どおくまんのすすめ ―その3 合戦マンガの傑作『熱笑!! 花沢高校』

2017/05/19 12:01

どおくまん作品を紹介するシリーズ、最終回となる今回は「熱笑!! 花沢高校」。大阪市にある花沢高校を舞台にした、不良ものマンガです。

このシリーズの第1回で紹介した「暴力大将」の主人公・力道剛は「親分系」のキャラクター、第2回で紹介した「嗚呼!! 花の応援団」の(実質的な)主人公・青田赤道は、「怪物系」のキャラクターでしたが、「熱笑!! 花沢高校」では「親分系」と「怪物系」のキャラが両方登場します。

親分系キャラは、このマンガの主人公である力勝男(りき・かつお)。ゴツい体にコワモテの顔というルックスですが、その外見とは裏腹に泣き虫で、中学の間ずっといじめられてきた過去があります。そんな人生を変えたくて、同じ中学の人間が誰もいない花沢高校に入学、高校デビューを目指すところから物語が始まります。

怪物系キャラは、獣田三郎(じゅうだ・さぶろう)。異常に性欲が強く、異常にケンカが強く、街中の不良が震え上がる存在でありながら、番長になることはなく、あくまでも一匹狼を貫き通している男です。

ちょっと脱線しますけど、「性欲が強い」「ケンカが強い」「一匹狼」というキャラクターの獣田は、そのまんま高橋ヒロシ「WORST」の花木九里虎のモデルになっているように思います。このことを指摘している読者は多いのですが、高橋ヒロシ自身も好きなマンガに「熱笑!! 花沢高校」を挙げているので、きっとそうなのだろうなと。

ついでにいうと「WORST」の月島花は、顔つきや野生児っぽい身体能力、のんびりした気性が「暴力大将」の力道剛を思い出させます。というか、「WORST」もまた親分系キャラと怪物系キャラが織り成すドラマとして描かれているという点で、どおくまんの遺伝子を継ぐマンガだと言えるのかもしれません。

さて話は戻って花沢高校。

このマンガ、最初はギャグマンガとして描かれているんですよ。

ゴリラみたいな体格をしているのに、人一倍気が弱い(ケンカも弱いと思っている)勝男が、顔の迫力だけで相手を負かしてしまったり、不良から目をつけられてあの手この手で逃げ回ったり。追い詰められて不良やヤクザをのしているうちに、勝男は「自分は強いのでは…」と気がついていくのですが、調子に乗って獣田にケンカを売ってしまいます。そこで登場するのが、この必殺技。

その名も「50メートルパンチ」。

発動させるのに、まず自分をトランス状態に持っていく必殺技って見たことあります!? 私は後にも先にも、これしか見たことないです。あとこのネーミング。少年マンガ的なカッコよさ、もっといえば「中2病的なカッコよさ」が一切なく、それでいて威力のすごさはやたら具体的に伝わってくる。このへんのセンスも、さすがどおくまんだなあと思います。

で、何度も言うように序盤はギャグマンガで、不良とケンカはするけれども勝男は基本的にずっとビクビクしてるし、何かの拍子に不良が獣田を怒らせてしまって「50メートルパンチ」が発動、大パニックに……みたいな展開が続くのです。

ところが。

勝男が襲い掛かってくる不良たちを倒していくうち、物語はだんだんとバトルマンガの様相を呈していきます。

花沢高校を牛耳る、花沢三人衆。どおくまんの描く敵役には、常に「おどろおどろしさ」が漂っているのがいいですね。花沢高校三人衆を倒すと、今度は大阪最大の不良組織「北大阪の虎」が勝男たちを傘下におさめようとしますが、勝男はそれに反発。そこから勝男率いる「黒いゲリラ」対「北大阪の虎」との大規模な戦いに発展していきます。

しかしこの「北大阪の虎」の面々、とにかくクセが強い!

花沢高校を新しく統括するために送り込まれた幽鬼(中央)。左右に従えているのは、部下の四鬼と五鬼。

少年院から出所してきた、「北大阪の虎」の大幹部「虎の五悪神」。あまりにも少年離れした風貌ですが、もちろん彼らも高校生。日中は根城となる高校に滞在していますし、「夏休み」というキーワードがふいに飛び出したりもします。

「北大阪の虎」の首領・天界君主(てんかい・くんど)がこれまた強烈なキャラクターなのですが(愛車も)、それは本編をお読みくださいってことで。

で、ギャグマンガ→バトルマンガへとシフトしてきたこの「花沢高校」ですが、このあたりからさらなる変化を遂げます。いや、バトルはバトルなのですが、「強い奴と強い奴が戦う」というバトルではなく、「大軍勢と大軍勢が戦う」というタイプのバトルになっていくのです。

最近のマンガでいうなら「キングダム」のような展開。ものすごくケンカの強いキャラはいるが、彼ら一人一人の力だけで勝負が決まるのでなく、「軍勢をどう配備してどう攻めるか」が勝敗の鍵をにぎるようになる。

ギャグマンガ→バトルマンガときて、最終的には合戦マンガとなるのです。

「キャラの迫力」+「緻密な描き込み」は、どおくまん作品の大きな特徴だと言えますが、この「花沢高校」は特にその集大成のような作品だと思います。後半に入ってからの集団のぶつかり合いのグルーヴはものすごいものがある。

この集団戦の描き込みぶりたるや!

こういうハイテンション&ハイクオリティの集団戦が「花沢高校」のおもしろさですよ、ということでこの原稿を終わってもよいのですが、ただ闇雲に強い敵また強い敵を求めていくタイプのマンガとは違いますよ、ということだけは言っておきたい。

形としては不良と不良のケンカなのですが、力勝男は野望のためではなく、みんなを助けるために行動している。だからこそ、その意志に賛同して人がついてくる。単純なケンカの強さなら、怪物系キャラの獣田が劇中最強なのですが、主役はあくまでも親分系キャラの力勝男。そして本当に勝男は親分と呼ぶべき存在に成長していくのです。

最初のキャラ紹介とくらべてほしいのですが、主人公の力勝男はこんな顔つきに変わります。

描き込みの多い絵ではないけれど、いろんなものが伝わってくるカットです。ケンカが強そうだけど、それだけではない。器の大きさ、責任感の大きさみたいなものが見事に顔つきに表れている。そして何より「主役の顔」をしている。「マンガにおける画力ってこういうことなのかな」と思ってしまいました。

というわけで、ギャグマンガでもあり、バトルマンガでもあり、合戦マンガでもある「熱笑!! 花沢高校」おすすめです。


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前田隆弘
顔のこわさに定評のある編集者。広域指定編集業。著書に、同世代のクリエイターたちに「今の死生観」を聞いた「何歳まで生きますか?」(パルコ)がある。幼少期に読んだ「とどろけ!一番」の影響で、物心ついたときから「右手に鉛筆・左手に消しゴム」というスタイルで勉強してました。