからね。

比較のために、実際の同業者の売上総利益率を出してみます。
経済産業省の『平成28年度中小企業実態基本調査』によると、従業員5名以下で小売業を営む企業の売上総利益率は、平均31.06%です。
経営者や営業担当者からしたら、そんな粗利率94.2%で商売できたらどれだけ楽か!と叫びたくなるでしょう。

まとめ

以上です。
計算では、15万Rの資金捻出に大体丸1年稼動が必要という結果が出ました。

一応、戦士が複数のお弁当を買う可能性もありますし、貴重なアイテムも売っていたようなので、実際にはもっと1回の売り上げは高いかもしれません。
にけやが一度パンクする間際には、20個のお弁当のオーダーを受けていた記載もありますしね。
ただ一方で、毎回15人も龍に乗っていたのかは疑わしいという面もあります。
雨の日なんかは、塔の攻略に行く人も減るでしょうしね。

そういうプラスマイナスを考えても、約1年という数字はそれほど現実離れしていないでしょう。
少なくとも、1ヶ月や2ヶ月というわけにはいきません。

ニケもククリもローティーンですからね。
10代前半の1年は貴重すぎる。
ガタリは気に入った人間にしか啓示をしないと言ってましたが、1年も泊めてあげるならもうその人間のこと気に入ってるでしょう。
高僧なら啓示の必要性をすぐ見抜いて、スッとやってくれよという思いがより強まりました。

さて、今回グルグルの物価を調べるために価格に関するコマを探しました。
その中で、ククリのお弁当20Rよりもさらに安いものがありました。
それだけお伝えしておきましょう。
グルグルに出てきた品物の中で一番安いものです。

何だか分かりますが?

(『魔方陣グルグル』4巻 52p)

アッチ村の村長のブロンズ像です。

参考資料

魔法陣グルグル』1巻 1993 衛藤ヒロユキ エニックス
魔法陣グルグル』2巻〜7巻 1994〜1996 衛藤ヒロユキ スクウェア・エニックス
魔法陣グルグル 公式ガイドブック』1995 エニックス
『魔法陣グルグル攻略』(最終確認2018/7/22)
『平成28年度中小企業実態基本調査』(最終確認2018/7/22)
『図解でわかる!読める財務3表』2018 平木敬 秀和システム 
『財務会計(第5版)』2006 斎藤静樹 有斐閣
『Mマート 業務用食材卸売市場』(最終確認2018/7/22)

魔法陣グルグルのマンガ情報・クチコミ

完結 魔法陣グルグル 衛藤ヒロユキのマンガ情報・クチコミはマンバでチェック!みなさまからの投稿もお待ちしています。

記事へのコメント

作品内の経済活動に着目する秀逸な考察ですね。
(そういや、オヤジの脇の下握り以外でにけやでの経済活動を意識することはありませんでした)

あと、重箱の隅を突くようで大変申し訳無いのですが…『魔“方”陣』でなく『魔“法”陣』です…😭

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