白ゆりのような女の子
ガビン 3巻最大の問題作です。
菅 最初の絵からしてすごい。
ガビン お父さんの美しい思い出の中に白ゆりのような美少女がいて、その写真を撮りにタイムマシンを使うという話です。しかし3巻には家族の歴史とタイムトラベルというのがほんとにたくさん詰め込まれていますよね。
菅 タイムマシンで時代をさかのぼって、関わっていくというのが。
ガビン 異様に多い。ネタバレですが、オチを描いてしまうと、その思い出の美少女が、タイムマシンで訪れたのび太だったという話。衝撃的ですよね。
菅 これ父親との話なので、子供の時のお父さんがのび太にそっくりだということとか、さりげなく出てるんですよね。髪を坊主にしたら気が付かれないとか。あと、世代的に、戦中の話になっていたりとかも面白い。
ガビン 昭和20年6月10日という設定。つまり最後の東京大空襲と敗戦の間の、疎開先の話ってことになりますよね。ちなみにF先生は昭和8年生まれなので、のび太のお父さんと同じ世代ってことになる。そう考えると、ますます味わい深い話だと思います。
おはなしバッジ
ガビン 物語ごとにバッジがあって、ある物語のバッジをつけるとそのおはなし通りのことが起きるという道具です。
菅 これは、例えば「ももたろう」をみんなが知っていて、ももたろうで起きたこととマンガで起きることとの対応関係を楽しむってことですよね。他の昔話もそうですけど、ここと、ここがリンクするんだ!っていう面白さ。
ガビン みんなが知っている普遍的な話、ということになるとももたろう、花さかじいさん、うらしまたろう、あたりになる。そしてうらしまたろうの話で玉手箱らしきものをもらって、「あけるとおじいさんになるのかな?」といった瞬間に、孫のセワシくんがやってきて、実際におじいさんになるというのきれいなオチ。
菅 うまいですよね。
ガビン きれいなオチですよねえ。箱あけて、お誕生ケーキみたいなの出てるけど、これも年をとったことにかかってるのかな。
菅 現実世界に物語の展開がやってくるの面白いですよね。
ガビン あと、F先生が、カメオ出現してるんですよ。喫茶店でサボってる。
菅 ほんとだ!
ペロ! 生きかえって
菅 これも時間の話ですけど、かなり倫理的にも、ありなのか、みたいな。かなり……。
ガビン しずちゃんの愛犬ペロが病気でなくなって、それを亡くなる前の時間に移動して治してしまうという……タイムマシンの倫理的に完全にアウトですよね。しかも未来の薬をつかっている。
菅 どんな病気にも効くくすりって。
ガビン テキトーすぎる(笑)。
菅 実際に生き返らせちゃってるのはかなり……。
ガビン あと小ネタだけど、すごい驚いたのが、タケコプターの使い方。警官を追い払うためにタケコプターで強制的に飛ばすっていう。こんな暴力的な使い方できるんだなあって。
まとめ
ガビン 3巻、ひとつひとつ見ていくとなかなか濃い内容でしたね。特に印象に残ってるのはどれですか?
菅 好きなのはのび太ランドなんですよ。完全に子供の夢を果たすっていうのが。
ガビン これは空想の世界への入り口を開いちゃうなあ。
菅 あとは、ドラえもんらしい話として面白かったなあ。
というのは1話の「あやうし! ライオン仮面」ですね。象徴的だなと思ったんです。未来と現実のつながりとか、時間を巻き戻したりすすめたりとかすると、こんなことが起きるんだ、こんなことができるかもしれないんだ、っていう。話の構造が象徴的だなと思って面白かったですねえ
ガビン 3巻通して、この主題が変奏されますね。
菅 未来はかえられるって話ですからね。
ガビン だけどタイムマシン使った話、これいまやるとだいぶ矛盾を突っ込まれたりするのかな? ドラえもんを読んでいて思うのは、このいい加減な感じが心地いいなと。世間のイメージよりもだいぶゆるゆるなんじゃないでしょうかね。整合性はわりとどうでもいい。
菅 ああ〜。
ガビン 物語を読んでるっていうより、同じメッセージを繰り返し受け取っているような。
菅 これはいい話だから読もう、とかそういうことではないですね。そういうマンガもあるとは思いますが。
菅俊一(すげしゅんいち)研究者 / 映像作家 / 多摩美術大学美術学部統合デザイン学科専任講師 1980年東京都生まれ。人間の知覚能力に基づく新しい表現を研究・開発し、様々なメディアを用いて社会に提案することを活動の主としている。 / 伊藤ガビン(いとうがびん)マンバ通信編集長。