「火の鳥」が怖かった
──人の生き死にについて、考えさせられたようなマンガってありますか?
そういう話になると、手塚治虫さんになるんですよね。『ブッダ』とか。手塚さんの作品もいろいろ読んでました。最初に見たのはマンガじゃなくて、アニメだったんですよ。アニメ映画の『火の鳥』。
──何編ですか?
何編だったんだろう……とにかく、めちゃくちゃ怖かったんですよ。
──どういうところが?
鳥の頭をした首の長い人が出てくるじゃないですか。あの造形が、子供心にものすごく怖くて。
──ということは、宇宙編ですかね。
顔じゅうぶつぶつのおじさんが出てくるのも、怖かったんですよ。テレビで放送されたものをビデオテープに録画して、自分で「火の鳥」というラベルを貼っておいたんですけど……。
──あまり見ることはなかった。
ビデオを見ないというより、そのテープを入れておいた棚が、僕の中ではちょっと「あかずの間」みたいになってしまって。それくらい怖かったです。
──たぶんそれはホラー的な怖さじゃないんですよね。
「この作品を見ていたら、そのまま異次元に連れて行かれてしまいそう」みたいな恐怖というか。手塚さんのマンガでは、『ブラック・ジャック』は読んでいたんですけど、それから何かのタイミングで『ブッダ』を読んで。『ブッダ』を読んだら、『火の鳥』の記憶がフラッシュバックしてきて、そこで改めて人間の輪廻転生や生き死にについて意識させられた、というところはありましたね。
人じゃないから感情移入できる
──今まで読んだマンガの中で、思い入れのあるシーンやキャラクターって何かありますか?
『ドラゴンボール』のハッチャンが好きなんですよ。
──人造人間8号ですね。
あれはちょっと泣けるんですよね。あと、『ワンピース』のチョッパー。
──ハッチャンとチョッパー、なんとなくキャラ的に通底するようなものがありますね。「やさしい心を持っているんだけど、孤独を持て余している」みたいな。
そういうのが泣けるんですよね。チョッパーは本当に泣けましたから。
──チョッパーで泣いたというのは、どのへんのエピソードですか?
チョッパーを飼っている魔女がいるじゃないですか。あの魔女と別れるくだりで泣きましたね。
──「チョッパーで泣く」という人は、けっこういますね。
あれはすごいです。チョッパーは人じゃない存在だから……それはハッチャンでも同じなんですけど、そのことで余計に伝わってくるものがあるというか。たぶん人間として描かれていたら、自分と同じ立場にいる存在だから、感動的な部分であってもちょっと斜に構えて見てしまいそうな気がします。人と違う生物だからこそ、むしろ素直に感情移入して、やられてしまうというところがあると思いますね。
──そのチョッパーのエピソード以外に、読むとつい泣いてしまうマンガのエピソードはありますか?
もともとマンガで泣くということが、そんなにないんですよ。でもチョッパーのエピソードでは泣いてしまったから、それだけあのシーンは強烈だったということなんでしょうね。あれを超えるものはないかもしれない。
『地獄甲子園』の衝撃的なくだらなさ
──まわりはあまり読んでないんだけど、自分は好きだったマンガというはありますか?
『宮本から君へ』ですかね。リアルタイムじゃなくて、大人になってから愛蔵版で読みました。好きな作品だったんですけど、他の人にすすめた覚えがあんまりないんですよ。「他の人には理解されないだろうな」と思って読んでた覚えがありますね。あと、「女性に理解されない」という意味では、『珍遊記』とか『まんゆうき』とか……。
──えっ、漫☆画太郎も読んでたんですか!?
めっちゃ読んでました(笑)。漫☆画太郎さんで一番笑ったのは『地獄甲子園』ですね。高校生のとき、男子の間で話題になったんですよ。「あまりにもくだらない」ということで(笑)。絵のインパクトも強かったし、まったく同じ絵が続くところもありましたよね? あれもびっくりして。ギャグマンガだと、『行け!稲中卓球部』にもハマりましたね。「稲中」はまわりで超流行ってましたね。「はみちんサーブ」って知ってます?
──局部をはみ出させることで、相手の動揺を誘うサーブですよね。
古谷実さんは、その後も『グリーンヒル』や『ヒミズ』を読んだんですけど、やっぱり「稲中」が一番ですね。暗い感じのものよりは、ギャグ路線のほうが好きでした。
──大人になってから夢中で読んだマンガって何ですか?
『蒼天航路』です。あれは名言の宝庫でしたね。とにかく絵がカッコいいし、名言の宝庫なんですよ。あのマンガで曹操のイメージがガラッと変わりましたね。
──横山光輝の『三国志』もそうですけど、曹操って敵キャラっぽい扱いになってますよね。
そう、もう本当に悪役のイメージしかなかったので。『蒼天航路』で初めて、曹操がカッコよく見えたんですよね。『蒼天航路』は大好きだし、見どころも多い作品なので、「たちばな書店」でも紹介したいと思っていますね。
書き込みながら読む
──ところで、今はどんな方法でマンガを読んでますか?
一時期、Kindleにすごくハマったんですよ。そのときはマンガを買いあさってましたね。どこに行くにもiPadを持っていって、読んでました。
──「一時期」ということは、今は違う?
今はやっぱり紙のほうがいいなと思って。今はKindleはまったく使ってないです。
──電子書籍からまた紙に戻ったんですね。何か理由があるんですか?
やっぱり本を見ながら印をつけたいんですよ。自分が気になったフレーズや心に響いたフレーズには、赤線を引っ張って、そのページの端を折るんです。それをやるには、紙のほうがいいんですよね。
──いつからやっている習慣ですか?
わりと最近……2、3年前くらいからです。松岡正剛さん(編集者)の本を読んだんですけど、松岡さんは本にけっこう書き込むんですね。読みながら感じたこと、思ったことを本に書き込むことで「自分で編集する」らしくて。それを知ったとき、目からウロコだったんですよ。「本に書いていいんだ!」と思って。
──読書というのは、一方的に情報を受け取るものだと思いこんでいたけれど……。
そうじゃなかった。本に書き込むのって、御法度的なイメージがあったんですけど、自分の好きなように読んで、自分の好きなように(書き込みしながら)遊んでいいんだなと思ってから、本の読み方がガラッと変わりましたね。
──ある意味、「自分のものにする」みたいな。
それをやると、2回目に読んだときに、「最初はこんなふうに思ったんだな」というのがわかるんですね。でも2回目はそこの箇所じゃなく、別の箇所が刺さって、そこに違う色で書き込みをしたりして。内容を理解するだけじゃなくて、それを読んだときの自分の気持ちを再発見する良さもありますね。
楽しいだけじゃなく、心がかき乱されるようなマンガを
──今まで読んできたマンガで、特にみんなに読んでほしい作品はなんですか?
『軍鶏』……をすすめても大丈夫なんですかね(笑)?
──本当にプッシュしたいものであれば、一般ウケとか考えなくて全然よいですよ。
じゃあやっぱり『軍鶏』になりますね。それまでは、マンガって「読んで楽しくなる」とか、「力をもらえる」とか、そういうイメージがあったんですよ。それを全部根底から覆されたマンガが『軍鶏』なので。それだけ自分にとってのインパクトがすごかったんですね。
──読むことで、心がかき乱されてしまうような。
そうですね。だから今でも心に残ってるんだと思いますし。そういう経験って、したほうがいいと思うんですよ。ただ面白いマンガだけ、楽しいマンガだけ読むよりは。そういうのがなくてもいい人もいるだろうけど、僕はいろんなものをすべて入れたいと思うタイプなので。
【プロフィール】
橘ケンチ(たちばな・けんち)●2009年、EXILEにパフォーマーとして加入。2016年に橘ケンチ、黒木啓司、TETSUYA、NESMITH、SHOKICHI、AKIRAで、EXILE THE SECONDとして本格始動。舞台・ドラマ等の活動を経て、役者としても活躍中。
【書籍情報】
「REMEMBER SCREEN」
EXILE TRIBE STATIONほか、全国書店で発売中
2011年より『月刊EXILE』誌上でスタートした橘ケンチの連載の軌跡をまとめたアートブック。自身を主人公に撮り下ろした7つのオリジナルストーリーをメインに、名作映画の印象的なシーンを再現した初期連載も絵や文字、コラージュなどあらゆる手法でケンチ自身が手を加えて作り上げた新たなアートワークを掲載。
【イベント情報】
「たちばな書店」が期間限定オープン
本好きで知られる橘ケンチが、「本の魅力をたくさんの人に伝え、本を通して様々な価値観に触れることができる“場所”を作りたい」という思いでスタートしたプロジェクト「たちばな書店」。『月刊EXILE』の連載でおすすめの本を毎号紹介するとともに、『EXILE mobile』でも「たちばな書店」がオープン。
その「たちばな書店」が、期間限定で実際の本屋として登場。橘ケンチ自身が選書した本と、「たちばな書店」に投稿された本の一部を紹介している。
三省堂書店池袋本店×たちばな書店
■場所:三省堂書店 池袋本店 書籍館4階イベントスペース
■期間:2017年12月15日(金)から12月28日(木)まで
■時間:10:00~22:00
八重洲ブックセンター本店×たちばな書店
■場所:八重洲ブックセンター本店 8階特設会場
■期間:2018年1月30日(火)から2月11日(日)まで
■時間:平日10:00ー21:00/土・日・祝日10:00ー20:00
※2/3(土)のみ、お渡し会開催のため、16:00で閉場いたします。
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顔のこわさに定評のある編集者。広域指定編集業。著書に、同世代のクリエイターたちに「今の死生観」を聞いた「何歳まで生きますか?」(パルコ)がある。幼少期に読んだ「とどろけ!一番」の影響で、物心ついたときから「右手に鉛筆・左手に消しゴム」というスタイルで勉強してました。